聖夜の悪魔

結城 優希

聖夜の悪魔

「お母さん、いってきま~す!」


『気を付けるのよ~。』「は~い。」


 今日は児童館のクリスマス会だ。だけどその前に小学校で勉強をしなきゃいけない。


 せっかく楽しみにしていた今日がきたのに5時間目の授業が終わるまでお預けされる事実に私はひどく憂鬱だった……


「はぁ~学校なんて早く終わらないかなぁ~」『本っ当にそうだよね。学校さえなければ朝からクリスマス会できるのにね。』

 

 まる1日クリスマスをしようとしてる娘が私の大親友のアヤネちゃん。とっても優し……


『はぁ学校なんてなければいいのに………いっそ燃やしてしまおうかな。』


「え?」『いや、なんでもないよ。』


 なんだかとっても物騒なことを言ってる気がしたけど大親友が何でもないって言ってるんだから、ほんとに何でもないことだったに違いないよね、うん。


「あ、うん………もう学校着くし諦めて気持ち切り替えよ?」『うん、そうだね。』


 学校に着くといつも通りの学校生活が今日も始まる


『やっぱり学校の中は温かいねぇ』「今日も………ない。」


 今日もいつも通り上靴がなくなっている。でも犯人は分からない……巧妙だ。


『一応聞くけど何がないの?』「私の上靴がないの。まただ………なんで………誰が………」


『あ〜またか〜でもここで考えてたって上靴は見つからないし、一緒に探しに行こっか。』


「う、うん………」


『とりあえずスリッパ履きなよ。靴下汚れちゃうし。』「ずっと靴下でいるのもアレだしね。」


『よし、さっそく探していきますか!』「うん!」『とりあえずあっちの方行ってみよ?私の勘があっちにあると言ってる!』「不安だなぁ……」



『にしても全然見つからないねぇ~今日は私の勘が上手く働かないし……』「今日"も"でしょ。まぁ特にここにありそうって場所も特にないしねぇ〜」


『ん?アレは……あァァァ!ねぇ!アレじゃない?』「あ、あったーーー!!ありがとうアヤネちゃん!!」


『そんな………気にしないで!私とミクちゃんとの仲じゃん!!友達が困ってたら助ける。当然のことだよ。』


「アヤネちゃん………」『あれれぇ~?ミクちゃん、泣いてるのかなぁ~ん?』


「泣いて………ないし!」『あれれれ〜?おかしいなぁ〜目元が真っ赤だぞ~』


「やめてって!からかわないで!」『ごめんごめん、ちょっとからかいすぎちゃったかな?』


「アヤネちゃんの意地悪………もう、嫌い!!」『ごめんってばぁ~あ、ちょっと1人で先行かないでよぉ~』




放課後の児童館にて………


 会場は明るい雰囲気に包まれ、ミクもアヤネちゃんも楽しくすごしていた。


「ねぇアヤネちゃん!」『ん~?』


「色々あったけど今日も楽しかったね!」


『上靴隠されたり机に落書きされたり水ぶっかけられたり体操着をズタボロにされたりしてたのを色々あったで済ますのは流石にどうかと思うよ?ミクちゃん………』


「あぁいうことをされるのは悲しいし、腹も立つよ?それに、この前アヤネちゃんから"学校はろくな対応してくれないから相談するだけ無駄だ"って話を聞いてからは特に……誰も助けてくれない……私に味方なんていない……そう思うことも正直あったよ……」


『じゃあなんで……』

 

「でもね、アヤネちゃん。私にも味方がいるんだって!アカネちゃんがいるから……お母さんやお父さんがいるから……1人じゃない……そう思えるんだ!だから私は大丈夫!」


『急になにさ~照れるじゃ~ん。』


「いつもありがとね、アヤネちゃん。」

(今日までのあの子に優しくした甲斐があったよ。)

『────────────────────────────────────────』

(あの子の顔が絶望に歪むのが楽しみだ。)

 

