第30話 仮面の魔物使い

 ビッグゴブリンの群れが出没している場所は、どうやら俺とユララが最初にゴブリンを討伐した森らしい。ユースラ最初の冒険の地が、ユースラ最後の冒険の地にもなるわけだ。ちょっとした奇縁だな。


 その森はユースラから二時間ぐらいの場所にあり、俺はユララ、トテトテ、カプーヤを連れながら歩いていた。自分よりもレベルの高い不審者を連れていくのかは悩みどころではあったのだが、人数が増えるメリットを考えると多少の我慢は必要だろうという判断だ。


 俺はその不審者に話しかけた。


「それで、結局どうして俺とパーティを組みたいんだ?」

「理由は言えませんが、決して後ろ暗いことはありません!」

「後ろ暗い理由があるやつはみんなそう言うんだ。壺は買わねえからな」

「売りませんよ!?」


 俺は内心でため息をついた。そもそもにして三人という人数が良くない。


「三人パーティってのは良くねえ。二人だったら俺の決定権は半分だが、三人だと過半数を他人に取られている訳だからな。そういうのは自由じゃねえ」

「別にあたしはジンがリーダーで構わないわよ」

「カプちゃんもユツドーさんがリーダーで大丈夫です」


 俺は顔をしかめた。それはそれでリーダーの選択という重圧がのしかかってきて嫌なのだ。だが背に腹は代えられない。


「よし、今から俺がリーダーだ。俺の決定に従ってもらうぞ。従うという意味が分かるか? 俺たち三人で仙台へ旅行に行ったとする、仙台と言えば牛タン、お前たち二人は牛タンの気分になっている。だが俺は全国どこにでもあるサイゼに行きたい気分だ。そういう時にサイゼに行くのがリーダーに従うってことだ」

「センダイ? の例えは分からないけど、王都に行った時にモチョチョックスを食べずにトピベダムを食べに行くってことよね? 別に構わないわ」

「ディズレンでドテンヌヌォネを食べずにセイントデラックスハンバーグを食べるって例えですよね? カプちゃんもそれでいいですよ」

「……そうだ」


 なんだそれ全部食べてみてえと思ったが、話がややこしくなるので俺は渋々頷いた。


 とにかく暫定で俺がリーダーであることは決定した。俺が楽できるようにユララとカプーヤをビッグゴブリンに突っ込ませるか。俺と同レベル帯のユララに俺よりもレベルの高いカプーヤ、この二人なら苦戦することもあるまい。


 トテトテが「キュポッ」と鳴いて甘えるようにぶつかってくるのを上手く受け止めながら歩く。それを見たカプーヤが感心したような声を上げる。


「それにしてもよく懐いてますね。キュポポチョウがそんなに懐くなんて珍しいですよ」

「そうなのか?」

「ええ、本来は警戒心の高い魔物ですからね。スパクア教では聖鳥として崇拝の対象とされるキュポポチョウですが、人前には滅多に姿を現しません。それが子供とはいえこんなに懐くなんて」


 まあ野鳥の警戒心が強いのはそれはそうかって感じもするな。トテトテは俺と同じぐらいの身長だが、丸い体型をしているので横幅が大きい。擦り寄ってくると押しつぶされそうになるので難儀する……今カプーヤが聞き捨てならないこと言ってなかったか?


「子供って言ったか? このでけえのが子供?」

「ええ、そうですけど。『勇者の冒険』を読んだことが無いんですか? 勇者のお供のキュポポチョウは背中に勇者たちの家を背負いながら歩いたとか」

「ジン、全然あたしの話を聞いてないじゃない!」


 ユララが憤る。確かにユララは勇者パーティの話をちょくちょく語っていたが、大体聞き流していた。そんなデカい鳥のエピソードなんてあっただろうか。


 トテトテを見ると「キュポ?」と小首を傾げていた。可愛い。このでっかいシマエナガのような鳥がそのうち超でっかいシマエナガになってしまうわけか。食費が気になるところだが、まあ大きくなってから考えるか。



 話しているうちにビッグゴブリンの群れがいるという森まで辿り着いた。少し悔しいが、こういう時は三人旅の優位性を感じる。喋ってるだけであっという間に目的地に着くからな。


 トテトテを小さくして肩に乗せ、三人で息を殺しながら道を進む。やがて前回来たゴブリンの住処の前に、数匹のビッグゴブリンがたむろっているのが見えてきた。ビッグゴブリンだけではない、何かボロ切れのフードを被った小さな魔物も見えた。


 なんだ? 魔力を高めて視力を良くする。数十メートル離れた木陰から観察していると、ふと小さな魔物がこちらを見た。顔が見えたことで、ようやくその魔物が仮面を被っていることに気付く。


 仮面の魔物はこちらを向いたままだ。じっと静止している。まさかこちらに気付いたのか?


「ギギギ、冒険者の方々ですね? 少しお喋りをしやせんか?」


 俺たちは顔を見合わせた。喋ったのは俺たちではない。あの仮面の魔物のようだ。いや、ビッグゴブリンと一緒にいたからてっきり魔物だと思っていたが、喋ったということは人間か。俺だってトテトテを連れているのだ。決しておかしいことではない。


 アメリア曰く、魔物を扱う魔法が得意な者は魔物使い、だったか。


 どうするの、とユララがアイコンタクトしてくる。カプーヤは何か難しそうな顔をして考え込んでいた。


 仮面の魔物使いがどうしてこんなところでビッグゴブリンたちを引き連れているのか。それが分かるまでは一方的に攻撃する訳にはいかない。俺は相手に姿を見せると、手を挙げて攻撃の意思がないことを伝えながら歩いた。ユララとカプーヤも後ろからついてくる。10メートルほどの距離まで近づいてから名前を名乗る。


「湯通堂ジン、冒険者だ」

「ギギギ、あっしはギャラゴ。魔物使いでさあ」


 後ろからカプーヤが小声で囁いた。


「ユツドーさん、これ、思ったよりもヤバい事態かもしれません」

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