第18話 ファーストキス
琴音さんは雑誌のモデルを続けているようだ、撮影が入ると夜遅くなる日もある。疲れた表情で帰ってくる日もあるので少し心配になることもある。ある日お風呂から声がした。
「ねえ星七、ちょっと来て!」
えっ、お風呂へ行くの?もしかして背中を流せとか?恐怖に怯えながらお風呂のドアをノックする。
「湯船の中だから安心して入っていいよ」少し元気のない声だ。
「じゃあ、入ります」そう言ってガラス戸を開け中へ入る。
湯気の中、湯船で髪を上げた後ろ姿が見えた。
「ねえ星七、首の後ろをよく見て、アレルギーが出てない?」
「えっ、アレルギーですか?」僕は言われるままに近づき首の後ろあたりをじっくりみる。
「少し赤くなって、やや荒れている感じがします」正直に見たままを伝えた。
「やっぱりそうか………ひどくなるとまずいな。撮影に支障が出るかも………」不安そうだ。
「ありがとう見てくれて」琴音さんは力なく言った。
「はい」僕はリビングへ戻ってくる。
何となくアレルギーの原因を考えてみる。もしかして僕の作った料理のせいかも?僕の中に不安が膨れ上がる。
琴音さんはいつものようにパンツとブラのランデビ琴音さんに変身してバスタオルで髪を拭きながら出てきた。今夜のランデビ琴音さんはややパワーが感じられなくてまぶたの裏には焼きつかない………ようだ。
「あのう………僕の料理が酷いせいでアレルギーが出たんじゃないでしょうか?」不安で聞いてみる。
「そんな事ないよ、高校の頃からたまに出てたのよ。最近は出なくなったと思って安心してたんだけど、また出ちゃったね。星七のせいじゃないから安心して」少しだけ笑った。
「でも………………」また出るようになったきっかけは僕の料理のせいではないかと考えてしまう。
僕はその夜パットを開きアレルギーについて検索する。首の皮膚はデリケートでトラブルが起こりやすいらしい。熱いお風呂や長時間の入浴も良くないらしい。それに低刺激の石鹸やシャンプー、ボデイソープを使った方がいいらしい。精神的なことが原因なこともあるようだが、そこは僕ではどうにも出来そうにない。
翌日僕はドラッグストアーへ行き、店員さんへアドバイスしてもらって石鹸やシャンプー、ボディソープなど、刺激の少ないものにした。お風呂の温度も設定を低くした。
「お風呂は僕の仕事だしなあ………………」独り言が漏れる。
料理も体に優しいものを本を読んで調べ、少しずつ実行する事にした。
夜になってお風呂から声がした。
「ねえ星七!ちょっときて!」僕は慌ててお風呂へ行きドアをノックする。
「湯船だから入っていいよ」
「入ります」
湯船で髪を上げた可愛い琴音さんが僕を睨んでいる。
「ねえ星七、お風呂がぬるいよ!それに新い石鹸やシャンプーは何なの?今までのが気に入っていたのに」頬を膨らませている。
「あのう………アレルギーを検索してみたんですけど、熱いお風呂とか長湯は良くないらしいんです、それに刺激の少ないシャンプーや石鹸をドラッグストアーの人に相談して選んでもらいました」僕はボソボソと答えた。
「え〜!調べてアレルギー対策をしてくれたの?」琴音さんは驚いて目が大きくなった。
「はい、お風呂は僕の仕事だと言われてますから………」俯きながら答える。
「星七ちん、ありがとうね」琴音さんはこれまで一度も見せたことのない、とびきり優しい笑顔で微笑んだ。
お風呂から出て来た琴音さんはランデビ琴音に変身して楽しそうにバスタオルで髪を拭いている。
「ヤホーがアレルギーを検索してくれた」ニコニと独り言を言っている。
僕は聞こえないフリをして何の反応もしなかった。
ジャージ姿になった琴音さんはいきなり僕に抱きついて「星七、ありがとうね」そう言って僕のおでこにキスをした。
「え〜!!!」室内に雷鳴が轟く。僕の体に高圧電流が流れ身体中の骨がビカビカっと光った気がした。
「何してるんですか!」僕は固まって震える。
「何って、キスしただけでしょう?」
「キスしただけって………」後の言葉が出てこない。
「だって小さい頃はいっぱいキスしたじゃん、しかも口と口で」そう言って唇を尖らせた。
「………………」僕は呆然と立ち尽くす。
「星七のファーストキスの相手は私なんだぞ!」自慢げに言った。
「嘘でしょう………」僕は信じられない事実に打ちひしがれる。
僕は知らないうちにファーストキスを奪われていたんだ。固まって震えている僕を見て琴音さんは両手を広げ「ホワイ?」そう言って首を横にした。
「いいじゃん、おでこにキスしたくらい、外国人なら挨拶のレベルだよ」
「僕はコテコテの日本人ですう!」反論する。
「何を言ってもファーストキスの相手は私だからね、ふふふ」勝ち誇ったように笑っている。
鬼、悪魔、ランデビ!心の中で叫ぶ。初めてのキスは茉白ちゃんとが良かったなあ………しみじみと思った。
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