荒野に咲く

かいんでる

scene1:夢見る笑顔


【西暦20✕✕年7月。


 ある国で、兵器開発の実験中に事故が発生しました。


 その実験とは、動物を兵器として運用する実験でした。


 遺伝子操作により、兵器として生み出された動物。


 人間が想定していない知能の発達。


 動物兵器の人間への反乱。


 それが、このとき起きた事故であると伝えられています。】



「みんな、説明は全部読みましたか?」

 


 女性教師の問いかけに、小学生たちが元気に返事をする。


 

「説明は読んだけど、200年前のお話と、この樹と何か関係あるの?」


 

 国営博物館の中央に、天へと向かってそびえ立つ巨大な樹。


 

「それを今からお話してもらうんですよ。では、みんな椅子に座ってくださいね」


 

 床から現れた椅子に座る生徒たち。


 

「みんな座りましたね。では、お願い致します」


〔こんにちは。説明係のHC001−ミライと言います。よろしくお願いいたします〕


 

 生徒たちの元気な返事が静まったところで、ミライが話し出す。


 

〔西暦20✕✕年に起こった動物兵器の反乱。


 当初は、軍隊により速やかに沈静化すると思われていました。


 しかし、兵器として強化され、知能の発達した動物たちに、軍隊は全く歯が立たなかったのです。


 陸上のみならず、海と空にも動物兵器は居たのです。


 国が秘密裏に処理しようとしていたため、世界が気づいた時には手遅れとなっていたのです。


 動物たちは繁殖能力も強化されており、その数は瞬く間に増えていきました。


 動物兵器の反乱は全世界に拡がっていき、戦艦や戦闘機も撃破され、軍事基地も制圧されてしまいました。


 打つ手がなくなった人類は、最終手段に踏み切ることにしました。


 核兵器による動物兵器の殲滅です。


 各国は地下シェルターに生活の場を移し、核兵器による攻撃を実行に移したのです。


 その結果、動物兵器を殲滅するには至らず、地上の80%が人間の住めない地となりました。


 動物兵器の殲滅には失敗しましたが、それでも90%の動物兵器を駆逐することができました。


 しかし、放射能への耐性をも持つ動物兵器は、そこから徐々に数を増やしていったのです。


 核兵器の使用により、インターネットその他通信手段が壊滅しており、各国は独自に対処しなければなりませんでした。


 人類滅亡の危機が囁かれ始めた21✕✕年。


 この国の、第3シェルター基地。


 この物語は、そこから始まったのです。〕




――――――――――――――――――




「第44期訓練生! リンです! 本日付で物資探索隊へ配属となりました!」


「司令のカダイだ。期待しているぞ」


「はい! がんばります!」


「いい笑顔だ。副司令、あとは頼んだぞ」


「了解です。副司令のノダです。まずは待機室まで案内します」


「よろしくお願いします!」



 ノダに案内され、待機室へ入るリン。



「ここが私の部屋と言うことですか?」


「そうだ。専属サポーターとディフェンダーは調整中だ」


「サポートアンドロイドとアニマルディフェンダーですね!」


「君のディフェンダーについて言っておく事がある」


「何でしょうか?」


「ディフェンダー不足のため、リン隊員には、初期に開発されたプロトタイプが貸与される」


「プロトタイプ……ですか?」


「性能は最新型よりも優れている。量産には向かなかったと言うことだ」


「なぜ今まで使わなかったのですか?」


「AIに不具合があるらしい。しかし、任務を遂行するには問題ないとの判断で、今回君に貸与されることになった」


「そうですか。性能が良ければ問題ありません!」


「君は良く笑うな。その笑顔を無くすなよ」


「はい!」



 その後、一通りの説明を受け、そのまま部屋で待機するリン。


 数十分後、部屋の扉が開いた。



「はじめまして。リン隊員専属サポーターのヴォイドです」


「はじめまして! 想像以上に美男子ですね」


「ありがとうございます。リン隊員は笑顔がキュートで好感が持てます」


「へへっ、ありがとね。これからよろしく!」


「俺のことは見えているか?」