「ん?なんか言った?」


『クリスマス会楽しみだねって言っただけ!』


「うん、楽しみ!」



 だが、プレゼント交換の時間になると、ミクは表情をくもらせていった。


 みんながプレゼントをテーブルの上に出したとき、ミクだけは何も出さなかった。否、出せなかった。


 ミクは、ときどきみんなの様子を気にしながら、自分の手さげバッグのなかを手さぐりしたり、のぞき込んだりしていた。なかったのだ……用意しておいたプレゼントが……


 そんな私に、となりにいたアヤネが心配そうに声をかけた。


『どうしたのミク、あれ?プレゼントは?』


「おかしいな……」


(プレゼントがない……なんで……)


『もしかして、忘れちゃったの?』


(違う、忘れてなんかいない!学校で何度も確認したんだ!プレゼント忘れずに持ってきているかを……)


 私にはその問いに答えることなどできなかった。


 荷物のなかをさぐっていた手を止めてうつむき、しばらく黙ったかと思うと、声をおさえて泣き始めた。小さい肩が、静かに揺れていた……


 そして、それを見守るアヤコの口元は……


 醜く、つり上がっていた……


 子供は無邪気だが時に計算高く、そして残酷だ………



 


――――アヤネside

 

『お母さん、いってきま~す!』


「………………。」


(これが私の日常だ。お父さんはとうの昔に蒸発、残されたお母さんは次第に変な宗教にのめり込んでいったんだ……私はお母さんを止めようとした。でも……お母さんはすでにおかしくなっていた……お父さんが蒸発した時から……)


(私はただ、普通の日常が欲しかった……だけどもう私がそれを手にすることはできないだろう……)

 

(だから私は……なに不自由なく生き、私に笑いかけてくるあの子のことが──────。)


 今日は児童館のクリスマス会だ。だけどその前に小学校で勉強をしなきゃいけない。


 せっかく楽しみにしていた今日がきたのに5時間目の授業が終わるまでお預けされる事実に私はひどく憂鬱だった……


「はぁ~学校なんて早く終わらないかなぁ~」『本っ当にそうだよね。学校さえなければ朝からクリスマス会できるのにね。』


『はぁ学校なんてなければいいのに………いっそ燃やしてしまおうかな。』


「え?」『いや、なんでもないよ。』


「あ、うん………もう学校着くし諦めて気持ち切り替えよ?」『うん、そうだね。』


 学校に着くといつも通りの学校生活が今日も始まる


『やっぱり学校の中は温かいねぇ』「今日も………ない。」


 今日もいつも通りミクの上靴がなくなっている。でも犯人は見つかっていない……やはり─は巧妙だ。


『一応聞くけど何がないの?』「私の上靴がないの。まただ………なんで………誰が………」


『あ〜またか〜でもここで考えてたって上靴は見つからないし、一緒に探しに行こっか。』


「う、うん………」


『とりあえずスリッパ履きなよ。靴下汚れちゃうし。』「ずっと靴下でいるのもアレだしね。」


『よし、さっそく探していきますか!』「うん!」『とりあえずあっちの方行ってみよ?私の勘があっちにあると言ってる!』「不安だなぁ……」



『にしても全然見つからないねぇ~今日は私の勘が上手く働かないし……』「今日"も"でしょ。まぁ特にここにありそうって場所も特にないしねぇ〜」


『ん?アレは……あァァァ!ねぇ!アレじゃない?』「あ、あったーーー!!ありがとうアヤネちゃん!!」


『そんな………気にしないで!私とミクちゃんとの仲じゃん!!友達が困ってたら助ける。当然のことだよ。』


(この虐めをやっているのが─だと気付いた時、あなたはどんな表情を見せてくれるの?)


「アヤネちゃん………」『あれれぇ~?ミクちゃん、泣いてるのかなぁ~ん?』


「泣いて………ないし!」『あれれれ〜?おかしいなぁ〜目元が真っ赤だぞ~』


「やめてって!からかわないで!」『ごめんごめん、ちょっとからかいすぎちゃったかな?』


「アヤネちゃんの意地悪………もう、嫌い!!」『ごめんってばぁ~あ、ちょっと1人で先行かないでよぉ~』


(今日でやっとこいつとの──────も終わる。)



