社畜、子供育てます

紫川 雫

社畜、子供育てます

「はぁぁ…」

溜息をつきながらパソコンと向き合っている俺は加藤 博也。

外見でも分かるくらいの社畜だ。

髪はボサボサ、隈も酷い。

一応三十路前だが(29歳)マジで顔が老けてるように見えてて泣く。

「(うぅ…俺の相棒はお前だよ…エナドリ…)」

俺はエナドリを飲みながらカタカタとパソコンに数字を入力していく。

「…はっ!定時だ!」

時計を見ると17時を回っていた。

「定時なんで失礼します!」

俺は若干ハイになりながらタイムカードを切り、会社から出た。


__


「ただいまぁぁ!」

バンッと部屋の扉を開けるとそこには俺の彼女がいた。

「おかえり…なんか、今日は元気だね…?」

「優さん!多分エナドリ飲んだからですね!」

俺の彼女の名前は後藤 優。俺より2歳年上の彼女だ。

彼女との出会いは同僚が主催した合コンでだ。

お互いの趣味が似ていることによって意気投合し、そのまま付き合ったのだ。

「そうなんだ…w」

すると、俺の腹の虫が鳴ってしまった。

「ふふっ…今用意するから待っててね!」

「…ありがとうございます…」

俺はそう言い、スーツから部屋着に着替え、飯を食うことにした。


__


翌朝、ルンルン気分で仕事に向かった俺はデスクを見てげんなりした。

「(資料…すげぇ量あるじゃねぇかよ…)」

俺はそう思いながらも仕事を始めようとした。

すると、同僚の霜田に話しかけられた。

「なぁ、博也。お前、彼女いるだろ?」

「…いるけど…何?」

「いやぁ…ちょうどよかった!俺らの子供やるよ!」

……は?

急にそう言われ、頭に宇宙が広がった。

「え、な、なんで?」

「もう要らねぇんだw」

ケラケラと笑いながら霜田はそう言った。

俺は怒りが湧いたがなんとか落ち着かせた。

「……わかった」

「おっ!助かるわ!じゃ、今日の定時に子供連れてくるわ!」

霜田はそう言い、自分のデスクに戻って行った。

「(……子供を何だと思ってんだ……)」

俺は軽く霜田を睨み、自分の仕事を始めた。


__


そして定時になり、俺は霜田の元へ向かった。

「こいつは梨菜と莉都。じゃ、よろしくな〜!」

霜田はそう言い、子供を置いて去っていった。

「…えっと…初めまして、俺は加藤 博也。よろしくね、梨菜ちゃんと莉都くん」

「よろしくお願いします」

「よーしくおねがーします!」

見た感じ、梨菜ちゃんは中学生くらいの女の子。

莉都くんは小学生くらいの男の子だ。

「…よし、じゃあ帰ろうか!」

「はい」

「うん!」

そうして俺たちは家へと帰った。


__


「たたいま〜」

家に帰ると、優さんがパタパタとこちらに走ってきた。

「おか…おかえり…えっと…梨菜ちゃんと莉都くんだね!私は後藤 優だよ、よろしくね!」

息を切らしながら梨菜ちゃんと莉都くんに自己紹介をする優さん。

「よろしくお願いします…!」

「よーしくおねがーします!」

梨菜ちゃんは少し嬉しそうな顔をしながらそう言った。

莉都くんは変わらず天使のようなニコニコ笑顔でそう言った。

「お腹空いたでしょ?ご飯用意したから食べよっか!」

「「わーい!」」

梨菜ちゃんと莉都くんはそう聞いてとても喜んだ。

「急にごめんなさい…優さん」

「いいって事よ!」

優さんは花のような笑顔を俺に見せてくれた。

「さっ!博也も食べよ食べよ!」

「あ、は、はい!」

そうして俺も飯を食うことにした。


__


「「美味しかった…」」

数分後、飯を食い終わった梨菜ちゃんと莉都くんがそう言った。

「そう言ってくれて嬉しいわ!」

「…ご馳走様でした…今日も美味しかったです!」

俺もそう言うと優さんはほんの少し顔を赤らめながら「ありがとう!」と言ってくれた。

「…さて…と、梨菜ちゃんと莉都くん。少し経ったらお風呂に入ってね」

「じゃあ、梨菜ちゃんは私と入ろうか!」

俺がそう言うと、優さんがそれにノッてそう言った。

「あ、は、はい!」

「じゃあ、莉都くんは俺と入ろうか」

「うん!やった!博也さんとお風呂だー!」

梨菜ちゃんは嬉しそうに頷き、莉都くんは万歳をした。

「…じゃ、俺は食器を洗うよ」

「あ、私も手伝います!」

「お!ありがとう、梨菜ちゃん!」

そうして俺と梨菜ちゃんは食器を洗い始めた。


__


「…梨菜ちゃんはさ、お父さんやお母さんのこと…好き?」

俺は食器を洗いながら梨菜ちゃんにそう聞いた。

「…私は好きじゃない…」

食器を拭きながら梨菜ちゃんはそう言った。

「私、お母さんとお父さんに殴られてたの…それは…莉都も同じ」

梨菜ちゃんはチラッと優さんと遊ぶ莉都くんの方を見た。

「…莉都は…わかんない…まだ小学生だから…」

「…そっか…ごめんね、辛いこと話させちゃって」

俺がそう言うと梨菜ちゃんは俺の方を見た。

「いえ、博也さんと優さん優しいので私は好きです、それは莉都も同じだと思います」

どこか悲しそうに笑う梨菜ちゃんの顔を俺はただ黙って見ることしか出来なかった。


__


食器も洗い終わり、皆お風呂に入った頃。

「「…zzZ」」

「あらあら…風邪引いちゃうわよ…」

俺が髪の毛を乾かし終え、リビングに来ると梨菜ちゃんと莉都くんは床で眠っていた。

優さんは梨菜ちゃんを抱えた。俺は莉都くんを抱え、寝室へ向かった。

「…食器洗ってた時の話、聞いちゃったんだけどさ…」

「うん…」

優さんは梨菜ちゃんをベッドに寝かせ、そっと優しく髪を撫でる。

「私…2人のことを幸せにしてあげたい…」

「だから…私、頑張って家事をするよ」

優さんは微笑みながらそう言った。

俺はすかさず反論をした。

「…1人じゃないですよ」

「え…」

「…俺たちで幸せにするんですよ」

俺がそう言うと優さんはプット吹き出した。

「ちょ!俺、かっこいいこと言ったと思うんですけど!?」

「ごめんごめんwなんか…らしくないなぁ…ってww」

ケラケラと優さんは笑う。

優さんは一通り笑い終え、すぐに真面目な顔になった。

「うん、そうだね」

「俺、今まで以上に仕事頑張ります」

「倒れないでよ!?」

「…善処します…」

俺たちは2人で見つめ合い、笑った。

「…じゃ、寝よっか」

「はい」

そうして優さんは梨菜ちゃんの隣、俺は莉都くんの隣で眠ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る