第59話 女の直感!

 リビングへ帰ってくると琴音さんはランデビ琴音に変身している。


「あのう………琴音さんへのプレゼントです」紙袋を手渡す。


「ん……何?……私にもプレゼントが有るの?」


「どうぞ開けてください」


「ふ〜ん、何かしら?」楽しそうに開けて中身を引っ張り出した。


「エプロン?」


「はい、最近よく食事を作っていただくので……」


「そんなの気にしなくって良いのに、でも嬉しいわ」ニコニコとエプロンを身に付けた。


 僕の狙いどうりパンツもブラも見えなくなった『やったぞ!ランデビ琴音を封印した!』パッパラ〜!心の中にファンファーレが鳴り響く、一面クリアか?思わず拳を握った。


「どう?似合う?」


「はい、とっても似合います、完璧です!最高です!」拍手する。


「そう……ふん……ふん……」鼻歌を歌いながら部屋へ確認に行った。


 しばらくすると戻ってきて僕を睨む。


「ねえ星七!パンツやブラが見えないようにって考えたでしょう?」


「バレてしまいましたか……」項垂れた。


「そんなに見たくない訳?私の下着姿なんて全く興味ないですって感じ?……ちょっと傷付くんですけど!」


「そうじゃないです……僕には刺激が強すぎるだけなんですう……」眉を寄せる。


「そうなんだ、私のセクシーさは刺激的なの?」ニヤニヤしている。


「でも……たまにチラッと見える方がより刺激的かも知れませんけどね……」


「なるほど……そうか、それ良いかも……じゃあたまに見せるか」笑っている。


「それじゃあ開放感が無いんじゃないですか?」不貞腐れる。


「そうね、今のとこは開放感重視で行こうかな、でもこのエプロンは気に入ったから大切に使わせてもらうわ」小悪魔フェイスで僕を見た。


 僕の試みは無駄に終わったようだ。



「ねえ星七、ゴールデンデンウィークは一人でどっか行きたいの?」寂しそうに聞いてくる。


「僕は去年行った秩父にもう一度行きたいと思ってるんです、今度はバイク2台で」


「ホント?行こう行こう!」琴音さんはパッと明るい表情になった。


僕は一人で行こうかと思っていたが、そうも行かないようだ。


「じゃあまたあの旅館を予約しとくね、今度は2泊しようよ」スマホを出して検索している。


「2泊ですか?……」僕はほとんど寝れなかった事を思い出している。


「あ〜!もう最後の方しか空いてないわ、それでも良い?」


「はい、良いです」


「ん……もしかして前半は茉白ちゃんとデートする気でしょう?」睨んだ。


「まだ何も話してないんで……」


「まあ仕方ないか……使用権を借しちゃったからね…………はい!予約できました!」


 琴音さんはニコニコしている。僕は一瞬籠の鳥になったような気がした。


 図書館で作業をしていた。


「よっ!ヤホー君、元気で頑張っとるかね?」佳さんがやってきた、いつもの意味不明な上司キャラだ。


「あ……はい……今日茉白ちゃんはいませんよ?」


「うん、知ってる」ニコニコと僕の横に座って来た。


「ヤホー君と話したいと思ってさ」


「えっ……何でしょう?」


「この前の誕生パーティの時少し思ったんだけどさ、琴音さんってヤホー君の事を溺愛してない?」


「いや、そんな事は無いと思いますけど……」


「そうかなあ……女の直感でそんな感じがしたのよ……」


「そうですか?……」高校生で女の直感があるんだろうか?


「もし、思う事があったら私に言ってごらん、茉白には言わないから」


「僕が7歳の頃、半年程琴音さんと暮らしたみたいなんです」


「うんうん、それで?」目を輝かせて乗り出してきた。


「僕は何も覚えていないんですけど、琴音さんのママから『一人っ子でワガママだった琴音を目覚めさせてくれたのは星七ちゃんよ』そう言ってました」


「なるほど、それで?」


「だから琴音さんは僕を凄く大事にしてくれるんですけど、何があったか覚えてないんです」


「そっか、だからヤホー君を溺愛してるように見えたんだ」少し納得しているようだ。


「僕は何も覚えていないので何か不可解ですけど……」


「うん、何となく分かった気がする。ヤホー君はとっても優しいし、素直だし、周りの人を大切にしている、それは子供の頃から変わらないんじゃないかな。だからきっと琴音さんはヤホー君のそんな所に影響されてワガママに気がついたんじゃない?そんな気がする」


「そうなんでしょうか?」僕は考え込んだ。


「何となく分かったからもういいわ、もしかしてヤホー君と琴音さんが爛れた関係だったらって心配しただけだから」


「佳さんって爛れた関係が好きですね?」僕は少し笑ってしまった。


「それは当然でしょう、小説家を目指すなら人の心を抉りたいよね」


「小説家ってそう思うんですか?」


「多分……」


「佳さんって個性的な小説ばかり読んでませんか?」


「まあ……そうかもね……」視線が斜め上に移動した。


「大丈夫ですよ、僕は至って普通ですし、茉白ちゃんを大切に思ってますから」


「それを聞いて安心したよヤホー君」


「佳さんってイトコ思いで優しいんですね」


「やめてくれよヤホー君、照れるじゃないか、ハハハ!」また意味不明な上司キャラが出てきた。


「安心してください赤松部長!」試しに乗ってみた。


「じゃあこれからも頑張ってくれたまえ、くれぐれも茉白の件はよろしくな」


佳さんは偉そうに胸を張って出て行った。


「茉白ちゃんと琴音さんか…………イトコだしなあ…………」独り言がこぼれ落ちる。

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