第20話 編入生最強同士の戦い
《三人称視点》
「はぁああああああ――!」
サリィは気迫と共にリクスへ迫り、レイピアを突き出した。
その速度は風のように
貴族として幼少から剣術の教育を受けてきたサリィにとって、美しく強い剣技は彼女の誉れそのものだ。
勢いよく突き出されたレイピアを、リクスは躱す。
けれどそれは、サリィの予想通り。
サリィとて、仮にも同じ編入生として最高レベルの成績を残し、勇者の弟でもあるリクスを三下と侮るほどバカではない。
だから、レイピアを突き出すと同時に次の手を放つ。
「
レイピアを引いた瞬間、サリィが予め唱えていた魔法が完成する。
中級魔法“ウィンド・ブラスト”。リクスが先程使用した初級魔法“ウィンド・ブロウ”の上位技だ。
サリィの左手から突風の
(勝った! 避けられるタイミングじゃありませんわ!)
サリィは内心でほくそ笑む。
言ってしまえばレイピアは前座。本命を隠すためのブラフに過ぎない。
体勢を崩したリクスは、巨大な暴風を避けられるはずがない。
だからこそ、右足を軸に半回転してあっさりと避けてしまったリクスを見て、サリィは驚愕に目を見開いた。
「なっ!」
振り返りざま、妙にゆっくりした動作で剣を振るうリクスから距離を取り、サリィは呼吸を整える。
「……なるほど。まさか今の攻撃を避けるとは。なかなかやりますわね」
サリィは忌々しげに吐き捨てる。
それに対し、「何が?」とでも言いたげに首を傾げるリクス。
「す、すげぇ……お前、今の避けられるか?」
「い、いや。そもそもさっきのバルダの連撃だって耐えられねぇよ、俺じゃ」
「初撃の突き攻撃もそうですけれど……あの“ウィンド・ブラスト”は、とても躱せる速度じゃありませんわ」
周りにいたクラスメイト達も、サリィ達が繰り広げる、1年生のレベルを超越した戦いに目を剥いていた。
いや、サリィの突出した技よりも、それを避けてしまったリクスに注目が集まっている。
「ワタクシのブラフを避けた上で、本命の攻撃すら避けてしまうとは、悔しいですがワタクシと同等の力を持っている事は、認めざるを得ませんわね」
もはや試すような真似は終いだ。
ここからは、相手を強者として認識し、最強の技をもって沈める。
サリィの気迫に応じるようにして、足下に小さく風が渦巻く。
それを見て、リクスはどこか焦ったように冷や汗を流した。
(! ワタクシが本気で挑むことに気付いた? いえ、あり得ませんわ! ワタクシはまだ、魔力を練っている最中。攻撃はおろか、呪文すら唱えていませんのに!)
リクスの表情が変わったことを見て、サリィに緊張が走る。
まるで、自分が次、最強の必殺技を撃つための準備に入ったことを理解していると見受けられたからだ。
――が、当然それはサリィの勘違いである。
リクスはただ、自分が避けてはいけない攻撃を避けてしまったことに焦っているだけだ。
サリィが本命だと言った超至近距離からの“ウィンド・ブラスト”は、リクスにとっては、レイピアが躱されたからとりあえず牽制として放っただけの、ただの二撃目にしか過ぎなかったのである。
故に、サリィや周りの生徒達からの注目を集めてしまい、自分の退学計画に支障が出ると焦っていたのだ。
そうとは知らないサリィは、リクスという得体の知れない相手を確実に仕留めるために、必要以上に膨大な魔力を練り上げていく。
「ワタクシに本気を出させたこと、誇ると良いですわ!」
サリィはレイピアを空に掲げ、高らかに呪文を叫んだ。
「風を統べる天魔の王よ、我が声に応えよ、逆巻く風に容赦と罪を与え給え――」
詠唱の開始と同時に、サリィを中心に風が渦を巻く。
生じた風は次第に威力を上げながら、轟々と音を立て始めた。
「う、嘘だろ!?」
「あの呪文は、風属性上級魔法“ノックアップ・ストーム”だ!」
「い、一年の時点で上級魔法って、そんなの反則級よぉ!?」
周りの生徒達は、サリィが唱える魔法に、戦慄と驚嘆を覚えていた。
魔法には5種類の段階が存在する。
初級・中級・上級・超級。そして、超級のさらに上に固有魔法。
基本、上に行くほど習得と行使の難易度が上昇するのは言うまでもない。
初級は詠唱いらずでわりと誰でも扱えるものだ。“ファイア・ボール”や“ウィンド・ブロウ”、“
習得の目安としては、英雄学校卒業までに中級を使いこなせるようになり、上級を一つ以上習得することだ。
王国最難関の英雄学校でも、上級のうち一つだけを習得することが、卒業の最低条件なのである。
それだけ上級魔法は難しい。超級に至っては、宮廷魔法使いや一部の英雄のみが使うものだ。学生レベルで扱える者などいない。あえて例を挙げるなら、勇者エルザが使えると知っているくらいだ。
固有魔法に至っては、ほぼ伝説級である。
既存の魔法のどれにも当てはまらない。または、既存の魔法に比べて著しく威力や効果が大きいものを指す。その人特有の魔法のことだ。
それを習得するには、桁外れの魔力と、魔法に関する深い理解を要すると言われている。
だから、姉のエルザを除いてまだ誰も知らない。もしかしたら、編入の実技試験を見ていた者達の中には、その可能性に思い至っている者もいるかもしれないが。
リクスが持つ“
――今サリィが起動しているのは、鬼才集まる最難関英雄学校の生徒達が、三年間で一つ習得を目指す、超難易度の高い上級魔法。
それを一年生の段階で扱えるのだから、誰もが驚くのも無理はなかった。
サリィの周囲を回る風が威力を増し、数十メートル上空に突き上げていく。
その威力は指数関数的に上昇していき――
「――“ノックアップ・ストーム”!」
サリィの呪文が完成した。
瞬間、うねりをあげる嵐が、周囲に広がった。
水の上に波紋が広がるように、サリィを中心にして、ステージを埋め尽くすかのごとく広がっていく。
そしてその進路上には、リクスが立っていた。
それも、今までにないくらい、歓喜に満ちた表情を浮かべて――
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