第5話 予想外の高印象?

「……は?」




 面接官は、呆けたようにつぶやいた。


 


「えっと……それは、どういうことかな?」


「そのままの意味です。俺は別に受験とかするつもりなかったんですけど、無理矢理受けさせられて」


「ほほう。つまりリクスくんは、自分の意志で本校を受けたわけではない、と」




 面接官は頷きながら、手にした紙に羽ペンで何かを書き込んでいく。


 おそらく、志望動機E、とかだろう。




 うん? 待てよ。


 これは……使えるぞ。




 俺は、内心でほくそ笑んだ。


 このまま面接官を呆れさせれば、俺はきっと試験に落ちる。


 倍率が鬼のように高いこのエリート高だ。俺のように「怠惰」を座右の銘とする人間が入れるような、甘い場所ではない。




 そして――試験に落ちれば、ごく正当な理由で姉の臑をかじって暮らせるのだ!


 俺を見る面接官の目が非難めいているのを、俺はキラキラした瞳で見つめ返した。




「えーと……ちなみに、その姉というのは?」




 ここまでくると、特に聞くこともないのだろう。


 呆れた面接官の聞いてきた言葉がそれだった。




「え? 姉はエルザです」


「エルザ? まさかとは思いますが、勇者のエルザ=サーマルでは……」


「はい。そうですけど」


「なんと!?」




 次の瞬間、面接官は勢いよく立ち上がった。


 その反動で、彼の座っていたイスが後ろに倒れる。


 だが、それに一瞥いちべつすらくれず、面接官の瞳は俺を見ていた。




「ふむ……ふむふむ。確かに、言われて見ればどこか面影がある。髪色は違うが……」




 面接官は、興奮を押し殺すように言った。


 


 確かに、姉さんと俺の髪色は違う。


 姉さんは雪のように白く輝く、純白。


 俺は、夜の闇のような漆黒だ。




 だけど瞳の色は同じ赤だし、女性的なラインを描く顔の輪郭は似ている。2人とも母似なのだ。




 先程の様子から一転。


 面接官のじいさんは、どこか興奮した様子でしきりに俺を眺めていた。




「あ、あの……面接の続きを」


「いや、いい。十分だ」




 面接官は、なぜか1人で納得したように頷く。




「え? だってまだ面接の時間は半分以上も残って――」


「彼女が君をこの学校に推薦したのなら、その実力はお墨付きだろう。私の面接などもはや必要ない」




 ま、まずい。


 笑顔の面接官を見ながら、俺は戦々恐々としていた。


 なぜか知らないが、面接が合格する流れになっている。なんとかしなければ――




「あ、あの。俺は姉さんの肉親ですよ? 弟を贔屓するのは極めて自然だと思いますが――」


「いいや。彼女は、実力を認めていない相手を決して褒めることはしないし、訓練の場に誘うこともない。彼女の師匠として名を馳せたある男も、とある事件で彼女を失望させて追放された。優しく人気者だが、興味の無い相手は見向きもしない。そういう孤高の女性だ。彼女が学園でなんと言われているか、君は知っているかな?」


「いえ」




 あまり興味も無いし。という言葉は流石に飲み込んだ。




「周りに決して靡かぬ姿から「凪の勇者」や「鉄の生徒会長」なんて呼ばれてたりするのだ」


「え、姉さんてそんなふうに呼ばれてたの……」




 家では暴風吹き荒れてるのに、と心の中で言う。


 家での姉さんしか知らないから、面接官の言う姉さんの姿が想像できない。




「まあとにかく、そういうわけで君はあのエルザ会長に気に入られていると見える。であれば、私など出る幕もない。面接は合格だ。実技試験に向かいたまえ」


「そ、そんな! 俺は――っ!」




 慌てて、面接で落としてくれるよう懇願しようとする。


 が、そのとき転移魔法が発動したらしい。


 俺の身体は、強制的に廊下に弾き出されていた。




「次の方、どうぞ」




 部屋の中から、面接官のウキウキしたような声が聞こえてくる。




「ね……姉さんのばかぁああああああああ!」




 こうなったのも、全て姉さんが悪い。


 俺は、行き場のない怒りを吐き出して、重い足取りで実技試験の会場へ向かった。


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