第20話『強くなるためには挑まなければならない』
討伐したばかりだからまだ【岩鳥】の数は少ない。
[お、音が戻った]
[戦闘の時間だ―]
[キタキタキター]
コメント欄は、音が戻ってきて若干興奮状況にあるが、カズアキは意識の中にない。気軽に視聴者へコメントを返している余裕はなく、ただ歩いているだけでも集中力を高めていてるから。
向かう先に立ちはだかっているのは2体。
「カズアキ、それぞれ1体ずつやろう」
「わかった」
「名前通りの硬さではないから、そこまで注意する必要はないよ。だけどスピードが乗ってくると重さからか攻撃力が増すから、それだけは意識の中に入れておいて」
カズアキは頷き、標的へ目線を移す。
(現状からするに、1対1だったらの話なんだろう。これが複数体になれば危険ってことなんだろうな)
と、さきほどソラノと会話をしながらマアヤとセリナの常に動き回っていた戦い方と照らし合わせる。
当然だが、モンスターは待ってはくれない。攻撃だけではなく、出現するタイミングも。だからこそ油断をしてはいけないし、目の前に居るモンスターだけを集中していたらあっという間に囲まれてしまう。
(ゲームだったら、基本的にはいつの間にか囲まれている――なんてことはないっていうのにな)
『キュゥー』
残り5メートルになったところで【岩鳥】はカズアキを認識。
「よし、こい」
出方を窺い、剣を正面で構える。
『キュッ』
岩鳥はカズアキへ一直線に突撃。
「はっ」
一般人が投擲する野球ボールよりも遅い速度であったため、臆することなくタイミングを見計らって斬る。
結果、攻撃を回避されることすらなく討伐完了。
その呆気ない終わりに、事前に抱いてた緊張は杞憂であったと一安心する。
ソラノの方へ視線を移すも、既に討伐済みでカズアキがほんの少しだけでも心配する余地はなかった。
「なあソラ――」
「次、来るよ」
ソラノは構えを崩していなかったことに、声をかけられ初めて気づき、カズアキも視線を前方へ戻す。
[1体だったら余裕だったがどうなるか]
[気を付けてー]
[これがダンジョンなのか……]
ついさっきまでたったの2体だけしか居なかった岩鳥が、少しだけ目線を外していた内に4体に増えていた。
そして既に臨戦態勢。
「そっちに1体いくよ!」
油断をしていたわけではないが、構えを完全に解いてしまって剣の位置は下にある。
しかし回避はせず、タイミングを見計らって剣を振り上げた。
攻撃は見事に命中し、岩鳥は消滅。
[うおおおお]
[ナイス判断]
[ナイスゥ!]
決まったぜ、とゲームの見様見真似でカッコいいと思う剣技を披露することができ、振り上げられた剣と合わせてドヤ顔をする。
(違う、こんなことをしている場合じゃない。ソラノを援護しないと)
しかし、視線を移すとちょうど最後の1体を討伐し終えたところだった。
「つよ……」
カズアキは『こっちは反応が遅れてやっとのところで討伐したというのに』、という気持ちが言葉として漏れて出しまう。
だが『また同じ失敗をしてはいけない』と、すぐに視線を前方に映すと、今度は1体も岩鳥の姿はない。
しかし。
視界の右端、なにかが視界に飛び込んでくるのを察知して体を仰け反らせる。
「な、なんだ」
通り過ぎたであろうそのなにかへ視線を向けると、岩鳥。
そしてその延長線上にも3体が。
「カズアキ、私は右をやるから」
岩鳥は左に居るのになぜ、と思い振り返ると、そこにも岩鳥が3体。
そう、2人が前方の岩鳥と戦闘している間に両側にも出現してしまっていたのだ。
「無理そうだったら、回避に専念して。すぐに援護するから」
「がんばってみるよ」
(一瞬でも援護をしようと考えたがお門違いだったな)
先ほどは1体だけだったから対応できたのに、と手に汗握りながら視線を左へ戻す。
[頑張れー!]
