第85話 母と娘

「どうしよう………僕は琴音さんから離れられなくなってしまいそう、だってやっと迎えに来てくれたんですよね?」


「それはとっても嬉しいけど………こんな酷い私を許してくれるの?」


「許す?僕は何も思ってません、僕が落ちたのは単なる事故です!誰の責任でもありません」


「ありがとう星七………でも………やっぱり私のワガママのせいよ、だから一生星七の奴隷でいいわ、星七が茉白ちゃんと結婚しても私はそれを見守る」


「それはかなりキツイなあ………琴音さんが誰か好きにな人と結ばれたらならまだ気が楽だけど………それに茉白ちゃんと結婚するかと言われると………確かに好きなんだけど………茉白ちゃんにとって僕は本当にふさわしい人なんだろうか?」


「星七ならどんな相手でも幸せにしてくれそうな気がするよ」


「そうでしょうか?僕は琴音さんに大事にしてもらってます、さらに茉白ちゃんからも大切に思われてます………やっぱりこのままで良いとは思えません………」


「星七が嫌だったら私は引っ越しても良いのよ、もちろん高校へは行けるようにサポートするから安心して」


「え………それは………やっぱり………やっぱり嫌です、やっと迎えに来てくれたのに………やっと会えたのに………」


「まだ一緒に暮らしていいの?」


「琴音さんが嫌じゃなかったら………一緒にいたいです………」


「ありがとう星七………私も離れたくないわ、やっと一緒に居られるんだもの」


「お姉ちゃん!」僕は琴音さんの胸に顔を埋めた。


「大好きよ星七」僕を強く抱きしめてくれた。



 港の見えるマンションへ帰ってきた。何故か少しだけホッとする。静御前が静かに迎えてくれた、やっぱり少し怖い。


「星七ちゃん、琴音を許してあげてね、ダメな娘だけど私にとってはこれでも大切な娘なのよ」微笑んでいる。


「ダメな娘ですみませんねえ〜」下唇を出して明後日の方を向いた。


「でも、心に引っかかってたものが和らいでとっても嬉しいわ、何かお礼が、いやお詫びがしたいけど………何か欲しい物とか無いの?」


「え………何も無いです………すでに琴音さんから高価なバイクとかカメラとかパッドとかもらい過ぎてるんで………」


「そうだ!お爺ちゃんのバイクを星七にプレゼントしたらどう?このまま置いてたら錆びてダメになりそうだし………」


「そうね、それは助かるわ、星七ちゃんお爺ちゃんのバイクを乗ってあげてよ」ニコニコしている。


え〜、またとんでも無いことになって来てるぞ〜、僕は困り果てる。


「星七、ガレージに来て」琴音さんに引きずられるように地下駐車場へ来た。


琴音さんがシートを引っ張ると一台のハーレーが顔を出す、渋味とカッコいいが混在したバイクだ。


「ゲッ………これってそいとげが憧れてるバイクじゃないですか………」


「そうなの?そいとげくんはハーレーが好きなんだ、じゃあ星七が持っててたまに乗せてあげたら良いじゃん」


「僕の免許じゃ乗れませんよ」


「18歳になったら免許取れば良いじゃん、それにこのまま置いていたら錆びて乗れなくなっちゃうし、乗ってくれたらお爺ちゃんも喜ぶと思うな」


「う〜ん………18歳になったら考えます」僕は何とか逃げ出した。


最上階へ上がると静御前がニコニコしている。


「星七ちゃんが乗ってくれるかもって言ったら、お爺ちゃん大喜びだったのよ」


「は………」僕は固まってしまう。


「じゃあ早速乗れるように整備しなくちゃあね」琴音さんもニコニコしている。


この母と娘は人の話は聞かないんだと、改めて思った。

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