第42話 恥ずかしい!
「お帰りなさい星七、どうだった?」
「はい、チラシやポスターを作ることになりました。商店街の活性化で駅ビルや商店街のあちこちに展示する場所があるみたいです」
「そう、よかったね」琴音さんはニッコリした。
琴音さんは僕を奴隷にしているけど、何かと気にかけてくれる。そうか、親代わりだと言ってたからそのつもりなんだと思った。
数日後、教室でそいとげがチラシを見ている。
「おっ、もうチラシができたんだ」僕は覗き込む。
「うん、デザイン部のみんながいい経験になるからって協力してくれたんだ」
「そうなんだ、よかったね」
「うん」そいとげは嬉しそうだ。
僕は文化祭でそいとげが頑張っていた事を思い出した。そうだ、クラスのみんなにも話してみようと思った。
「みんな、聞いて欲しいんだけど!」
クラスのみんなはざわめいてこっちを見た。僕はチラシを高々と持ち上げ見せる。
「そいとげがバレンタイン用にチョコ風味の和菓子を作ったんだ、よかったら見て欲しいんだけど」
そいとげは何度も瞬きしている。クラスの委員長が近寄ってチラシを見た。
「いいねえ、バレンタインの新しい風みたいな感じで」
その言葉にみんな集まってくる。
「へ〜いいじゃん、私予約したい」数人の女の子がチラシをもらっている。
「そいとげ君には文化祭で助けられたから、気に入った人は予約してよ、それに他のクラスにも教えてあげて欲しいなあ」委員長も広めてくれた。
瞬く間にチラシは無くなってしまった。そいとげはノートに予約を書き留めている。僕はそれを見て嬉しくなった。
「ヤホー、ありがとうな」子供のような笑顔で僕を見た。
放課後の図書館でそいとげのチラシをプリンターで印刷している。そいとげは嬉しそうに見ていた。学校の経費になってしまうけど、そいとげの文化祭や図書館での労働を考えると問題ないと思った。
茉白ちゃんと佳さんもやってきた。最近は4人でいることが多くなっている。
「おっ、三代目!頑張ってるね」佳さんのイジリが始まる。
僕は少しずつ慣れてきている。
「佳さん、茉白ちゃんこんにちは」そいとげは嬉しそうに手を振っている。
「どうなの、状況は?」佳さんがそいとげに聞いている。
「もうクラスの女の子達が予約してくれました」ノートを見せている。
「おっ、いいねえ、私も予約したいなあ」
「ありがとうございます」
「マシューは予約………あ………」突然佳さんが固まる。
「茉白ちゃんでマシューか、カッコいいねえ」僕は思わず漏らす。
茉白ちゃんは固まっている。大きな瞳の下から津波のように涙が溢れ出す。僕はまずいことを言ってしまったようだ。
「ごめん、ごめん、茉白」佳さんは茉白ちゃんを抱きしめた。
僕とそいとげは状況が掴めず顔を見合わせる。茉白ちゃんは佳さんの胸に抱かれて肩を振るわせている。重い沈黙が図書館を征服した。
「ねえ茉白、2年生になったらクラス替えがあるでしょう?そしたらヤホー君と同じクラスになるかもしれないよ。そうしたらバレちゃうかもよ。同じ中学の子達はまだニックネームで呼ぶ子もいるんでしょう?」
「うん………」茉白ちゃんは鼻をスンと鳴らして佳さんから離れた。
「あのね、私は小学校から中学1年くらいまで太めだったの………だからマッシュポテ子って呼ばれたの。それが徐々に短くなってマシューになったの………」
茉白ちゃんは悲しそうな表情で僕を見た。
僕は茉白ちゃんの気持ちがよく分かる。僕はチビとか本オタクとか悪意のある言葉が浴びせられる事も多かった。反論できず悔しい思いをたくさんしたのだ。
「茉白ちゃん、そんなの気にしなくていいよ、だって今はスタイルいいし、可愛いし、心が優しい素敵な人だよ。子供の頃の事なんて思い出にしちゃえばいいさ」
「そうなの?」茉白ちゃんは指先で涙を拭いた。
「そうだよ茉白、頑張ってダイエットしたんだから自慢していいくらいだよ」佳さんが頷く。
「もう、佳ちゃんはいらない事話すぎ」茉白ちゃんは頬を膨らす。
「でも、ヤホー君からスタイルいいし、可愛いし、優しい人って言われたよ、それってほとんど告白じゃん」勝ち誇ったような表情だ。
僕は頬が赤らんでいくのを止められない。
「ほほう、ヤホー君が赤くなってるぞ!」ニヤニヤが止まらない。
僕は恥ずかしさと悔しさで何か反撃したくなった。
「そういえば、プレゼントの小物入れは行方不明になってませんか?」
「え………]佳さんが固まった。
「茉白!私の部屋の事、話したな〜」詰め寄っている。
「ほんの少しだけね」茉白ちゃんは嬉しそうに頷いた。
「もう、二人で笑ってたんでしょう」佳さんは唇を尖らせた。
「ということは………佳さんの部屋は………」そいとげが想像している。
「みなまで言うな!」佳さんはそいとげの頭をクシャクシャと撫でた。
「そいとげの本棚にはHな本がいっぱいあるよ」僕は思わず口走る。
「ヤホー!お前って奴は………」そいとげの顔も深夜の信号機みたいに点滅した。
みんなの恥ずかしそうな笑顔は図書館を和やかにした。
「何となくみんなハズい思いをしたから落ち着いたね」佳さんが笑った。
「ヤホーはハズい思いをしたっけ?」そいとげが考えている。
「あら、ヤホー君は茉白に告白したんだから一番ハズいんじゃない?」
「そうか、そうだね、ヤホーよかったな茉白ちゃんに告白できて」ニヤけている。
僕は覚悟を決めた。
「うん………」唇を噛んだ。
「星七君………………」茉白ちゃんは真っ赤になって俯いた。
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