第44話 金鉱山とエセ投資家④
「とにかく、キスしたことを絶対にパパには言わないでちょうだい」
オスカーにそれだけは強く言った。
もしもミヒャエルにバレてしまえば、間違いなく婚約一直線だ。
それはマズい!
そう思う一方で、どうマズいんだろうと訝る自分もいる。
ずっとバグが続いているのかなんなのかは知らないけれど、ハルアカでは決してドリスに目を向けることのなかったオスカーが「好きだ」と言ってくれている。
そして、いくら否定しようともわたしだって心のどこかでそれを嬉しいと思っているのに……?
オスカーの婚約者になれば、シナリオの正規ルートに戻るのかもしれない。
だとすれば、シナリオが予測不可能な方向に進んでいくよりは、元に戻るほうがマシな気もする。
今のわたしであれば、オスカーに叩きだされても自力で孤児院まで辿り着いて保護してもらえるだろう。
とりあえず屋敷の外にスケート靴を隠しておくことにしよう。
「わかってる、言わない。当分ふたりだけの秘密だ」
甘く微笑むオスカーは何もわかっちゃいない。
ひとまず流れに身を任せて様子見することにした。
2年前、最初にわたしが投資したシャミト山をはじめ、エーレンベルク伯爵家の投資事業は大きな利益を出し続けている。
そしてミヒャエルは、わたしの提案通りフェイル山の開発事業に乗り出してくれた。
あと半年もすれば金鉱脈が発見されるはずだ。
ハルアカでのミヒャエルは、こういった優良投資先がなく損失が膨らんでいった。
しかしローレンに偽の帳簿を見せられて利益が出ていると思い込んでいたのだ。
最後はローレンにすべての財産を奪われて破産の一途をたどる。
エーレンベルク伯爵家を破産に追いやるローレン・ビギナーが、今最も気を付けなければならない人物だ。
わたしの目を盗んで、まだしつこくミヒャエルとコンタクトを取ろうとしているらしい。
ミヒャエルは、わたしとオスカー以外は信用しないし、投資の話は独断では決めないと言っているけれど、どこでどう足元を掬われるかわからない。
リリカの親戚のように、我々が騙されないことでもしかすると被害を被る羽目になっている貴族がいるかもしれない。
しかしそんなことは知ったこっちゃない。
わたしは自分の命を脅かすものを徹底的に排除したいだけだ。
バカンスシーズンが終わり冬が近づいてくると、もうルーン岬リゾートの業績不振が噂されるようになった。
観光客が来ないとなると、どうしようもない。
ハルアカではこのまま悪化の一途をただり、出資者の優待を自慢げにひけらかしていたドリスが恥をかくことになるのだ。
ドリスはそれをミヒャエルに涙ながらに訴える。
馬鹿にされたところで、誰かに報復することはできない。学校ではよくある話だとミヒャエルはドリスをなだめる。
そしてもう愛娘を泣かすようなことはすまいと決心し、損を取り戻そうとますます投資にのめり込むようになる。
ローレンの搾取により、やればやるほど損失が膨らんでいくとも知らず。
今回、わたしは破綻したルーン岬リゾートを丸ごと格安で買い叩くつもりでいる。
いつその日が来てもいいように、投資で儲けたお金を貯めてきた。
フェイル山の金鉱脈が見つかるのが先か、ルーン岬リゾートが破綻するのが先か。
それによって反対される度合いが変わってくるだろう。
それでもわたしは絶対に手に入れると決めているのだ。
わたしと、ミヒャエルと、オジール王国を守るために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます