07-04:変身!
まえぶれもなく、ケインの姿が広間の中央に出現した。予想外の新手の出現に、エルドは一瞬動揺を見せる。だが、現れたのがケイン、それも単独であると知ると、途端に笑い始めた。
「誰かと思えば、あなたですか。増援にもなりはしな――」
その言葉が終わる前に、ケインの全身が光り輝き始める。あまりのまぶしさに視力を失い、エルドも、エライザも、暗黒騎士たちも動きを止めた。
「変身ッ! てか!?」
光が消えた時、ケインがいた所には真っ赤な全身甲冑が立っていた。その手には二本の長剣が握られている。
「なんじゃこりゃ」
ケインは思わず素っ頓狂な声を上げたが、頭の中は驚くほど冷静だった。それどころか、次にするべきこと、そしてその次に何をするべきか、その全てが明確に見えていた。
光の影響から回復した暗黒騎士たちが一斉に襲いかかってくる。ケインは一切の防御行動をすることなく、二本の剣を真正面に突き出した。暗黒騎士の剣が三度、四度とケインの甲冑を打ったが、ケインには小突かれた程度の衝撃しか伝わってこない。
対するケインの攻撃は、真正面の暗黒騎士の両肩に深々と突き刺さっていた。肩部の堅牢な装甲をもものともしない一撃だった。
「うらぁぁぁぁっ!」
ケインは力任せにその両腕を引き切った。暗黒騎士は両腕を失いよろめいた。ケインはその暗黒騎士を容赦なく蹴り飛ばして振り返り、背後で剣を振りかぶっていた暗黒騎士を撫で斬りにした。強力な暗黒甲冑だったが、今のケインには溶けかけたバターのようなものだった。
「セレ姉!」
ケインは群がる暗黒騎士たちを力任せに体当たりで弾き飛ばし、一直線にセレナに迫る。怒涛の勢いで突進してくるケインの前に立ちはだかったのはエライザだ。
「貴様っ!」
「今はあんたの都合がどうのこうのって言ってられる場合じゃねぇ! 生きるか死ぬかの話なんだ!」
剣を打ち合わせながら、ケインは怒鳴る。エライザは無言で雷撃の魔法を放つが、ケインの真紅の甲冑には通用しない。まばゆさに目がくらんだくらいだ。ケインはエライザをパワーで押し切る。体勢を崩したエライザに、ケインは両手の剣を横薙ぎに払う。エライザは辛くもそれを回避したが、結果としてセレナへのルートを解放してしまう。
「シャリー! セレ姉をっ!」
ケインは床に剣を突き刺して、セレナを抱き上げた。そして直感の命じるままに、その身体を放り上げた。エライザはケインのその突飛な行動を前にして、動けなくなっていた。
「何をするつもりだ!」
「安全地帯にね」
ケインは剣を床から引き抜く。その時にはセレナの姿は完全に消えていた。
「よっしゃ、片付けるぞ!」
ケインはまたも防御を完全に捨てて、さながら狂戦士のように立ち回った。あのエライザが呆然と立ち尽くすほどの、悪鬼羅刹のような戦い方だった。
エライザとアリアをして一体も減らせなかった暗黒騎士が、秒単位で数を減らす。今のケインの動きは、聖騎士であるエライザをも完全に
『ここにきて余計な……!』
エルドの
「バカの一つ覚えみてぇに!」
ケインは上に跳び、天井を蹴って落下する。エルドが放つ迎撃の衝撃波が間に合わない。
エルドの甲冑に二本の剣が相次いで食い込んだ。だが、貫通するには至らない。
『小癪な! 錬金術で強化されただけの人間風情が!』
「人間てぇのは、道具や環境を使いこなす生き物なの!」
互いに目にも止まらぬスピードで剣を振るい、罵声を飛ばしながらぶつかり合う。
「俺はな、政治とか軍事とか、そーいうのはどーでもいい人なの! ただ好きなことやって、好きなやつとクソくだらねぇ話をしてたいだけの、クソ生意気な若造なのよ!」
『なんと利己的な! 貴様のような無価値で刹那的な人間が、世界を腐らせる!』
「何とでも言えよ、この妄想野郎!」
ケインが肩から体当たりを仕掛ける。まともにくらったエルドは吹き飛ばされ、壁に大きな穴を
ケインのその超高機動に、エルドは全くついてこられていない。エルドとて無制御であり、剣と魔法の達人だ。だが、即席無制御とも言えるケインの戦闘力は、エルドを完全に上回っている。転移魔法を駆使するエルドに、ケインは易々と追いつくのだ。
『馬鹿な、この力を手に入れた私が、押されている……!』
「認めろよ、このバカ! 魔神の力があろうと、てめーは一般人の俺に負ける運命なの!」
『この私を愚弄するか!』
「一般人を馬鹿にしてんじゃねーよ!」
ケインの雷光のような斬撃が次々とエルドの甲冑に直撃する。
『させるものかぁぁッ!』
「うおおおおおおおッ!」
空中でぶつかった二人の間で、連続的な撃剣が行われる。壁も天井ももはやあったものではない。魔石の城は見る間に廃墟と化していく。
続く轟音と振動に、アリアがようやく我に返った。
「これは……!?」
「もはやわからん」
アリアを抱き上げながら、エライザは首を振る。その表情には困惑もあったが、どこか状況を楽しんでいるような気配もあった。アリアは部屋の惨状を眺め回し、表情を険しくした。
「装置が……」
人造無制御生成装置とも呼ぶべき筒は、その
床が粉砕され、エルドの身体が一メートル近くめり込んでいた。甲冑に大きな傷や歪みが生じている。
「おらぁぁぁぁぁっ!」
追いかけてきたケインが落着寸前に剣を振るう。衝撃波が高熱を
『私は、死にませんよ……!』
それでもエルドは動いていた。エライザはアリアを抱いたまま転移を繰り返して距離を取る。
エライザは、もはや自分の出番は終わったということを悟っていた。エルドのことはケインに任せるべきだと。そしてまた、ケインの力はほんの一時的なものに過ぎないということもわかっていた。
『私はお前たちより圧倒的に優れている! まがい物の力ではない!』
「てめぇの話は!」
ケインが左右の剣を大きく振りかぶった。
「聞いちゃいねぇ!」
倒れたエルドに対し、ケインの剣が容赦なく幾度となく振るわれる。一撃ごとにエルドの甲冑が激烈なダメージを受け、やがて耐えかねたかのように、砕け散った。
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