放課後の児童館にて………


 会場は明るい雰囲気に包まれ、ミクもアヤネも楽しくすごしていた。


「ねぇアヤネちゃん!」『ん~?』


「色々あったけど今日も楽しかったね!」


『上靴隠されたり机に落書きされたり水ぶっかけられたり体操着をズタボロにされたりしてたのを色々あったで済ますのは流石にどうかと思うよ?ミクちゃん………』


(こいつはいつも楽観的だ……だからこそ私はこいつのことが嫌いだ。)


「あぁいうことをされるのは悲しいし、腹も立つよ?それに、この前アヤネちゃんから"学校はろくな対応してくれないから相談するだけ無駄だ"って話を聞いてからは特に……誰も助けてくれない……私に味方なんていない……そう思うことも正直あったよ……」


『じゃあなんで……』

 

「でもね、アヤネちゃん。私にも味方がいるんだって!アカネちゃんがいるから……お母さんやお父さんがいるから……1人じゃない……そう思えるんだ!だから私は大丈夫!」


『急になにさ~照れるじゃ~ん。』


(あぁ早くこいつをどん底にたたき落としたい。)


「いつもありがとね、アヤネちゃん。」


『今日までのあの子に優しくした甲斐があったよ。あぁ……あの子の顔が絶望に歪むのが楽しみだ。』

 

「ん?なんか言った?」


『クリスマス会楽しみだねって言っただけ!』


「うん、楽しみ!」



 だが、プレゼント交換の時間になると、ミクは表情をくもらせていった。


 みんながプレゼントをテーブルの上に出したとき、ミクだけは何も出さなかった。


(そうだよね、プレゼントを出せるわけがないよね。だってミクのプレゼントは……私が捨てたんだから……)


 ミクは、ときどきみんなの様子を気にしながら、自分の手さげバッグのなかを手さぐりしたり、のぞき込んだりしていた。なかったのだろう……用意しておいたプレゼントが……


 そんなミクに、となりにいたアヤネが心配そうな顔を作ってから声をかけた。


「どうしたのミク、あれ?プレゼントは?」


「おかしいな……」


「もしかして、忘れちゃったの?」


(忘れていない、こいつは確信しているんだろうな。こいつは学校で何度も確認していたんだから……プレゼント忘れずに持ってきているかを……)


 荷物のなかをさぐっていた手を止めてうつむき、しばらく黙ったかと思うと、声をおさえて泣き始めた。小さい肩が、静かに揺れていた……


(あぁその表情……最高だ。後は仕上げを残すだけ……)


 子供は無邪気のようだが秘密を抱え、ある時冷酷に牙を剥く………



 


「…………ないもん」『ん?』「忘れてないもん!」『じゃあなんでないんだろうね。』


「上靴みたいに誰かに隠されたりとかかなぁ……」『勘がいいねぇ〜でも惜しいなぁ〜ミクちゃんのプレゼントは隠されたんじゃないんだ〜』「え?どういうこと?」『ミクちゃんの持ってきたプレゼントは捨てられたんだよ。』


「なんでアカネちゃんがそんなこと知ってるのさ!」『ここまで言っても分からないの?はぁ……どんくさいなぁ。』


 アカネは心底呆れたような顔で戸惑うミクにこう告げた……


『なんでって私が捨てたからに決まってんじゃん。』


「でも……アカネちゃんは私の友達で……」


『ハハハッあんなの演技に決まってるでしょ。私はねぇ、あんたのことが大っ嫌いなんだよ。あぁこれであんたとの仲良しごっこから解放されるのかぁ〜感慨深いものがあるわ〜なんてね』


「なんで……そんな……」


『私はあんたの同情が……なに不自由なく生きて……私の辛さも分からないのに"大変だねぇ"とか"辛いねぇ"とかの慰めの言葉に吐き気がするんだよ。何も知らずに同情して……慰めてあげてる自分に酔ってるあんたが大っ嫌い!』


「…………っ」


『だからお前を絶望させると決めた。そのためにお前とも仲良くなって馬鹿な男子共を使ってお前を虐めさせた。そうやってお前を私に依存させていった。そんなお前は滑稽だったよ。お前なんかと仲良くするのは反吐が出るけど事実を知ったお前の顔が歪むのを想像してたえたんだ。全てはこの日のためだ。』


「あ゙ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 この日、1人の少女の冷酷な牙は1人の心を壊した……

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