 その声は、ヴォイドの足元から発せられていた。



「犬? 喋ってる? 何で?」


「俺が貴様のディフェンダーだ」


「えっ!? ディフェンダーってカクカクしてて銀色のアレでしょ? どう見ても犬だよ」


「あんなのと一緒にするな。俺はプロトタイプだからな。開発者の趣味で、柴犬とやらに似せて造られた」


「そう言えば、ノダさんがプロトタイプって言ってたわね。プロトタイプだから喋れるの?」


「だな。量産型には無い贅沢な機能だ」


「性能もいいって聞いたけど、本当?」


「貴様みたいな青二才には勿体ない名品だ。俺に護られることを感謝しろ」


「ふぅ〜ん。AIの不具合って、口の悪さなのかしら」


「俺に不具合などない。この口調は開発者の好みだ」


「ところで、お名前は?」


「DP001だ」


「そんな名前つまんない。私が名前考えてあげる!」


「好きにしろ」



 ブツブツ言いながら部屋の中を歩き回るリン。


 何か閃いたのか、満面の笑みで振り返る。



「デン! 貴方は今日からデンよ!」


「なぜそうなるのか理解に苦しむ」


「偉そうにデンってしてるから! あと、ディフェンダーにもデンって入ってるから!」


「ふんっ、まあ何でもいい」


「嬉しいんでしょ?」


「そんな訳あるか。名前ごとき、嬉しくも何とも無い」


「そんなに尻尾振ってるのにぃ〜?」


「こ、これは……バランスを取ってるだけだ……」


「ふふっ。これからよろしくね、デン!」


「リン隊員をよろしくお願いしますよ。デン」


「リン隊員を護るのは任務だ。言われなくても遂行する」


「二人とも、一ついいかな? 私のことはリンって呼んで!」


「かしこまりました。リンと呼ばせていただきます」


「その方が短くて呼びやすい」


「ヴォイドは敬語禁止! もっとフレンドリーにね。デンは……そのままでいいわ」



 初顔合わせが終わったところに、部屋のスピーカーから招集の合図が流れた。



「リン、ブリーフィングルームへ」


「まだ場所を確認してないの。ヴォイド、案内してくれる?」


「もちろん。では行きましょうか」


「俺は待機してるぞ」


「デンも来なさいよ」


「行かなくても情報は伝わる。行くだけ無駄だ」


「デン、感じ悪〜い」


「デンの言うことも一理あります」


「仕方ないなぁ。デン! いい子でお留守番してるのよ!」


「ペット扱いするんじゃねえ。とっとと行ってこい」



 ヴォイドの案内でブリーフィングルームへ向かうリン。


 薄暗い廊下を歩き、辿り着いたブリーフィングルームの扉を開ける。



「リン隊員。君が最後だ」


「遅れて申し訳ございません!」



 リンが着席すると同時に、壁面のモニターの電源が入る。


 第3シェルター基地を中心に、半径10キロの地図が映されていた。


 地図の中に赤く印が付けられているポイントがある。


 第3シェルター基地から2キロの地点。


 グリーンゾーン危険度レベル1と書かれている。



「物資探索隊隊長のサカキだ。ここに集まったのは、探索出動が2回以下の新人隊員だ」



 リンが周りを見回すと、同じ年頃の男子が2名、女子が1名座っていた。



「本来はベテラン隊員のグループへ編成されるのだが、ベテラン隊員が長期遠征中のため、新人隊員のみで探索出動してもらう」



 リン以外の新人隊員たちの顔が強張る。


 リンは、瞳を輝かせていた。



「出動は明朝7時。質問は?」


「はい! 装備の支給はいつでしょうか!」


「備品保管室へ行けば支給される。今日中に行っておけ」


「はい!」


「他に無ければブリーフィングは終了する。解散!」



 リンがブリーフィングルームを出ると、ヴォイドが出迎えてくれた。



「リン、おつかれ」


「待っててくれたんだ! ありがと!」


「わたしはリンのサポーターですよ。当然です」


「何か嬉しいな。あっ、そうだ! 装備の支給してもらわなくちゃ!」



 自分の夢。それが人類を救うことになると信じているリン。


 リンは、夢に向かって歩き始めたのである。


 その笑顔とともに。

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