第83話 記憶の扉
広い和室に布団が二つ用意されている。久々に一人でゆっくり寝た、しかし少し物足りなさも感じる。
朝になると高宮さんが朝食を用意してくれた。旅館の朝食みたいだ、しかし大盛りのサラダがある。この農園で採れた野菜は自然の香りがしてとても美味しかった。食事が終わると挨拶をして芦屋へ向かった。
運転している琴音さんをみると何処か緊張しているように見える、鼻歌も無い。芦屋の家へ到着した、ガレージに車を停めて階段を上がって家へ向かう。高い石垣の上に歴史を感じる洋館の大きな建物が見えて来る、貴族とか住んでそうに思えた。階段を上がり大きな煉瓦造りの門の前に立つ、その空間は確かに覚えがある気がした。階段の上から下を見るとかなり高い、僕は手すりに捕まった。頭の中にピカッと景色が映し出される。その景色は確かにこの景色だ、しかし何かが違う。
「琴音さん、ここに手すりってありましたっけ?」
琴音さんは少し驚いた顔で首を横に振った。
門をくぐり庭を通って館へ入った。やはり少し懐かしい気がする。
「星七と私はここで半年程暮らしたのよ………」優しい表情だ。
僕は何と無く室内を見回す。
「今住んでるマンションが出来る前は、ここにお爺ちゃんやお婆ちゃんも一緒に住んでたの」
「そうですか」
「私が中学になるときマンションが完成して引越ししたわ」
「お爺ちゃんやお婆ちゃんも一緒にですか?」
「ううん、二人はここに残ったの、でもお婆ちゃんが亡くなったらお爺ちゃんはこの家にいるのが辛いって出て行ったわ、今はニュージーランドに住んでるの」
「え………外国にいるんですか?」
「そうよ」
「星七が来た時、お爺ちゃんは星七の手や顔を見て『この子は強運を持っている、将来が楽しみだ』そう言って抱き上げたわ」
「僕はお爺ちゃんに会っているんですか?」
「そうよ、お爺ちゃんが抱き上げたら、怖がって泣いてたわ」少し笑った。
「そうなんですか?」僕は少し口を尖らせる。
「星七、抱きしめてキスして!」
「どうしたんですか?」
「もしかしたらこれが最後のキスになるかもしれないから………」
「え………」
琴音さんはゆっくりと目を閉じた。僕はそっとキスをした。
「ふ〜っ!」大きなため息をついた琴音さんは、決心したように言った。
「星七、私の部屋へおいで………」
「はい………」僕はついて行く。
吹き抜けのある広いリビングから階段を上がり、ドアの前へ立った。琴音さんは深呼吸して部屋へ入る、僕も中へ入った。広い部屋には大きな書棚が壁に並んでいる。一つの書棚には本でなく子供のおもちゃが飾ってある。僕は不思議に思ってそのおもちゃを見た。
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