こぼれ話 初朝となりました





 ―――さて。


 結論から言ってしまおう。



 この後、シャルロッテもオスカーもドキドキの初夜が始まる―――筈だった。



 なのに、現実は無情であった。



 遂にオオカミさん化したオスカーが、シャルロッテに口づけをしまくった結果、ものの20分で、シャルロッテは幸せのうちに意識を手放してしまったからだ。


 オオカミオスカーが、いきなり大人ちゅうを連発したせいである。



 貪るような、念入りに味わうような、喰らい尽くすような、そんな激しい口づけを20分。


 漸く唇を離したオスカーを、シャルロッテは真っ赤な顔で見上げた。眼は潤み、とろんと惚けた表情、唇は少し腫れてしまっている。



 その様子に、思わずオスカーの喉がごくりと鳴った。


 ほぼ役目を放棄していたオスカーの理性は、今や完全に消え去ろうとしていた。

 唾液で濡れ、少し腫れたシャルロッテの唇が開き、小さく呟く。



「・・・しあ、わせ・・・」


「・・・っ!」



 そう言って、へにょりと笑うシャルロッテに、オスカーの雄はこれまで以上に存在感を増した。



「・・・シャル、愛してる」



 完全にオオカミさんへと変化を遂げたオスカーは、頭を下げ、妻の耳元で色っぽく囁いた。



「大切に、抱くから」



 いよいよだ。


 いよいよ、待ちに待った、待ち焦がれ、指折り数えた初夜―――



「やっとだ。嬉しい」


「・・・」


「シャル・・・?」



 待ちに待った初夜―――



「・・・え? シャル?」


「・・・」



 待ちに待った、初夜―――



「寝てる・・・? 嘘だろ・・・」


「・・・」




 オスカーは、がっくりと項垂れた。











「・・・ん・・・」



 次にシャルロッテが目覚めたのは、夜明け近くだった。



「あれ? 私、なんで・・・」


「起きたか? シャル」



 シャルロッテが現状を把握する前に、側から声がした。



 やけににこやかな表情を浮かべているオスカーだった。



「オスカーさま? え? どうして」



 起きてすぐ側にオスカーがいたから驚いた訳でない。ここ最近、ずっと抱きしめられた状態で一緒に寝ていたから、そこはもう感覚が麻痺していた。


 シャルロッテが驚いたのは、オスカーが裸だった事だ。そして、なんとなくだが寝具が肌に当たる感覚からすると、自分も裸のような気がする。



「えっと、あれ・・・?」



 これはどういう状況だろう、とシャルロッテは、寝起きでまだよく回らない頭で考えた。



 夜明け近くだというのに、オスカーの目の下には隈があった。つまり彼は寝ていない。


 にっこりと口元は弧を描いているけれど、彼の目は笑っていない。不機嫌? いやガッカリしてる? でもどうして? そこまで考えて、ようやく思い至った。



 ―――あ、今夜は初夜だった。




「もう朝だから、正確には初夜ではないが、そこは別にいいよな」



 むくりと起き上がったオスカーが、シャルロッテの顔の両側に手をつき、上から見下ろすようにして言った。



 いいよな、とはつまり・・・



 シャルロッテは目をキョロキョロさせながら口を開いた。



「あ、朝になっちゃいましたけど・・・?」



 先ほどまで暗かった室内は、日が昇り始めたのか、カーテンの隙間から微かに光が射し込み、ほのかに明るくなっている。


 オスカーの端正な顔も、引き締まった筋肉質の体も、これではちゃんと見えてしまう。



「仕方ないだろう? シャルが起きるのを待ってたらこんな時間になってしまったんだから」



 そう言って、オスカーはシャルロッテの額に唇を落とした。



 初夜ならぬ、初朝。


 しかし、これを拒むのは酷だろう。シャルロッテが目覚めるまで、オスカーは待ってくれたのだ。―――徹夜で。



「大丈夫、今度・・は手加減するから」


「・・・ヨロシクオ願イシマス・・・」










 一応、報告しておこう。



 初朝は成功に終わった。







  

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