忘れてた
手を繋いだままゆっくりと庭を歩く2人は、どちらもひたすら無言だったが、不思議な事に気まずさは感じなかった。
その後だいたい10分ほどは、その状態が続いただろうか。
沈黙よりも繋がれたままの手の方が気になってしまうシャルロッテは、緊張と恥ずかしさとでそろそろ限界が来そうである。
そんな頃になって、ようやくオスカーが沈黙を破り、この後の結婚式の予定について話し始めたのだが。
「・・・え? 2週間後ですか?」
シャルロッテは驚きの声を上げた。
オスカーが口にした日付は予想よりもずっと早かった。結婚がまとまったのもつい最近だというのに、
しかも、マンスフィールド領の神殿長との話次第では、更に早くなる可能性もあるとか。
実際、結婚も婚姻書類の提出だけなら即日、もしくは翌日でも可能だが、結婚した事を社交界に遠く広く周知する為には挙式が必要だ。なにしろ縁談よけ目的である、「結婚してたなんて知らなかった」などと周りが思っているようでは駄目なのだ。
けれどオスカーによると、彼が欲しいのは皆に式の招待状を送った事実であって、参列客の数はどうでもいいらしい。むしろ煩わしいから来ないでくれる方がありがたいとか。
だからなのだろう、王家および全貴族家に送る予定の招待状は、式の日取りが決まってから発送するが、届くタイミングとしては式の前々日あたりを狙うらしい。
常識外れも甚だしいが、王家の横やりを警戒して敢えてなのだとオスカーは言う。
正直シャルロッテには、オスカーのそこまでの警戒心は分からない。だが、王女に迫られた本人がその必要があると思うのなら、シャルロッテから言う事は何もない。
「そういう訳だから、外部の者でスケジュールを合わせて式に参列する奴はそういない筈だ」
「そうなんですね」
オスカーから丁寧に今後の予定について説明されてはいるが、正直、先ほどからシャルロッテの意識の半分は繋いでいる手に持って行かれている。
手を繋ぎたいと言ったのは確かにシャルロッテだし、初恋の人との初めての手繋ぎに感激している事には違いないのだが、なにしろ色々と急展開で、考える事がありすぎて、もう頭の中が結構いっぱいいっぱいだ。
―――このままだと、嬉し恥ずかしすぎて悶え死んじゃう・・・
なんて、シャルロッテが考えていた時、オスカーが隣でぽつりと呟いた。
「・・・マズい」
「? なにか?」
「ああいや、その・・・」
シャルロッテが見上げれば、オスカーは焦っているのか、目をうろと彷徨わせる。
どうやら言いにくい事らしいが、話題を変えようとはしないところを見ると、必要な話なのだろう。
シャルロッテは黙って話の続きを待った。
やがてオスカーは、意を決した表情でシャルロッテへと視線を向けた。
「・・・結婚式で、誓いの口づけがある事を思い出した」
「・・・へ?」
何かとんでもない単語を聞いた気がしたシャルロッテは、間の抜けた声を出した。
空耳か幻聴を疑ったが、どうやらそうではなかったらしい。オスカーは至極真面目な顔でダメ押しの言葉を継いだからだ。
「神殿長の前で夫婦の永遠の絆の宣誓を行った後、その証として口づけを交わす事になっているだろう? それをすっかり忘れてた」
オスカーは眉根を寄せ、顎にもう片方の手を当てながら思考を巡らせた。
「・・・無しで済ませる・・・? いや、参列客が絶対に来ないという保証はない。それにどうせ、神殿長や神官など神殿側の人間がその場にいる。儀式を省略して、それが外部に知られるのはマズい・・・」
同じく誓いの口づけの事を忘れていたシャルロッテは、ただでさえ手繋ぎだけでいっぱいいっぱいだったせいか、キャパオーバーでろくな意見も思いつかない。
結局、
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