誰も語ることの出来ない怪談話
神木駿
鏡に映る友人
これはとある遊びの中で起きてしまった悲劇。
俺は友人と100物語のマネごとをして遊んでいた。蝋燭を百本並べて火をつける。怖い話が100個も思いつかない俺たちは西洋で悪魔の数字と言わている66分6秒の時間をかけて、火を消していくという方法を思いついた。一つの蝋燭を消す間には雑談をして暇をつぶす。俺たちは怪異が発生するのか、悪魔が呼び出されるのかなどとくだらない話をしながら、楽観的な考えで面白可笑しく蝋燭に灯る火を消していった。
そして66本目の火を消したところで部屋の中の空気が変わった気がした。閉め切った部屋のはずなのに蝋燭の火の揺らぎ方が変わる。
少しヤバいんじゃないかと俺は思った。しかし体に異変が起きるわけでもなく、怪しい物音が聞こえるわけでもない。友人はビビり過ぎだと俺を見て笑みを浮かべる。その笑みにムカついた俺は友人に対して虚勢を張る。今思えばこの時点で止めておけばよかった。そうしておけば、この先に起きることを体験せずに済んだかもしれない。
90本目を消したあたりから部屋の中はずいぶんと薄暗くなっていた。壁際にある鏡に火の消えた蝋燭が、他の蝋燭の灯りで薄っすらと映る。俺の姿はもう殆ど見えていなくなっていた。
91…92…93、ゆっくりと俺たちは火を消していく。この先、起きることへの覚悟を決める時間が迫る。
94…95…あと6本の蝋燭が俺の前で火を灯す。
96…97…98…友人もワクワクが堪えきれない様子で1つずつゆっくりと火を吹き消す。
99…100。友人は全ての火を吹き消した。そのはずなのに俺の目にはもう1つ揺らぐ火が見える。
「おい。1つ消し忘れてるぞ」
俺は友人に火が残っていることを指摘する。
「いや、もう残ってない。この部屋は真っ暗だ。火があればお前の顔もよく見えるはずだろ?」
友人は手を広げて床にある蝋燭を見ろという仕草をする。確かに数は数えてたしこの暗さでは相手の顔など見えるはずもない。
では、どうして俺には友人の顔が見えているのだろうか。そこで俺は気づいてしまった。もう1つの蝋燭が揺らいでいるのは鏡の中。目の前にいる友人の顔が鏡の中に映っている。
おかしい。俺は背筋が凍りつき、顔から血の気が引いていく。友人は鏡に背を向けていて、鏡の中に顔が映ることはない。
鏡の中で薄っすらと笑みを浮かべながら、俺の方を見る友人は何かを言っている。蝋燭の火で口もとが灯される。
「ア・リ・ガ・ト・ウ。オ・レ・ヲ・ダ・シ・テ・ク・レ・テ」
音として聞こえない唇の動きに俺はゾッとして部屋を飛び出した。あれは確実にこの世にいちゃいけないものの笑みだった。
友人は俺の異変に気づいて追いかけてくる。
「おい。どうした」
友人は俺の顔を心配そうに覗き込む。今目の前にいるのは俺の友人。疑いようのない事実。それだけは確認しておけばよかった。
だけど、その時の俺は「ヤバい…ヤバい…」と言う言葉を繰り返し、語彙を絞り出すことすら出来ない。
「とにかく一度顔を洗え」
友人は俺を洗面所へと連れて行く。
そこで俺は判断を間違えたことを悟る。一刻も早く家の外へ出るべきだった。俺は顔を洗い、鏡に映る自分を見る。
その鏡の中には友人も映り込んでいた。そう…蝋燭で灯された笑みと同じ笑みを浮かべる友人が映り込んでいたのだ。
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