第104話

 アイアンメイデンタクシーに揺られること数分、どうやら最下層までやってきたみたいだ。

 どんな幻獣がいるのかと思っていたが、僕の思っていたものではなかった。


「やっ、こんばんは。幻獣の主――サクたん」

「誰、ですか?」


 アイアンメイデンから降りて最初に目に映り込んできたのは、大きな監視塔のような建造物だった。

 そして次に、カモノハシっぽい生き物を抱きしめているフードを被った女の子の姿と目が合う。


「ああ、コレ? これは新種の幻獣だよ。そうだね、コイツはあまりに謎が多いから名前は……〝ナゾノカモノハシ〟とかにしよう!」

「ほぇー、そうなんですね!」

「っと、自己紹介が遅れちゃったか。初めまして。ボクはまほろだよ」

「え――」


:え

:は?

:ふぁ⁉

:どういうことだってばよ

じゃねーか‼


 フードを取った幻と言った子は、一瞬鏡を見ているような錯覚に陥るほど僕と似た顔つきをしていた。

 でも髪は銀髪に紫色のメッシュで後ろで縛るほど長いし、瞳もアメジストのような色だ。僕をもっと女の子っぽくした、みたいな感じかな?


「なんか僕とすごい似てますね! お近づきの印にバナナいりますか⁉」

「うげっ! ボク、バナナが世界で一番嫌いなんだ……」

「え~もったいない! もしゃもしゃ……」

「バナナ食べてる……! それじゃあボクからも、お近づきの印にいる?」

「うえっ! 僕、ピーマンが世界で一番嫌いなんです……」

「え~もったいない。もしゃもしゃ……」

「ピーマンそのまま食べてる……⁉」


:何してんだコイツらww

:正反対な感じだな

:くっそ似てるけど親戚とかじゃないマ⁉

:ペット紹介配信の時の女体化サクたんとそっくりやな

:バナナーとピーマーの邂逅ワロタ

:ダンジョン最下層で飯を貪るなw

:緊張感のない存在が増えちまったなぁ!


 見た感じ囚人服は着ていないし、刑務所に送られた人じゃないのかもしれない。僕と同じように幻獣を探しに来た人なのかな。

 そんなことを考えていると、幻さんは心でも読んだようにしゃべり始めた。


「ボクは世界中の幻獣を探しているんだ! よかったらサクたんのとこのも見せてほしいな~」

「いいですよ! じゃあまず……――って、どうしたんですか? 牙狼さん」


 彼女に近づこうとすると、牙狼さんにガシッと肩を掴まれ引き留められる。

 焦っているような、恐怖を感じているような。そんな感情が伝わってきた。


「今、日本にはヤベェ裏の組織が四つある……。鬼蛇穴組、D.U.S.Tダスト超電脳狂詩曲スーパーサイバーラプソディー、そして〝幻影狩ファントム・イーター〟。――!!!」

「えっ……?」

「……あ~あ、ばらさないでよ。牙狼くん、散々ボクにお金を貢いでくれてたのにどうしちゃったんだい?」

「テメェ……ッ‼」


 幻のニコニコとした表情が消え失せ、空気が冷たくなる。

 

「おいガキ、何か戦える幻獣を呼び出せ! あいつは絶対お前の味方じゃねェ‼」

「わ、わかった!」


 いきなりのことで一瞬脳がフリーズしかけたけど、なんとか思考を巡らせた。

 右腕に力を籠めて金色の模様を浮かばせて〝鍵〟を使用しようとしたが、目先にいる幻は左腕に紫色の模様を浮かべている。それは僕の鍵と酷似していて、声も重なった。


「「来て来い。厄災を運ぶ青い鳥――霹靂鳥ハタタドリ」」


 からが現れる。

 けど、あっちの霹靂鳥ハタタドリは数倍の大きさだ。


「なっ……! うちのピー助よりもおっきいですよ⁉」

『ピ、ピィ……⁉』

「当たり前でしょ~? だってこっちの霹靂鳥がね」


:あのチート鍵ってもう一本あったんか

:でもあっちの方が禍々しくね?

霹靂鳥ハタタドリ「くっ、霹靂鳥ハタタドリに負けた!」

:よくわからんがなんか激熱展開だな‼

:ファントム・イーターってなんぞ?


