第29話 手の温もりが………

 日曜日になり、僕は駅カフェへ向かっている。いつもの駅カフェで茉白ちゃんと待ち合わせなのだ。僕の心はバスケのドリブルみたいにぴこぴこと跳ねている。


 駅カフェに到着するとすでに茉白ちゃんは来ていてニコニコと手を振ってくれた。可愛いなあ………心の中で呟く、いや叫ぶ。私服の茉白ちゃんは少し大人びて見えた。僕は思わず緊張する。


「ごめん、待たせちゃった?」前の席に座る。


「ううん、今来たとこだよ」


「茉白ちゃん、私服だと大人っぽいね」心の声がダダ漏れする。


「星七くんはおしゃれだね」上から下まで見ている。


「えっ、そんな事ないよ」はにかんでしまう。


 琴音さんが選んでくれた服は、茉白ちゃんにはおしゃれに見えたようだ。僕は心の中で琴音さんにお礼を言った。


 文化祭以来茉白ちゃんが僕を見る表情が少し変わった気がする。僕の評価が少し良くなったかもしれない、しかしそれも琴音さんのおかげだと思う。僕はオレンジジュースを注文して席へ戻ってきた。


「ねえ、イトコの佳ちゃんへのプレゼントは何がいいと思う?」可愛く首を傾げる。


「そうだなあ………赤松さんのことはよく知らないし、女の人の好みは難しいよね」眉を寄せる。


「佳ちゃんは家も近いから私の部屋へいつも遊びにくるの、そして私の棚の本や漫画をずっと読んでるわ」


「そうなんだ、本や漫画は好きなんだね」


「それにオシャレも大好きで、ピアスの穴はいっぱい空いてるよ」


「ヘえ〜………」茉白ちゃんの耳を見たがピアスは付いていない。


「アクセサリーをいっぱい持ってるんだったら、それを入れる小物入れなんてどうかな?」


「そっか、それいいかも」そう言った後少し考えている。


 僕は考えている茉白ちゃんの表情も素敵だと思って見とれる。


「ぷっ」茉白ちゃんは吹き出した。


「どうしたの?」


「佳ちゃんのお部屋を思い出してたの、小物入れを置いたら遭難しそうだなあって思って、ついおかしくなっちゃった」可愛く肩を揺らした。


 僕は赤松さんの部屋はやや散らかっているんだと思った。


 二人で駅ビルを見て周り、サンロードまで歩く。結局可愛い小物入れを一つ買った。まだ時間があるので、いのがしら公園へ向かう。


 公園は思ったより寒い。茉白ちゃんの手が寒そうにしているように思えた。僕は思いついた冗談を漏らしてしまう。


「手を繋いでもいいのがしら公園………なんて………」言ってしまった後激しい後悔が全身を襲ってくる。


 茉白ちゃんは立ち止まってフリーズしている。やってしまった〜!僕の顔は赤色点滅を激しく繰り返す。


 フリーズしていた茉白ちゃんはゆっくりと口角を上げる、そして僕を見た。


「いいよ、手を繋いでも」そう言ってゆっくり手を出す。


「いいの?」僕は不安なまま手を出す。


 二人の手が触れ合う、一瞬電流が流れる。やがて暖かさが伝わってきた。寒かった公園は暖かい花畑になったような気がして、心まで温かくなる。


「星七くんってオヤジギャグが好きなの?」


「いや、そうじゃないけど………僕は兄弟もいないし友達も少なくて笑いのセンスを習得することができてないんだ………でも………じゃなくて………茉白ちゃんの手が寒そうで………あのう、僕は何を言ってんだろう」僕は明らかに赤くなっている顔で項垂れた。


「お友達に見られたら恥ずかしいね」僕を横目で見て微笑んだ。


「そうだね………」そう答えたが二人とも繋いだ手は離れない。


 そして茉白ちゃんと僕に共通の秘密が出来た気がする。僕はその秘密にじわっと感動した。

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