第43話 俺達で逃げちまうか?
周囲が溶けて後ろに流れていく感覚は獣の姿でないと味わえない。申助は戌二の毛皮にしがみつき次第に暗くなっていく森の中を移動していた。
そうして走り、辿り着いたのは申助と戌二が発情期を過ごした神社だった。周囲に人や妖怪の気配はなく、静まり返っていた。月が東の空に輝いている。冬だから星がよく見えた。
へくちっと申助がくしゃみをする。汗が冷えてきて肌寒くなってきた。
小堂の中に入り、布団を取り出す。戌二は敷布団の上に横になり、申助もならって戌二の毛皮にくるまった。ペロペロと戌二が申助の毛づくろいをしてくれる。
ひどく甘い気持ちになった。
「……妖怪になってもいいから、俺達で逃げちまうか?」
気付いたら、そんな言葉が口をつく。戌二の舐める舌が止まる。群れから離れると氏子からの力が届きにくくなり、妖怪に堕ちる。そうして次第に力の供給がなくなっていき、十年ほどで消えてしまう。
「……なんて」
冗談にしてしまおうと笑顔を作ろうとする。戌二は人間の姿に戻り、申助を押し倒した。
「お前がいいなら、俺はお前を攫って遠くへ逃げる」
至近距離で真顔で見つめられ、申助も人型に戻り戌二の背中に手を回した。服は持ってきていないからどちらも裸である。体温が心地よかった。
「いいのかよ……。お前、命あっての物種とか言ってただろ」
「お前がいいなら俺はいい。犬神族の中で死んだように生きるくらいなら、お前と一緒に十年生きたい」
はは、と申助は笑いを零す。何事にも執着を見せてこなかった彼だと思うと嘘みたいだった。
「いいな、それ。俺もお前と十年、太く短く生きていきたい」
がばり、と戌二の唇が落ちてくる。舌を割り入れられ、絡められた。申助も舌を戌二の口内に入れると彼の犬歯に触れた。猿神族のものよりも尖っている牙は噛まれると痛いが、行為の最中には甘咬みしかされない。
「んっ……、ふっ……」
熱い吐息が混ざりあう。夢中になって戌二の舌を貪っていると、戌二の指が申助の体を弄った。乳首を弾かれ体が跳ねる。気持ちいい。発情期でもないのに戌二と混ざり合いたいと強く思った。
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