第6話『普通に接してくれる人は現れるのだろうか』
「ごちそうさまでした」
かなりハイカロリーな午前中を終えた
そして残金を思い出す。
「これからアルバイトをしていた時の給料が12万円分振り込まれる。そして、昨日の
家賃で毎月4万円、食費で3万円、光熱費で4千円。これが先月までの平均支出。
このままでは来月の支払いを滞納してしまうことに危機感を覚える。
左に携える、剣へ視線を移す。
(この剣が100億円という価値があったところで、売らなければ現金は1円だって増えはしない)
そして、如何にもすぐに壊れてしまいそうな見た目から、壊れてしまったらその価値が落ちてしまうことに複雑な心境を抱く。
(でもスライム相手だけど、何回か斬っても大丈夫そうだったけどなぁ……)
憶測ではない、実体験からくる感覚を信じ、更にはもっと強さが秘めている可能性を捨てきれないのもまた事実。
日給で計算し、月給でも考えたとしても、どうやったってアルバイトをしたり普通の仕事をした方がいい。
しかし、こういったレアドロップアイテムを手に入れた時の金額は夢があり過ぎる。和昌はそれを探索者になり立てで味わってしまったから、できるだけ簡単に探索者を諦められなくなってしまっていた。
そんなこんな考えながら食べ終わった食器を片付けて、ダンジョンへ向かう前に厄介払いを受けたばかりの受付へ向かうことに。
「そんな露骨な態度をしなくてもいいじゃないですか。ぶっちゃけ、傷つきますよ?」
「申し訳ないとは思っておりますが、つい先ほど支部長から通達がありまして……さすがに怖いですよ」
「まあそれは俺も自分のことながらに理解はできます」
本日初めて出会う受付の女性と、「デスヨネー」と互いに肩を落す。
「ここへ来られたということは、パーティを探しているということだと思いますが……」
「わかっていますよ。経歴だけ見たらどこのパーティにも入れても、俺が持っている
「まさにその通りです。というわけで、いかがなされますか? 募集をしてもいいと思いますけど、人間関係のトラブルは避けられないと思います。自分がパーティリーダーになったとしても同じく」
「……やっぱりそうなりますよね」
事前に想定できていた結果となり、心構えができていたから精神的なダメージは少ない。
「後は、ダンジョン現地で偶然にも居合わせて共闘、そこから徐々に関係性を構築していってパーティを組む。という流れがあったりします」
「信頼関係を築くっていうのが一番現実的な気がしますね。普通だったら一番現実的じゃないんですけど」
「あまりにも特例がすぎますからね……」
「はぁ……」
「それではご健闘をお祈りさせていただきます」
「ありがとうございました」
半ば強制的に会話を切られたとは思うものの、しかしこのまま続けられる内容もなかったため、このまま頭を下げて引き下がる。
施設から外に出て、ダンジョンへ向かう最中は周りの視線がどうしても気になってしまう。
行き交う人々の中に探索者がどれぐらいいるのかはわからない。一般人でさえも、地上で武器を携えている人間はどういった人物か理解している人間もいる。
(いきなり自分が有名人にでもなったのか、って錯覚しそうだ。でも、ちょっといいかも)
生まれて初めて経験する視線の集まりに、動揺を隠せない。
泳ぐ目線に、髪の毛を急に整え始めたり、話す予定もないのに咳払いをしてしまったり。もしかしたら可愛いお姉さんに逆ナンパとかされてしまうのではないか、とか下心丸出しの夢を抱いてみたり。
油断をしていると鼻の下が伸び切ってしまいそうになりながら歩いていると、探索者連盟が管理しているダンジョン入り口を塞ぐように立っている建物に辿り着いてしまった。
ダンジョンへの入り口は他にもあり、例外なくここと同様の建物がある。
施設前や各所に警備員が巡回しているが、そのどれもが武装許可が下りている探索者だ。
当然、初心者ではない彼らからの視線は別格。
(うわ……あの人達の目が怖すぎる。絶対に要注意人物として警戒されてるだろ)
向けられる鋭い目線は、蛇そのもの。委縮した変えるは肩身を狭くする他ない。
つい先ほどまで、特別感を堪能していたのにもかかわらず。まるで出鼻を挫かれたかのように。
普段は意識しなくて済んだのに、今日は、いや今日からはそれらの目線に晒されて生きていかなければならない。
(このストレス展開が続くようであれば、売却も視野に入れてもいいな……)
これからのことを考えながらダンジョン入り口で待機している門番2人に会釈し、目を合わせないようにゲートを越えた。
ダンジョンの中に入っても、どうしても周りの目線が気になってしまい、当りを一瞥するも昨日と同様に誰も居ない。
ここでやっと両肩に乗った重荷が落ちた、と詰まった息を吐き出す。
「ぷっはぁー。このままだと、俺の気が休まるのはダンジョン内か自分の部屋だけじゃないか」
なんだか恋しくなってスライムが出現する場所まで歩く最中、自分が置かれている現状だからこそ、とあることを思い出す。
「もしかして、こんな存在って俺以外居ないんじゃね? ってことは、この希少性を活かして配信したら注目されるんじゃないか?」
ポンっと手を叩いて「俺、天才か?」なんて楽観的に状況を捉える。
「しかし、このままスライムを狩り続ける探索者の配信なんて、誰が観たいと思うのか」
豪運によって手に入れることができた代物だとしても、使用者の実力が伴っていないのであれば意味がない。
「お金も必要だし、もう少し先に進まないとな」
基本的に、ダンジョン奥地に進めば進むほど、階層が下に行けば行くほど強いモンスターなどが出現する。そして、それらモンスターは上層より価値のある
だからこそ先に進むわけだが、危険度が増すため、パーティを組んで活動するのが定石。どんどん先に進めば進むほど死と隣り合わせになってしまうからだ。
「しかしダンジョントラップなるものがあった場合、冗談抜きでヤバい。だけどなぁ」
様々な葛藤が渦巻く。
「考えてもわからないから、行ってみてから決めるしかないな」
まずは右に携えている、配給された剣を抜刀。
スライムがほどんど出現しておらず、道を塞がれていなかったからそのまま100メートルぐらいを突き進んだ。
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