皆んなが集まるたこ焼き屋

羽弦トリス

第1話8年前

この街に引っ越して9年になる。それだけ長く住んでいると、色んな飲食店を知る事ができる。

たまたま、買い物の帰りに、『たこ焼き』の文字を見てたこ焼きを買おうとした。

店内を覗くと、3人ほどの人が座り、ビールを飲んでいた。

僕は居酒屋スコッパー。

店内に入る。

たこ焼き以外にホワイトボードに色んなツマミが書いてあり、瓶ビール、缶ハイボール、焼酎と色々ある。

僕は取り敢えず、たこ焼きと瓶ビールを注文した。

マスターは白髪のダンディーな感じで、その奥さんは素朴な田舎のおばちゃんと言うイメージだった。


熱々のたこ焼きを食べながら、ビールで流し込む。

美味しい。

僕はこの日から、このたこ焼き屋の常連となった。

名古屋市昭和区の桜山の交差点から歩いて2分のたこ焼き屋・蛸ん壺。

お客さんは、明るい内は年金暮らしのお年寄りが多いが、夜は若者達がやって来る。

当時の僕は、病気が酷くて働く日数が少ないので、安定した収入が無い。

でも、酒が飲みたい。

ならば、2000円以内で完結する、このたこ焼き屋を利用しない手は無い。

週3日の頻度で通った。

ある日、僕は糖尿病が発覚した。

それから、好きなビールも飲めない。緑茶とたこ焼きだけの生活になった。


ここのマスターは、優しく、

「病気に負けちゃいかん。ガンバレ!」

と、僕を励ましたがある日、クリニックでバッタリ出会った。

マスターも高血圧だったのだ。

「僕は、血圧上が150ありましたよ」

と、言うと、

「まだ、かわいいもんだて、おれは170」

と、2人して笑った。

これは、笑っていい事なのか?分からないが、マスターは元気で前向きな人であった。

安くて、美味しくて客層にも合った僕は3年間通ったがある日、このたこ焼き屋さんに通えなくなった。

その時の事は思い出したくもない。

あの頃が、人生最大のピンチだったかも知れない。

それを救ってくれたのは、マスターだった。

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