第19話

生徒の騒がしい声が聞こえて、

ジャージ姿の生徒たちが道を駆け抜けて。


体育祭当日の今日。

現在は午前10時頃。開催は間もなくだ。


「・・・快、晴。」


対戦表の張り出しを行いつつ空を見上げる。

そこには雲一つない。見事に晴れた。


「・・・ふああ。」


欠伸が出そうになるのを噛み殺す。

いや、待って全然噛み殺せてなかったわ。


気持ちのいい秋晴れと打って変わって、

私の体調は芳しくない。

テントの設営、日程の確認、実行委員の集合は朝早くて。

早起きが苦手な私にとっては大事件だった。そのため非常に眠い。


加えて数日前から続く体調不良も回復しておらず、

のどの痛みと倦怠感との戦いである。なんてことだ。


「あ、結依。朝から大変ね。」

「さっちゃんおはよう。今日は一段と可愛いね、結婚する?」

「寝ぼけてんの?」


さすがの辛辣さ。

選抜リレーに出場するからであろう。ポニーテールにしている髪の毛が揺れて。

凄く似合ってる、可愛い、結婚。


「まだ仕事あるの?」

「うん。」

「そっか。お昼は一緒に食べようね。」

「食べるー!リレー頑張ってね~」


そんな会話をしているうちに生徒の歓声が聞こえてきて、

どうやら最初の試合が始まったようだ。


これでよし、と。

対戦表を張り終え、余った紙を持ったまま実行委員の本部テントに戻れば

そこにいたのは柳くん。


何やら彼は焦っているようで。


「結依先輩。お疲れ様です。」

「お疲れさま。どうかしたの?」

「えっと、実は~~」


怪我や事故防止の対応のため、

それぞれの試合場所には実行委員が1人ずつ待機している事になっている。

その当番の時間は事前に決まっているのだが、どうやらその時間が

試合の時間と被ってしまっているらしい。調整ミスだ。


「何時からなの?」

「11時からです。」

「じゃあ、私当番変わるよ。」

「え、いやでも・・・結依先輩もやること色々・・・」

「大丈夫だって、先輩にお任せなさい。」


心配そうな顔で渋っていた柳くんだが、

すいません、と頭を下げる。


「ふふん。プリンで許そう。」

「高めのやつ買ってきます。」


謝ってからバタバタとテントを出て行く柳くん。

時計に目を向ければ、やばい、私も時間があまりない。


1人になったテントの中でやるべきことを整理する。

同時に咳が込みあげてきてしまって。

しばらく咳と闘う。うう、胸が苦しい。


水分を補給しようと水道へと向かう。


えっと、歩きながら整理整理。

自分の当番の時間を確認して、試合の進行確認、柳くんの当番が11時、

あと救護室に行って器具の確認も・・・


・・・て、あれ。


順調に働いていたはずの頭が、そこで止まる。


急に世界がゆがんで、

体中の力が抜けていく。


これは、やばいやつだ。


そう思っても体は言う事を聞かず、

重力に逆らえないのを感じる。

世界が反転して、揺らいでいく視界の中で、

焦ったような柳くんの顔が映った。

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