第2話 LPレコード
「痛てててててて…クソ、まだ痛てーよ…」
涼介は自宅でゴロゴロと横たわっているのだが、特にすることもなく時間を持て余していた。
「アメリカンドッグでも買いに行くか…」
タンスの方へ寝返りをうつと、隙間に何かが挟まっている。
「なんだ、ありゃ?」
気にはなる物のアメリカンドッグが食べたいのでとりあえず、セイコーマートへと歩いていく。
アメリカンドッグを2本買い、ケチャップを多めにもらって、家に帰る途中。
「涼介!またやられたんか?」
近所のおっちゃん、小さなころから良く面倒を見てもらった人である。
「はい。もう、全身が痛くって…」
「じゃあ、身体が治ったらうちのエアコンの掃除、頼めないかな〜?」
「いいっすよ!今度、お邪魔させてもらいます」
ペコリと頭を下げた。
家で大好きなアメリカンドッグを平らげ、ふと、タンスに挟まっていた物の事を思い出す。
「お金だったりしたら、小遣い増えるぞ!」
アメリカンドッグの棒を差し込んで取ろうとするが、届きそうで、届かない…ムキになった涼介は、台所に行ってさいばしを持ってくる。
「後、もう少し…やけに重いな」
引っ張り出すとそれは「レコード」だった。
それも「LPレコード」。
「レコードって初めて見たな〜意外と大きいな」
レーベルを見てみると
「れ、れっど、うーん、なんて読むんだ?」
「ツエッペリン、レッド・ツエッペリンだよ!」
長距離運転手が生業の親父が久しぶりに帰って来た。この親父は小さなころから家にいる時間が少ないのだが、帰ってくると俺と全力で遊んでくれた。喧嘩をしても笑って許してくれるのだが、何故喧嘩になったのかを話し合い、悪い所は悪いと真剣に鹿ってくれる俺の大好きな大人だ。
「お帰り、親父!」
「おお!ただいま!それにしても、なくしたと思っていたが、あったか!よかった!懐かしいな!」
「親父、レッド・ツエッペリンって、何?」
「ああ、お前らの世代だと知らないか?」
「うん。」
親父は土産を机に置き、煙草に火を点け一息つく。ついでにビールも一口、ぷふぁ〜、ウメ—!と叫んだあとに思い出話をしてくれた。
「昔、ハードロックってジャンルの音楽が一世風靡していた時代があってな、レッド・ツエッペリンはその筆頭格の伝説のバンドだったんだ。」
親父は帰ってきて疲れているはずなのに、レコードを見たおかげで、元気になっている。
「俺はな、そんなツエッペリンに憧れて、バンド活動してた時代があったんだ。」
「それって、いつ頃の話なの?」
「母さんとの出会いもこの頃だったな〜」
「あの頃は、髪も長くして真似したもんだ。」
「今はないのに?」
「若い時は、あったの!」
「このレコード、聞けないの?」
「プレーヤーがないからな〜」
「親父、このレコード借りていい?明日、古道具屋の明石のおっちゃんに聞けるかどうか聞いてみるよ!」
「おお、わかった。けど、注意しろよ。レコードってのは、割れやすいんだ。」
涼介は慌てて、そっと持ち直した。
次の日。
「よう!今日、学校終わったら明石のおっちゃん所に行こーぜ!」
雅也が「何か面白いものでもあんのか?」
「ジャーン!」
LPレコードを取り出すと、自慢げに見せつけた。
透が「おっ、レコードじゃん、持ってたの?」
「親父のなんだ。」
「何か、すっげー音楽らしいから、聞きに行こーぜ!」
「早く学校、終わんねーかなぁ」
やっと今日の授業も終わり急いで校門を出ようとすると、
「お前ら、もう帰んのか?」
新井先生の声が響いた。反射的に直立不動になる4人組。
新井が面白半分に竹刀を振りかざした瞬間に
「せ、先生、レコード、レコード!」
「レコード?嘘つけ!」
「本当です!ホラ!」
「何でそんなもん、もってんだ?まさか、お前ら…」
「ち、違います!親父のなんです!これから明石のおっちゃんの所に行って聞けるかどうか確かめに行くんです!」
「そうか、そうか、すまんかったな!気をつけろよ!」
新井先生に見送られながら、すすきのめがけて歩いていると、
「だめだったら、俺に声をかけろよ!俺はプレーヤー持ってんだ!」と新井先生の声が聞こえた。
すすきのの古道具屋に着き
「こんにちは!明石のおっちゃんいる?」
「おっ、どうした?金ならねーぞ!」
俺達は手のひらをぶんぶん振りながら
「ちがう、ちがう!これ見てよ!」
レコードを取り出すと、明石のおっちゃんが喜びながら、
「れ、レッド・ツエッペリン!」
「これ、聞ける?」
「おう、任せとけ!」
「最高のコンポで最大ボリュームで聞かせてやらぁ」
古道具屋はレコードに針を落とした…
「レッド・ツエッペリン!僕、YouTubeで見た事あります!」
「僕らの時代はネット環境がない時代だからね」
「今では何でもネット、ネット!ネットがなくなりゃみんな、死ぬな!」
「確かに!」と大声で笑う。
「マスター、ビールもう一本!」
「あいよ!餃子もつけちゃおう!ウチの餃子は美味いよ!」
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