第32話 貴族学校の進級試験②
帰りの馬車の中でも、リリカにどう勉強を教えればいいか考え続けた。
最近ではオスカーだけでなくわたしも孤児院で小さい子たちに勉強を教えているから、誰かに教えること自体は苦手ではない。
スパルタで詰め込むのは、リリカの性格的に合わない。でも、時間がない。
どうしよう。リリカが落第するのは嫌だわ。
これまでにも、もちろん試験はあった。
定期試験はもっと範囲が狭かったし、赤点はあっても落第はない。リリカは毎回赤点で、そのたびにカタリナに叱られていたのは言うまでもない。
しかし進級試験はそんなに甘くないのだ。
赤点を取ればヘタすると落第もありうる。これまでの定期試験で赤点続きだったリリカの場合はなおさらに。
ちなみにハルアカの悪役令嬢ドリスの場合は、教師たちをお金で買収していたことも言い添えておく。
「どうすれば試験でいい点がとれるかしら」
馬車に揺られながら思わずこぼすと、オスカーが真顔で答える。
「コツコツと勉強する習慣をつけることが大事かと」
いまさらそんなことを言ったって遅いわよ。試験まであと1週間しかないんだから!
しかしここで、いや待てよと思う。
オスカーが言った「コツコツ」という言葉がどうも引っかかる。
なにか大事なことを忘れているような……?
ハルアカのリリカは、学校の進級試験をどう乗り越えていたんだっけ。
前世の記憶を手繰り寄せる。
そうだ、思い出したわ!
ハルアカのリリカルートでは、勉強についていけないと思い悩むリリカとドリスのお迎えに来たオスカーが学校の門で偶然出会うシナリオがあった。
その時にどうすれば試験でいい点をとれるのかと質問すると、オスカーが微笑んでこう答える。
「学生の頃、私は毎日放課後に図書室で勉強していましたよ」
このセリフを引き出した翌日からは、ただ図書室へ行くだけで「賢さ」パラメーターが上がる。
課金しなくてもそれを進級試験日までコツコツ繰り返すだけで、リリカの賢さが試験突破レベルに達するのだ。
図書室に入ったら、すぐに出てもオッケー。
なんというイージーモード。
いままで放課後の勉強を空き教室でしていたのがいけないのかもしれない。
明日からは図書室でやるわ!
「オスカー! ありがとう!」
突然喜びはじめたわたしの様子に少々戸惑いながらもオスカーが微笑んだ。
「あまりお疲れにならないよう、ほどほどに」
「大丈夫よ」
だって、頑張らないといけないのはリリカであって、わたしのことではないもの!
「今夜はお休み前にココアをいれましょう」
オスカーの気遣いに遠慮なく飛びついた。
「ミルクたっぷりでお願いね!」
「かしこまりました」
オスカーがふわりと笑う。
オスカーの甘い微笑みや態度は危険すぎる。
咄嗟に目をそらして、リリカの進級試験突破のことだけを考え続けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます