あの日夢見たヒーローに

 小さな頃の夢は特撮ヒーローだった。颯爽と現れ、皆を救う無敵のヒーロー。だが、ある時から自分が万能でないことを知る。これは大なり小なり、夢を諦めた人間には覚えのある感情だろう。しかし皆、そこに折り合いをつけ今を生きている。


「待ってろ!今そこから出してやるからな!」


 だが、日常生活の中でもふと自分がヒーローになれるのではと思う瞬間が訪れる。

 ガラスの壁に囲われた箱の中。いたいけな少女が俺の方を見つめている。彼女を救う事ができたなら、俺はなれるだろうか?あの日夢見たヒーローに。


「くそ!また駄目だ!」


 嘆く俺の前で、無機質なアームが開閉を繰り返す。残された百円硬貨はあと少し。そんな俺に、店員のお姉さんが声を掛けてきた。


「あの~。よろしかったらそちらの景品、位置ずらしましょうか?」


 クレーンゲームの箱の中で待つ美少女フィギュアあの娘を救えたのなら、俺はきっと誇れる自分になれるハズ。

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