ファーストトライで階層主を!?
解体を終えた後、僕は迷った末に帰ることに決めた。
「よし、じゃあ八磨。帰ろうか」
「え、帰るんですか?」
僕はピジョンマンの血で汚れた靴を草原で軽く拭きながら頷く。
「思ったよりも荷物が多くなったからね。ほら、この箱もう殆ど一杯だよ」
全く、例の超高級な物理法則を無視して入るバッグ的なのを買いたくなるね。それか、ポーターを雇うのでもいいね。
「でも、まだちょっと入りますよね? 重さ的にも二階層いけるんじゃないですか?」
「行けはするよ。でも、この容量じゃ二階層で捨てなきゃいけない素材が出てくるよ。別に、まだ時間はあるから素材を売ってからまた来ればいい」
「うぅ、いいですけど、なんかちまちましてて嫌です……」
うるさいなぁ。冒険者ってそもそもそういうものだろ。
「じゃ、帰るよ」
「はい……」
今度からは八磨にも箱を持ってこさせよう。
♢
地上に帰ってきた僕達は直ぐに冒険者協会の素材買取窓口へ向かった。
「はい、次の方どうぞ」
素材買取窓口だが、ここで素材を出す必要は無い。というか、出してはいけない。代わりに買い取ってほしい素材の魔物の名前を言えばいい。
「一階層、階層主。ピジョンマン。売却で」
僕は冒険者免許をカウンターに置きながら言った。八磨もぽいと免許を置いた。
「はい、ピジョンマン……え、本当ですか?」
僕は頷いた。
「あの、お二人とも今日登録したばかりとあるのですが」
「そうだよ。あ、討伐証明になるか分からないけど……これ、報酬で貰えたよ」
受付の女に八磨から受け取った短剣を見せる。
「あ、これの鑑定も後でしようと思ってるんだけど、あそこの窓口で大丈夫だよね?」
「それは問題ないですが……確かに、この短剣は討伐報酬でもらえてもおかしくは無い物にも見えます」
ずっと認めるのを渋っている受付だが、これには理由がある。この窓口は冒険者等級を上げるための討伐証明の役割もある。基本的には認められるのだが、流石にファーストトライ……初の探索で階層主を倒してくるのは簡単に認められることではなかったのだろう。
「分かりました。それでは、ステータスカードの提出をお願い出来ますか?」
僕と八磨は大人しくステータスカードを差し出した。が、これの提出を嫌がる人も少なくはない。自身のステータスを他人に見せるのは憚られる行為なので分からなくも無いが、そもそもスキルに関してはどうせ最初のステータスカード作成時に記録されているから僕は気にしない。
と言っても、これは飽くまで最初から知られているから気にしないという話であって、赤の他人には幾ら金を積まれても見せたくない。寧ろ、金を積んでまで人のステータスカードを確認しようとする輩はどうせ碌な奴じゃない。
「……確かに、討伐は確認しました」
ステータスカードを専用の機械に取り込み、僕と八磨に返してから受付嬢はそう言った。確認しても信じきれていない様子のままなのは、些細な協力でも討伐は記録されてしまうからだ。つまり、強い奴に任せて自分は後ろから石を一つ投げるだけでもステータスカードの記録では討伐となるのだ。だから、ピジョンマンを敵対させやがったあの男もきっと討伐記録が付いているのだろう。
「まぁ、取り合えず……売却してきて良いかな?」
「……分かりました。それでは地下の買取所へどうぞ」
とはいえ、流石に討伐記録まで見せられて否定することは単なる受付嬢の一存では出来なかったのだろう。彼女は大人しく僕を売買所に案内した。
♢
地下にある買取所で素材を買い取ってもらい、短剣を鑑定してもらった後、僕たちは使ったアイテムを補充してから再度ダンジョンに向かった。因みに、ピジョンマンの素材は割と高く売れた。
「さて、ここを降りれば二階層だけど……」
僕は八磨から貰った短剣を取り出す。
「少し、試しておこう」
「お、もしかしてアレですか?」
銀色の短剣。刃に描かれた光沢のある青色の美しい紋様。
「そうだよ。事故が起こる確率は少なそうだったし、一応安全で人の助けも来やすいここで試そうかと思ってさ」
この短剣の鑑定結果はこれだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『
蒼き紋様は美しく儚く。しかし、その紋様はただ美しいだけではない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちょっと金を払っただけで見れるような鑑定ではこの程度の情報しか分からなかったが、少なくとも呪いの類はかかっておらず、危険な能力は無いらしい。
「先ずは、普通に使ってみるよ」
僕はしゃがみ、生い茂る背の低い草に短剣を振った。すると、簡単に短剣は草を切り裂いた。
「次は、能力を発動しながら使う」
鑑定士の見立てでは、蒼紋という能力は普通に魔力を流せば発動するだろうとのことだった。魔力についてだが、ステータスを獲得した際に誰しもが多かれ少なかれ魔力を得ているそうで、その操作もそこまで難しくないとのことだった。
「……こうかな」
深く意識して見れば、魔力が血液のように身体中を巡っているのがあっさりと分かった。それを、短剣へと流すんだ。いける。難しくない。
「流すよ」
念の為に八磨に伝えてから、僕は魔力を短剣に流した。
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