92「無敵の人vs世界最強」2
これは驚いた。いきなり探索者協会側のナンバー1戦力が出てくるとは。
ディラン・バッキンダン。こいつも知っている。名前だけでなくその人物像についてもある程度は。
探索者ランキング――アメリカ・「世界」ともに1位に君臨。誰もが認めざるを得ない「世界最強」の探索者。
奴の凄いところは戦闘力が誰よりも抜きんでてるのはもちろん、EBBとは別の保安結社を経営している企業・経済力にも長けているところもある。複数の会社を通していくつものパーティを受け持っているとか。
探索者業界だけでアメリカに多大な経済向上に貢献している、武力・経済ともにトップクラスの超人……いや「十王」のトップか。
「なるほど。協会側は出し惜しみ無し、いきなり切り札を使う方針できたか」
まあそうだような、僕の危険度・脅威度を鑑みれば、これが最適解と言える。いたずらに雑魚を動員させて僕の疲弊と引き換えに死体の山を築くよりも、自分らが持つ最高戦力をぶつけて一気に叩き潰す方がずっと良い。その方が犠牲の数は少なくて済むだろうしな。
もっとも、僕がこいつらを見逃せばの話だけど。
「ミスハヴァード、手はず通りキリサメは俺一人でやる。こうして対面して分かったろ、あいつが逆立ちしてても、あんたが敵わねえってことを」
「ええ。悔しいけどその通りのようです。キリサメはミスターディランお一人で。残る私たちはあの大きな鳥男の逮捕もしくは抹殺」
二人が何やら物騒な話をしているなと聞き耳立ててたら、僕の身体だけがふわりと浮かんだ。すぐさま飛び出ようとするジェットを手で制して落ち着かせる。少なくともこれに攻撃の意思が無いことが感じられたからだ。
「おめェの相手は、俺一人でいかせてもらうぜ?不服だろうと従ってもらう」
僕と同じように空中に浮かびながら、ディランが一対一での勝負を申し込んできた。
「文句なんて無い。あんたが出張らなきゃ、重傷あるいは死傷者の数を増やす羽目になっていただろうし」
「減らず口を………ウヅキを殺っただけはある。それに今まで見てきた探索者の誰よりも肝が据わってやがる」
ディランが使っているこの力、
「ジェット、そいつらの相手は任せる。無理だと思ったら僕に合図送るか、テキトーに逃げろ」
「承知いたしました!主のお手を煩わせないよう振る舞うことにいたします!」
ジェットの返事もだんだん遠ざかるくらい僕らは二人ぼっちの空間へと移った。
「よおし、ここまでくりゃあ誰も俺たちの勝負の巻き添えをくうことはないだろうよ。無理やり連れてこさせて悪かったな。今拘束を解いてやる」
「おかしな男だ。僕を強制連行したことを謝るなんて。僕が誰なのか分かっているはず。僕がどれだけ凶悪で世の中にとって不都合なのか。生死問わず消さなきゃならないと判断するレベルの邪悪、危険さ、そして強さ」
念動力の拘束が解かれた僕は何も無かったかのように体を動かす。ちなみにその気になればいつでも自力で念動力の拘束は解けていた、とだけ補足しておく。
「ああ分かるぜ、おめェの力量くれえはな。もっとも、今のおめェからは聞いてたほどの脅威度、強さは感じられないがな。おめェが本当にうちのギルドの一員だったウヅキを一対一の戦いで殺害したのか、疑わしい」
「今の僕なら余裕でどうにでも出来ると?」
「ああ、その通りだ。だから一度だけチャンスをやる―――今からでも自分が犯してきた罪を悔いて投降するのなら、気絶させて向こうのEBBに引き渡すくらいにしてやる。少なくともおめェの寿命がここで尽きることはない」
ディランの提案を僕は鼻で笑い、
「くたばれ、世界最強(笑)」
中指突き立ててやった。
「ガキが……最後のチャンスを逃したことを後悔させてやる」
怒り混じりに出された言葉を聞き終えた直後、僕の目の前にディランの姿が既にいて、気が付けばその大きな拳で顔をおもいきりぶん殴られていた。頬に強い衝撃、奥歯がぐらつくほど。僕の身体は一直線に吹っ飛んだ。
かと思いきや突然ピタリと身体が空中で止まった。すると真上からディランの姿が現れ、僕の身体にずしんとのしかかった。身体は空中に浮いたまま、ディランの巨躯の重さが全身に伝わっている。思い。100㎏を軽く超えてやがる。
「俺の汎用スキルには筋力強化、耐久強化、エンチャント付与、念動力がある。そしてその全てのレベルがMAXだ」
そう言って、ディランは念動力で空中に浮かせたままの僕に乗ったまま、ひたすら拳を振るい続けた。
ドガガガガガガガッ! レベルMAX「筋力強化」を遂げた、加減一切無しのパンチの連打。一発一発に強い威力があり、痛い。打撃によるダメージが体に蓄積され続け、痛みが出てくる。
「………てェ」
進行形で僕を攻撃しまくっているディランに対する怒り。それだけでは「卑屈症候群」による完全な変身は遂げられない。現在時点での負の感情の供給が不足してしまっている。
何故なら
いずれにしろ、この二人に対する怒りと憎しみが弱い。これじゃあ僕はいつものような強い化け物になれない。
じゃあどうするか?簡単だ。足りない分は補完してやればいいだけだ。クソっタレな過去を思い出すことでな!
