第38話 ルーン岬のバカンス④
洞窟ツアーに申し込み、その時間がくるまでビーチを散策した。
アデルとリリカは波に素足をつけて、キャッキャとはしゃいでいる。
カタリナは侍女に日傘をさしてもらいながら、その様子を眺めている。
冷ややかに呆れたような顔で――そう思うのは、カタリナを表面しか知らない者の印象だ。
よーく見れば、ほんの少し口角が上がっている。
あれは密かに楽しんでいる時の顔だとわたしは知っている。
「ドリスお嬢様、暑くはないですか?」
オスカーが後ろからスッと日傘をかざしてくれた。
「ありがとう。大丈夫よ」
今日のわたしは青いサンドレス、オスカーは麻のズボンにコットンシャツという、互いにカジュアルな服装だ。
「それよりもオスカー、あなた泳げるわよね?」
「……はい」
突然なにを言い出すんだとでも言いたげに、オスカーが眉根を寄せている。
このイベントは、溺死するようなことにはならない。
なぜなら満潮になっても洞窟が海水で埋め尽くされるわけではないのだ。
しかし肩ぐらいまで浸かってしまうし、そのまま何時間も海にいれば体が冷えてしまう。
そこで潮の流れが変わったと判断したところで、オスカーがヒロインを優しく励ましながら泳いで洞窟から脱出する。
つまり、オスカーが泳げないことには困る!
「お嬢様と一緒に、さんざん湖で泳ぎましたよね?」
オスカーの声がどことなく呆れている。
そう。実はあらゆることを――その中にはもちろん今回のイベントも含まれている――想定して学校に入学するまでの2年間、わたしはオスカーとともに水泳の練習もしていた。
孤児院の子供たちと水遊びをするという名目で。
エーレンベルク伯爵家から孤児院へ行く道中に大きな湖がある。
馬車を使うと湖畔沿いの道を進むわけだが、湖を横切ればはるかに早く孤児院に到着することが可能だ。
そうならないことを祈っているけれど、もしも破滅フラグ回避に失敗して極寒の屋外に放り出された場合、一刻も早く建物内に入りたい。
修道院よりも近い孤児院へ。しかも最短で。
そこでわたしは、凍った湖をスケート靴で滑っていくことを思いついた。
これも孤児院の子供たちと遊ぶ名目で、冬にはスケートの練習も欠かさない。
この世界にはまだ金属のエッジは存在していなくて、スケート靴は動物の骨だ。
孤児院にスケート靴を寄贈して善人ぶってみたけれど、本当の目的はわたし自身のスケートスキル向上だった。
スケートもバッチリ! そして万が一氷が割れても、泳ぎもバッチリよっ!
それに付き合わせることになったオスカーもまた、泳ぎもスケートもそつなくこなせるようになった。
「ちょっと確認しておきたかっただけよ。頑張ってちょうだい!」
だからいったいなんの話だ、という顔でオスカーが苦笑した。
「楽しそうですね」
「ええ、とっても!」
だって、今日これからオスカーの恋の相手が決まるんだもの!
そしてわたしたちは、洞窟ツアーのボートに乗り込んだ。
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