有名な双子美少女の姉から罰ゲームで告白された俺。懲りずに妹の方も告白してきたけど、また騙されるほど俺は馬鹿じゃない。

ヨルノソラ/朝陽千早

プロローグ

 俺──神田騎士かんだないとは、極めて普通などこにでもいる高校生だと思う。


 陽キャラというほど明るさや社交性はないし、陰キャラというほど目立つのを嫌ったり会話が不得意なわけでもない。

 友達も困らない程度にはいるし、勉強も運動も人並みにはできる。これといって得意なことはないけれど、不得意なこともない。ありふれた学生の一人だ。


 ただ、俺には他とは大きく違う点が一つある。


 すでにお気づきかもしれないが、それは俺の名前だ。


 『騎士』と書いて『ナイト』と呼ぶキラキラネーム。


 どうにも俺の両親は頭がお花畑なようで、困った名前をプレゼントしてくれやがった。ちなみに妹は『ティアラ』だ。


 普通の名前をもらった諸君はこのハンデの大きさがわからないだろうから、実際に俺の経験談になぞっていくつかエピソードを話していこうと思う。


 一つ目、初見時に名前を間違えられる。

 騎士と書いてあるのを、いきなり『ナイト』とは呼ぶ人を俺は見たことがない。


 100発100中で名前を間違えられるので、当然、俺は「すみません、ナイトって言います」と訂正しないといけない。これが何気に地獄だ。変な目で見られるからな。


 二つ目、やばいやつだと思われる。

 キラキラネームだと、それだけで危ない人だと誤解されやすい。俺はまだキラキラネーム界隈ではマシな方だけど、それでも色眼鏡で見られることは少なくない。


 友達作りには人一倍苦労している自負がある。


 そして三つ目、ああこれはそう……ちょうど今現在の話だ。


「プッ、あははははは! ドッキリに決まってんじゃん! 本気であたしと付き合えるって思ったっ? ナイトくん」


 放課後の体育館裏。

 割れんばかりの大笑いをしながら、彼女──初音紗香はつねさやかは俺の肩をポンと叩いた。


「え、えっと……」


 事態が飲み込みきれず、戸惑い気味に口を開ける俺。


 ちょうど今さっき、俺は彼女から告白を受けたばかりだった。


 告白されたのは初めてで、有頂天になった俺は二つ返事で了承した。

 すると返ってきたのは、この大笑いと侮蔑を含んだ視線。


「おいおい笑いすぎだよ紗香。ナイトくんがかわいそうじゃん」


「えーだってぇ……でもさぁ罰ゲームで嘘告させるって決めた大輝だいきのがひどくない?」


 呆然とする俺をよそに、続々と人が集まってきて俺を笑いものにする。


 どうやら、俺への告白は罰ゲームだったらしい。

 何も知らない俺は本当に告白されたと舞い上がっていた。その様子が面白かったのか彼らの爆笑を誘っていた。


「あーごめんねナイトくん。俺らの悪ノリに付き合わせちゃって。もう戻っていいよ」


 必死に気持ちを抑えながら、何も言わずこの場を後にする。


 もし、俺がキラキラネームでなければ罰ゲームの標的にはされなかったと思う。

 でも、俺はキラキラネームだから……こう言った時に白羽の矢が立って馬鹿にされてしまう。


 常々思う。

 俺は大変なハンデを背負っていると。


「……嫌になるな、ったく」


 青い空を見上げながら、俺は重たく息をこぼした。

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