第67話 奴隷?

 琴音さんは僕のベッドのシーツを取り替えている。


「すみません、僕がやりますから………」


「いいの、星七はリビングでゆっくりしてて」優しく微笑んでいる。


部屋から聞こえてくるパタパタ言う音に、申し訳ないなあと思いつつも甘えてしまっている。


「あれっ………星七、ちょっとおいで!」


「はい」僕は部屋へ入った。


 琴音さんは机の引き出しを開けようとしている。


「これまで確か、鍵は掛けてなかったよね?」不思議そうに見ている。


 僕は焦った、その中は茉白ちゃんとお揃いの写真立てが入っている。


「星七ちん、鍵はどこ?」


「あのう………そこは………見られたくないものが………」


「何?Hな本でも隠してるの?」少し睨んでいる。


「はい………」お願い見逃して〜、僕は項垂れた。


「いいから鍵!早く!」


僕は仕方なく震えながら鍵を差し出す。


「ふ〜ん、どんな雑誌かしら?星七の好きなH本って何系?やっぱり女子高生とか?」


『ガチャリ!』無惨に引き出しを開けられた。


「何これ?………」琴音さんは写真たての写真をじっと見ている。


「これって、軽井沢の写真なのね」食い入るように見ている。


 手に力が入って震えている。


 琴音さんは僕を睨みつけて写真立てを乱暴に返すと、僕のベッドに倒れ込んで泣き出した。


「何でそんなに幸せそうな顔をしてるの?私になんかそんな顔見せた事ないじゃん」ベッドを叩きながら泣いている。


「もう嫌だ!使用権返してほしい!」さらに強くベッドを叩いた。


「琴音さん………」


「うるさい!出ていけ!」


 僕は仕方なく部屋を出てリビングへ行った。


 2時間ほど泣いた琴音さんは、目を腫らしてリビングへ入って来た。


「琴音さん………」


「いいから抱きしめてキスして………じゃないと耐えられないの」子供のように睨んでいる。


 僕は逆らうことも出来ず、ゆっくりと琴音さんを抱きしめておでこにキスをした。琴音さんは上目遣いで僕を見る。


「おでこじゃ嫌なの!」そう言って目を閉じた。


 僕は琴音さんの唇へそっとキスをする。琴音さんは強く唇を押し付けてきた。僕はそれに応えることしかできない。


 しばらくして目を開けた琴音さんはゆっくりと離れて僕を睨んだ。


「私………これじゃあ星七の奴隷じゃん」口を尖らせる。


「へ………」


「あ〜あ………私、星七の奴隷になっちゃったのね………星七って酷い!」


「僕はずっと琴音さんの奴隷だと思ってました………」


「えっ!何で?こんなに愛情いっぱいで包んでいるのに?」


「僕は子供だったので………分からなかったんです………」


「嘘でしょう!」


「ごめんなさい………」


「じゃあ、今は分かってくれてるの?」


「はい………とっても大事にしてもらってると思います。あの日救急車で運ばれてるとき琴音さんは神様にお願いしてくれました。自分の命と引き換えに僕を助けてほしいと言ってくれました。僕は元気になったあとでその言葉を思い出して心がキュンとなりました」


「星七に聞こえてたのね………」


「はい、意識が薄れていくなかで聞こえたんです」


「やっぱり私は星七の奴隷だね」少しだけ笑った。


「僕は悪い人間になってしまいました。茉白ちゃんとは普通に出会って普通に好きになりました。琴音さんが大切に思ってくれていたのはなんとなく分かってたんです、でもイトコだからきっと付き合うことは無いんだと思ってたんです。だけど今僕と琴音さんの関係は恋人以上に思えます。ただ茉白ちゃんの事を急に嫌いになったり出来ません。僕は良い子ではなくなりました、だから神様から罰を受けるかもしれません、でも………どうして良いか分からないんです」僕はガックリと項垂れた。


「ごめんね星七、私が悪かったわ、あの写真立てを見て星七の表情がとっても幸せそうだったからヤキモチを焼いてしまったの………ごめんね」


「すみません、優柔不断で………」


「いいの、私がしっかり見守るから、でも私にも幸せな顔を見せてね?」


「はい………でもそれは神様が許してくれない気がします」


「大丈夫よ、罰があるなら私が受けるから」


「そんな事はダメです!罰は僕が受けるべきなんです」


「ううん………私は昔、星七にとっても酷いことをしたの………だから今私が罰を受けてるのかも知れない、そうね、きっとそうだわ………だったら星七に罰は来ないわ。そして私はしっかり耐えないといけないわね」


「琴音さんが僕に酷いことを?」


「そうよ………こんな罰では軽すぎるわ」


「どんなことなんですか?」


「ごめんなさい………私の口からは言えないわ………できれば星七にも思い出して欲しくないけど………」


「分かりました、もう何も聞きません、そして何も思い出しません」


「ありがとう星七、大好きよ」僕にもう一度キスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る