第22話 短縮ルートのフラグを折る③
カタリナ・ドラール。今回のヒロインはあなたってこと……?
「どうなさったの?」
まっすぐ笑顔を向ける。
するとカタリナは、キョロキョロあたりを見回した後に首を傾げた。
綺麗な銀髪がサラっと揺れて細い肩から滑り落ちる。
「ここに誰かいませんでした?」
呪いアイテムの入った麻袋がバッグからはみ出していないことをこっそり確認する。
「さあ? わたしか迷ってここに来てしまった時にはどなたもいなかったけど。付き添いの方をお探しですか?」
とぼけて質問で返した。
カタリナは尚も首を傾げている。
「そうなんです。付き添いとはぐれて、探していたらここまで来てしまって」
あなたがヒロインなのだとしたら、謎の商人ではなく呪って早々に退場させようと思っていた張本人がいてびっくりしたでしょうね。
内心ほくそ笑みながらカタリナへと歩み寄る。
「付き添いの方はもう中へ入られたんじゃないかしら。そろそろ式が始まってしまいますわ、わたしたちも参りましょう」
カタリナは困惑しながらも「そうですわね」と頷いた。
成り行きでカタリナと並んで新入生入り口に向かう。
家格から言えばカタリナのほうが上位貴族であるため、本来ならば砕けた口のきき方をしてはならないし並んで歩くことも憚られる相手だ。
しかし貴族学校では身分に関係なく、生徒の扱いは平等となっている。
歩く途中で、彼女のハーフアップにした銀髪を留めているアクセサリーに紫水晶があしらわれていることに気づいた。
「あら、その髪留めの紫水晶って……」
「これは父が出資しているシャミスト鉱山で採れた最高級の……待って、あなたのそのペンダントヘッドももしかして!?」
すぐに気づくとは、さすが聡明なカタリナだ。
うふふっと笑いながら手を差し出す。
「共同出資者のエーレンベルク伯爵家のドリスです。あなたはドラール公爵家のカタリナさんね? どうぞよろしく」
「先ほどは名乗りもせずに失礼しました。カタリナ・ドラールです」
カタリナが握手に応じながら口角を上げて整った笑みを浮かべた。
さすがは公爵令嬢だ。
なにを考えているのかまったくうかがうことのできない笑顔の仮面をつけている。
「その髪留め、カタリナさんの綺麗な髪と瞳にぴったりでとてもよくお似合いだわ。センスのいい方がデザインされたのね。それに職人さんの腕も一流ね」
おべっかではなく本心だった。
オーダーメイドの一点ものだろう。
「ありがとう。デザインはお母様とわたくしが一緒に考案しましたの。あなたもそのペンダントもよくお似合いですわ。わたくしほどではないけれど!」
突然早足になって先に行ってしまったカタリナの耳がほんのり赤く染まっているのが見えた。
カタリナのツンデレは健在のようだ。
くすくす笑いながらその後ろ姿を追ったのだった。
入学式が滞りなく終わり、自邸へと帰る馬車の中でのこと。
わたしは、さいはめルートを阻止出来て大満足していた。
カタリナがヒロインかどうかなんて知ったこっちゃない。ドリスの破滅フラグを折りまくっていけばいいだけだ。
しかし正面に腰かけるオスカーの様子がどうもおかしい。こちらをチラチラうかがいながら何か言いたそうな顔をしている。
「オスカー? どうかした?」
いつまでも言わないから、こっちから促してみた。
ようやくオスカーが口を開く。
「ドリスお嬢様は……私との婚約の話を断ったそうですね」
なんだ、そのことか。
「そうよ。前も言ったけど、わたしを大切にしてくれる人と結婚したいの。オスカーは、わたしのことなんて好きじゃないでしょう?」
どうぞカタリナと結婚してちょうだい。
公爵家の婿養子になれば、お金に困ることはないはずだわ。
「パパがオスカーを跡継ぎにって言ったことは知ってるけど、気にすることなんてないのよ? わたしが別の婿を探すから、どうぞご心配なく」
この話はこれでおしまいよ! という意思表示として、プイッ横を向き窓の外の景色を眺めた。
視界の端で、オスカーがそっと目を伏せるのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます