エリア2ボス攻略


「……!」


 ここで初めて勇者の表情が崩れた。甲冑で見ることはできないが。

 駆け出していた彼は足を止められる事になる。進行方向に放たれた爆発する弾丸によって。さらに足を止めた所に彼に向かって放たれた弾丸が襲い掛かり、彼は紙一重で体を捩じって回避した。

 その光景を見てレッドヤマザキは手応えを感じた。

 この戦法なら何れ勇者を追い詰める事ができるかもしれない、と。

 彼は再び両腕を構え……目前までに飛来した勇者の剣にギョッとして、慌てて身を逸らした。


「なんだ!?」


 予想外の勇者の行動にギョッとしていると、背後から『パシッ』と音が響く。

 レッドヤマザキが振り返るとそこには──投げた剣を掴んで、そのまま斬り掛かってくる勇者の姿があった。


「なんで!?」


 何が起きたのか理解できずに慌てて両腕で防ぐも、勇者は弾かれた勢いのまま体をグルリと反転させてその勢いのまま剣を投げてレッドヤマザキの足元に突き刺す。


 そして次の瞬間、レッドヤマザキが知覚できない速さで剣の元に移動した勇者は、レッドヤマザキの足を斬る。


「ぐあ、なにが──!?」


 崩れ落ちる体が衝撃を発し、何が起きたのか理解する前に鋼鉄ボディが悲鳴を上げる。

 また弱点リーゼントを斬られたのだ。

 一仕事終えたとばかりに距離を取る勇者に、しかしレッドヤマザキは平静を保つことができなかった。


 あの速さは疾脚チーターではない。そもそも速いだとかそういう次元の話ではなかった。

 もっと別の、この世界の理から脱した様な力の使い方だった。


「──油断はしていなかった。慢心もしてなかった」


 だが、それでも足りなかったらしい。


「──その胸、借りさせて頂くぞ!」


 レッドヤマザキは──勇者攻略の為に最後の力を振り絞る。

 両腕から断続的に爆発が起き、彼の体が宙に浮く。さらに肩の両腕からジェット機の様に炎を噴出させた。

 近距離タイプの勇者が届かない位置から一気に体当たりをしかけるつもりだ。

 その際の彼の鋼鉄ボディはどんな攻撃も弾く硬さを持つ。唯一の弱点以外は。

 スピード。攻撃力。防御力。全てが完璧のレッドヤマザキの最終手段。


「行くぞ、勇者!」


 視界の隅でバリアを貫通して来たのか、エメラルドの孫娘サファイアが救援に駆けつけていたが……レッドヤマザキは興味を示さなかった。突撃前なら腕を狙撃されて弱体化されたかもしれないが、今の自分には狙撃は弾き返される。

 それに──。

 レッドヤマザキは、勇者に対する思い浮かべた期待とも信頼とも取れる考えを思い浮かべ、しかしそれを振り払って爆速で突貫した。


「その目に焼き付けろ、我が姿を──!」


 爆音が響き、巨体が勇者に迫り来る。

 視界がグルグルと回る中、レッドヤマザキはステージをガリガリと削る感触を感じながら勇者を穿つ感触を感じ逃さない様に神経を尖らせて、そして──。


 高速回転する中、自分が研ぎ澄ませた知覚が一瞬だけ勇者を捉えた。

 空を背に剣を振るう勇者。しかしその目がお互いに合う事は無かった。

 目の前の敵はしっかりと自分の弱所だけを見て、高速回転する自分の動きに合わせて最小限の動きで攻撃を当てようとし、そしてそれは成功すると誰よりもレッドヤマザキが理解していた。


(──ああ、最後まで我を刻み込ませる事ができなかった)


 しかし悪くなかった。ここまでヤラレルと清々しい気分だった。


(勇者。ああ、勇者よ。次こそは我を──)


 ザンッ! と正確にリーゼントが斬り飛ばされ、レッドヤマザキはそのままステージを突き進み壁に激突し、そして限界を超えた鋼鉄ボディはエネルギーを暴走させて──そのまま彼ごと爆発させた。


 ──エリア2ボス、クリア。



 ◆



「……ふむ。もうあのゴリラを倒したか」


 紅葉舞うエリア3にて、自分が作ったギアからの報告を聞いて関心の声を上げる者が居た。


「ほっほっほ。楽しみじゃのう。ルビーとサファイアが懐いた新しき勇者と会えるのは」


 その声に喜色の感情を上げるのは地球防衛軍総司令官──エメラルド。

 彼? こそが勇者のギアを作った人物であり、今日まで地球を魔王軍から守った傑物である。


『覚悟──!』

『ヤラレロ──!』

『デモナンカ嫌ナ予感スル──!』


 そんな彼? の元に魔王軍の下っ端エリートが襲い掛かるが。


 ドンッとゼロ距離狙撃で打ち抜かれ、タタタッと弾丸の雨でハチの巣にされて、最後はザンッと一刀両断にされた。


『『『ヤラレタ──!』』』


 地表に溶けて沈んでいく魔王軍を一瞥する事無く、エメラルドは笑う。


「さてさて──歓迎するぞい若者よ」


 キラリと輝く緑色の瞳に囚われた勇者は、これから起きる衝撃の出会いを知らない。

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