[こっちもドキドキしてきた]
[落ち着いてやってこ]
緊張してからか、目の前で飛ぶ岩鳥に集中しないといけないとはわかっていながらもコメント欄を確認してしまう。しかし、温かい声援により若干だけ緊張が和らぐ。
(あいつらのスピードはそこまで早くないんだから、冷静に見極めるんだ)
『キューッ』
カズアキの挑戦が始まる。
「くっ――」
3体が並行して飛んでくるならまだ楽だというのに、不規則に並んで飛び込んでくるのをできるだけ屈んで回避。目線の高さだったのが功を奏した。
「やっぱりタイミングを計るしかないよな」
目で捉えられる速度とはいえ、自ら走って追いつくことはできない。
(タイミングがバラバラだからといって回避しているだけじゃ埒が明かない。幸いにも攻撃は1回でも当てれば倒せるんだ、やるしかない)
『キュッ』
小さくも甲高い声を合図に、再び3体の岩鳥が飛び込んでくる。
「はっ!」
カズアキは真正面中央の1体へ剣を振り下ろし、討伐。
勢いそのまま背中を丸めるように体を前に倒し、回避。
頭上を通過していくのを察知し、体を起こして剣を構え直す。
『キューッ!』
仲間を倒されて奮起しているのか、鳴き声が尖る。そして加速。
「こうなったらやるしかねえ!」
剣を野球のバットみたいにフルスイング――結果、消滅。
モンスターであれど、興奮状態になってしまうと冷静な判断ができなくなる。
カズアキの攻撃は不格好で、相手が人間であれば間違いなく当たらないような攻撃であった。
[ナイスゥ!]
[豪快な一撃だ]
[緊張感のある戦いだった]
つい先ほどの経験を活かし、辺りに視線を配り警戒。流れでソラノを視界に捉えるも、当然の如く討伐し終えていた。
「下がろう」
ソラノはそう言い残し、返事を待たずして後方に駆け出す。カズアキも一足遅れて後を追った。
「それじゃあ、今日は帰るだけだから配信はここまで! おっつかれさでした~っ」
カズアキが後方に合流すると同時ぐらいで、マアヤは配信を終了。ニコニコの笑顔で視聴者へ手を振っていた。
「2人ともお疲れ様。こっちの配信は終わったから、そっちも終わりにしよ~」
「あ、ああ」
カズアキはバクバクと動き続ける心臓と荒れた呼吸そのままに、一度だけ深呼吸をして切り出す。
「それでは皆さん、ご視聴ありがとうございました。俺はもうヘトヘトなので、今日のところは配信を終了します」
[おつおつ!]
[お疲れ様!]
[家に帰るまで油断せず!]
温かいコメント欄に、心が温まる。
「不定期で申し訳ないのですが、次もまたよろしくお願いします。ありがとうございました」
カズアキは深々と一礼をし、10秒後ぐらいに頭を上げて配信を終了した。
「このまま帰りたいところだけど、さすがに休憩してからにしよっか」
「そうしてくれると助かる」
「カズアキ、いい感じの戦いっぷりだった」
「ありがと」
ソラノからの言葉に、素直に嬉しくて目線を合わせられないカズアキ。
「今日の稼ぎは1人当たり3000円ぐらいかな?」
「おいセリナ」
「なによ、お金は大事でしょ?」
「そりゃあそうだが」
セリナは宙に目線を向けて儲けの計算をしている。
「だが冷静に考えたら3000円って凄いな」
「でしょ、私ががめついみたいな言い方をするのやめてよね」
「すまん」
ここに至るまでの
「確かに儲け話だけど、今日はここまでだよ。無理して怪我をしたら元も子もないんだから」
「マアヤの言う通り」
「わかってるわよ」
分け隔てなく話をしている3人を前に、カズアキは会話に入ることができなかった。
なぜなら、元気そうに話をしている3人とは違い、自分だけが呼吸が乱れ、緊張感から解放され全身が披露している。つまり、今回の狩りがこれで終わりになったのが自分に原因があるということ。
いや、言葉を濁さずに言えば――カズアキだけが足を引っ張っているという状況。それに気が付いてしまったのだ。
「といっても長い間は休憩できないから、後数分ぐらいかな」
「はいはーい」
「だね」
(戦闘慣れしていないから仕方がない、なんてことはただの言い訳だ。このままじゃダメだ。みんなの足を引っ張り続けているままじゃ。もっと強くならないと)
カズアキは想いを胸に秘める。
誰の迷惑にならないため、強くなりたいと。
護られているだけじゃなく、強くなってみんなのために闘いたい、と。
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