戸塚剣は何も斬らない

みやこ

プロローグ 災禍



 2008年5月7日 午後11時00分23秒

 M県K市A町沖合に結界の構築が完了


 午後11時18分20秒

 早川跳躍ワープ、能力使用。


 午後11時18分21秒

 M県K市A町沖合N灘結界内に、5分間、炎上の言霊 発言。

 以下、挙動記録。


 発言直後、能力発動


 結界内の全ての女性覚醒者が体内から出火し焼死する現象を発生させる能力を確認。

 以下死者

 伊座奈美いざなみ 大島八島おおしまやしま 大場希良々おおばきらら 軽沢不破理かるさわふわり 佐藤冥歌さとうだーくそんぐ 瀬戸雷夢せとさんどりむ 盾盾子たてじゅんこ 鶴瀬邪神つるせさたん 寺沢天使てらさわてんし 七海愛利水ななみありす 遙彼方はるかかなた 比留間蛭子ひるまひるこ 水瀬露覚理みなせさとり 叢雲剣むらくもつるぎ 森林子もりはやしこ 唯一無二ゆいいつむに 夜見好多有よるみすたあ 渡辺真凛杏奴わたなべまりあんぬ 和田織美明わだおりびあ


 結界一部損壊。結界外の一部地域に火災が発生する能力を確認。

 以下死者

 相川ケイイチ 相川ヒロコ 相川マリ 青野ガク 青野タツヤ 青野ミユ 青野リン 安部ハルキ 天城チサト 天城ジュン 飯田ヨウイチ 五十嵐アキ 五十嵐ナオコ 五十嵐シンジ 板垣ジャスティン 稲井レイ 宇津木ダイスケ 宇津木アイ 江崎シンタロウ 大井カレン 大井マキオ 大井リキヤ 尾田ノブナガ 鬼塚ケイゴ ……


 午後11時18分25秒 覚醒者総員同時攻撃開始


 午後11時18分30秒 炎上の言霊に損傷は確認できず


 午後11時18分32秒 結界内の気温を一兆四千度まで上昇させる能力を確認

 以下死者

 朝比奈白夜あさひなびゃくや 浦島金時うらしまきんとき 江頭弩羅艮えがしらどらごん 遠藤椎醒亜えんどうしいさあ 【削除済み】 【削除済み】 【削除済み】 鏡界斗かがみかいと 清川絆琉きよかわきずな 霧ヶ峰必殺奥義きりがみねひっさつおうぎ 来島皇帝くるしましーざー 毛塚頼音けつからいおん 郡絶対零度こおりぜったいれいど 佐藤男さとうあだむ 斉藤奇跡さいとうみらくる 獅子神王我ししがみおうが 白川天響しらかわてんきょう 砂地佐曽利すなじさそり 瀬戸本気せとまじ 芹沢緑夢せりざわみどりーむ 空翔馬そらぺがさす 竪琴奏たてごとかなで 田所大陸たどころがいあ 鶴ヶ島究極つるがしまあるてぃめっと 天道輝星てんどうすたー 七海大海ななみだいかい 【削除済み】 沼地永恋ぬまちえれん 野木木星のぎじゅぴた 削除済み 東世宇須あずまぜうす 早川跳躍はやさかわーぷ 古橋煌人ふるばしきらきらと 星天翔ほしてんしょう 丸山四角まるやますくえあ 水無瀬大大みなせびっぐびっぐ 村雲剣むらくもけん 目黒白めぐろしろ 茂田現実もだりある 八島叶夢やしまかなむ 百合心愛ゆりしあ 蘭堂火星らんどうまるす 六道輪廻ろくどうりんね 渡邊世界わたなべわーるど 輪田混沌わだかおす


 午後11時18分38秒 収容センターより122名の覚醒者、言霊を一時解放、戦線増員

 午後11時18分42秒 能力発動

 以下、損傷が確認できた能力のみ記載


『核分裂能力』 全体の1%の消滅を確認。

『身体宇宙化能力による流星群』全体の3%の消滅を確認。

『小型ブラックホール投擲能力』全体の3%の消滅を確認。

『疑似ロンギヌスの槍投擲』 全体の3%の消滅を確認。

『攻撃意思消滅能力』 2発の攻撃の強制停止を確認。

『世界改変能力による存在書換』2秒間の無力化を確認。

『絶対抹殺能力による強制絶命』3秒間の死亡を確認。

『存在破壊能力による光線攻撃』200発の光線が命中し全体の9%の消滅を確認。

『四次元からの干渉能力』 全体の11%の消滅を確認。

『千年間の時間停止能力』 5秒間の動作停止を確認。

『強制物語封印能力』 7秒間の封印を確認。

『空想具現化能力による抹消』 8秒間の抹消を確認。

『現存する魔法』 全体の14%の消滅を確認。


 午後11時20分53秒 炎上の言霊、再び能力使用


 以下、確認できた能力

『回復不能な火傷を負わせる能力』『結界内の哺乳類の心臓から出火させる能力』『摂氏削除済み度の炎熱放射能力』『熱量増大による次元崩壊能力』『消火不能火炎放射能力』『攻撃範囲拡大能力』『限界を測定不能な再生能力』『能力破壊能力』『概念焼却能力』『神話再現能力』『無限エネルギー創造能力』


 死亡

【削除済み】名


 午後11時23分7秒 【削除済み】、能力使用。


 午後11時23分15秒 炎上の言霊の全体の98%の消滅および能力の封印に成功。


 午後11時23分19秒 炎上の言霊、能力使用。

 結界の破壊を確認。

 余波により半径5キロメートル圏内で大規模火災が発生

 以下死者


 午後11時23分21秒 炎上の言霊、逃走。


 死傷者(民間人含む) 906名


 以上を以て、本作戦を我々の勝利と判断する。



「……何が勝利よ」

 ため息をつきながら、七海愛海ななみあくあはスマホの画面をスリープさせる。

 読んでいたのは電子書籍、ではない。報告書だ。創作ではなく現実に起きた最悪の『言霊災害』。自分の両親を含む、数多の人の命が消えたことを記したデータである。

 この大量殺戮が行われてから、もう十年が経つ。世界の形は大きく変わり、人の生き方も流転していった。それは表も裏も変わらない。科学万能の光の世界と、人外渦巻く闇の世界。そのどちらにも、時間は平等に過ぎていく。そしてあらゆるものを押し流す。怒りも、悲しみも、恐怖すらも。津波のように、大河のように。時間は尽く大切なものを拐っていく。

 だからこの十年間、彼女は毎日両親の名前を眺めている。そうすることで、凪のように穏やかだった時間と、それを奪った怨敵への憎悪を思い出すことができるから。時間に拐われた砂上の城を、再び作り出す。それは怨念の再生産。願いを叶えるためのルーティーン。

 あの日の悲しみを。

 あの日から続く激情を、身を焦がすような憤激を。

 いつか決着をつける日まで、その猛りを納めることのないように。

「もうすぐだ」

 十年間、追い続けた陽炎は、目の前にはっきりと姿を見せている。あとはそこまで駆けるだけ。大海を知らなかったあの頃とは違う。己は強くなったのだから。

 仇を討つ。そして納得し、清算する。そうして初めて、彼女の人生は始まるのだ。

 だから、七海愛海は北へと向かう。

 その火を飛び越え、先へ行くために。

 復讐劇。その終幕は、あと少しまで迫っている。

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