 そういえばピー助はまだ子供の個体だってWDOの人から聞いた覚えがある。

 じゃああれが本当にピー助のお母さん? でもなんだか、目が虚ろなような……。しかもあの雰囲気、


「ボクたち幻影狩ファントム・イーターの目標はただ一つ、幻獣の根絶だ。ボクは幻獣の自我と能力の抽出ができるから可能なんだ」

「……何で、そんなことするんですか」

「幻獣は人知を超えたバケモノ、厄災だ。この世界からも排除すべきなんだよ」

「違う! 確かに幻獣のみんなはすごい力を持ってるけど、心を通わせられるいい子たちだよっ‼」

「仮に幻獣が〝善意の行動〟をしたとしても、それが必ずしも〝人の思う善意〟と合致しない場合がある。その時は等しく、災厄に括られるはずだと思うけど」

「ちゃんと話し合えば、歩み寄れるはずだと僕は思ってる」

「……見解の相違だなぁ」

「そうだね。ちょっと分かり合えないかも」


 一触即発の雰囲気。

 その静寂を切り裂いたのは、ヲタ衛門さんの声と、とある人の声だ。


「みんな伏せるでござるゥーーッ‼」

「えっ? 何が――」


 後ろを振り向く間もなく、牙狼さんに突き倒される。そして、か細いながらも、殺意を孕んだ声が聞こえてきた。


「――〝螺旋伍式らせんごしき花沫はなしぶき〟」


 ――ザンッ‼


 刹那、巨大な監視塔を含めた、周囲の全建造物が横一閃に切断される。

 そんなとんでもない芸当を見せたのは何と、


「す、さん⁉」


 あの日、天宮城さんと案件配信をした水族館と同化したダンジョンの館長さんが、仕込み刀を抜刀していたのだ。

 ここにいるってことは、ウオカゲがやられたってこと⁉


:⁉⁉

:お、おじいちゃん⁉

:爺ちゃん鬼強ええええええ‼

:世界は広いなぁ……(現実逃避)

:卍 我 顎 開 門 卍

:↑顎が外れたことをかっこつけて言うな

:あの水族館を管理するだけはあるな

:なんだこのバグみたいなおじいちゃん!

:※彼はただの水族館の館長です

:こんな館長がいてたまるかw


「来たか、バケモノめ。もう少しだけ話がしたいから、一旦距離を取ろっか。……来い、空の神――空亡ソラナキ


 一瞬、ダンジョン内だというのに天井に空が見えた。そう思った次の瞬間には、ダンジョン最下層から地上の刑務所まで転移していたことに気が付く。

 これも、幻が抽出したと言っていた幻獣の力なのかも。

 ギロリと彼女を睨むと、呼応するように三日月型の口で笑みを浮かべた。


「サクたん、このカモノハシと前回捕まえた水族館の幻獣は君にあげるよ。ただ、これ以降は早いもの勝ちだ」

「わわっ⁉ でかいタツノオトシゴ出てきた!」


 ポイッと捨てられたカモノハシを受け取り、突如出現した大きいタツノオトシゴは僕の後ろに隠れる。


「宣戦布告だ。手始めに、この霹靂鳥ハタタドリを本能のままに動かしてみるよ。厄災にならないといいね。あと最後に……――、咲太」

「え⁉ ちょ、ちょっと待って! まだ話を――‼ ……行っちゃった」


:羽衣? みたいなのがついたタツノオトシゴだな

:【幻獣:ワダツミノオトシゴ】

 海を自由自在に操ることができ、ものまねが得意な幻獣でもある。〝海の神〟という異名も。

:はいはい、チートチート

:幻獣は大概無法だからなw

:でもマホロってやつも幻獣の力めっちゃ持ってるからチーターなのでは⁉


 幻はそう言い残し、今までのが全てマボロシだったかのように姿が霧散した。

 一体何者なんだろう……。


『グ、グ、クルルヴ……! ピィイイイーーッ‼』

「ピー助のお母さん⁉ 君も待って!」


 バリバリと青黒い雷を放ったかと思えば、飛び立ってしまった。

 確かあっちの方角は……だ。人がいっぱいいる……!


「おいガキ、アレ追わねェとヤバいことになるだろ」

「はい……でも、僕は館長さんを止めたいので牙狼さんが言ってくれないでしょうか……‼」

「行くにしても、どうやって追えばいいんだよ」

「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、牙狼さんの拠点からありったけのロボットを〝ホシヒコ〟に持ってきてもらってたんです!」


 空を見上げると、発光してゆらゆらとうねりながら空を泳ぐ多くな魚が上空に見える。その後ろには、大量の機械がついてきていた。


 天宮城さんと涼牙で攻略した、東京の星屑の迷宮ダンジョン

 そこで仲間になった子である〝セイグウノツカイ〟ことホシヒコ。この子は空を飛べるし、磁力を操ることができるので、ここまで大量のロボたちを運べたのだ。


「そして、磁力を操るホシヒコと無尽蔵の電力を持つピー助をさせます‼」


:合、体……?

:まさか⁉ww

:キタ━━━━(゚∀゚)━━━━‼

:白阿修羅ぶりだなぁ!


「合体幻獣――〝磁塵電鎧箒星じじんでんがいほうきぼし灰簾迦楼羅かいれんかるら〟‼」

『『ピイイイィィィーーッッ‼‼』』

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【書籍化】動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 〜配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!〜 海夏世もみじ @Fut1

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