今までムカついたこと、僕を馬鹿にしやがった連中を意図的に思い出していく……。変身前の僕をひ弱でブサイクと蔑みやがった日本・アメリカの探索者ども。変身したらみんなが僕を醜い化け物と鼻をつまみ罵った。最近だと巨大企業の会長の3兄妹弟とか。
特にキレたのが、北関で復讐した時のこと。間野木、長下部、浦辺、牧瀬詩葉とあいつの生配信で好き勝手書き込みしやがった視聴者ども。
さらに思い出せ――特に最悪だった、僕がこの力を手にする前のクソっタレな毎日を。いつもいつも馬鹿にされ虐げられ陰湿な嫌がらせを受け続けた、毎日を……っ
「痛ェ、なァ!クソが!!」
ブチッ ドゴン! 念動力を力で解き、僕の体をボコボコに殴りまくってやがるディランの顎に捻りを加えたアッパーをおみまいしてやった。野郎の巨漢が空高く宙を舞った。
「あ、アァ………ざけんな。あいつら今思い出してもクソムカついてくるなァ!ぶち殺してェ!もっかいぶっ殺させろ!!地獄から引きずり出して、もっぺん気が済むまで痛めつけて、バラバラにぶっ殺させろォ!!」
過去は消えない。過去に受けた痛み、屈辱、傷は決して消えない。残ったままだ。思い起こす度に怒りが、憎しみが溢れ出てくる。僕の脳みそはそういう構造になっている。
だから良いのだ。お陰で純度の高い負の感情を呼び起こし、こうして完全な「卑屈症候群」を発動し、完全変身を遂げることが出来るから。
「さァ、変身してやったぞ。なァオイ、今の俺は、テメェから見てどう映ってる?」
拳を鳴らして足もぶらぶらさせて体をほぐしながら尋ねてみる。
「危険極まりない化け物、と言ったところか。同じ人間とは思えない圧がおめェから感じられる。かつてないオーラだ、SSランクのダンジョンボスと比べても桁違いだ」
それを聞いた僕はニヤッと笑う。
「自慢垂れるのも何だが、俺ぁほぼ単独でSSランクのダンジョンを攻略した唯一の人間って世界中から評価されている。おめェもだろ?評価はされてなくとも一人でSSランクを攻略できるだけの力があると見た」
「ケケケ、それはテメェ自身で確かめてみろや。
その前に一つ聞かせろ。テメェを俺に差し向けた元凶はどこのどいつだ?協会が単独きってか?テメェ個人で動いてんのか。それとも―――」
「ああ、そうだった。ある人物から伝言を預かってたんだった。
俺ぁ任務でここに来たのさ。依頼主はミクロンソフトのCEO、ベイガム・マディラン」
ざわ……っ 体中の毛が逆立った気がした。
「ミスターベイガムにはおめェにこう伝えろと言われた―――必ず地獄へ突き落してやる。このイカレた殺人者が――と」
「ぶはっ、テメェじゃなく他人に殺しを任せておいて地獄へ突き落してやるとか、意味不明なんだが!?テメェもそう思わねェか?」
「知るかんなこと。どうでもいい」
グン――― 見えない万力、「念動力」でディランのもとへ引き寄せられる。待ち構えているのは大砲のように放たれた奴の拳だ。
「フンッ」
ガギィイ!! ディランの拳にこっちも拳をぶつけてやる。おお、大した威力、頑丈さだ。僕の肥大強化した拳と衝突して砕けない拳は、こいつが初めてかもな。
「今ので分かった。テメェ俺を殺す気だろ?だったら俺もテメェを殺すことにする。その後は邪魔な探索者とEBBの奴らをぶっ殺して、テメェを仕向けやがったミクロン何とかの会長もぶち殺しに行ってやる!」
「ますますおめェを野さばらしにしてられなくなった。世界最強の探索者ディラン・バッキンダンの名にかけて、おめェを始末する」
背中にある鞘を外し、そこからバスターソードと呼ばれる僕が使ってるのと変わらないサイズの大剣を抜刀した。
「ウヅキの弔いも兼ねた、戦いだーーーーー!!」
ギィン!! 振り下ろされるバスターソードに大鉈をぶつける。激突し、激しい火花が散った。
*タイトルこっちの方がしっくりくるので、変えました。前話も変えてます。
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