第18話
「手が空いてる人こっち手伝って!」
先生の指示で会場の設営が進行していく。
体育祭までは、あと3日。
準備も本格的になって来ていて。
「天気はどうなるのかなあ。」
「予報では良さそうでしたよ。」
「そうなんだな。私の日頃の行いかね。」
「そうだといいですね。」
一緒に机を運びながら優しいのか冷たいのか分からない相槌を返してくれるのは同じ体育祭委員の
身長は春原くんと変わらないくらいで、特徴を一言で表すなら純粋。ピュアさとフレッシュさに時々目が潰れそうになる。
一個下の1年生で、委員会をきっかけに仲良くなった子だ。
「柳くんは何に出るの?」
「バレーとバスケです。」
「お。やっぱスポーツできそうだもんねえ。」
バスケに出場する人はクラスの運動できるランキング上位の方たちのはず、
というのが秋山説である。なんの根拠もないけど。でもきっとそう(確信)。
「あとやることは・・・対戦表のコピーか。」
「あ、先輩。俺やりますよ。」
「ほんとに。ありがとう〜」
柳くんにプリントを渡せばコホン、と一つ咳が出て、
そこから少し咳が続く。
「大丈夫ですか?風邪?」
「大丈夫。すこしだけ喉が痛くて。」
心配そうに顔を覗き込む柳くん。
「のど飴ありますよ。」
「ありがとう。でも大丈夫。」
「いつでも言ってくださいね。」
何この子神なの?どこから舞い降りてきたの??
もう一度咳が出そうになって、のどを潤そうと水筒を口に含んだ。
ここ数日、熱は出ないものの少し体調が悪い日々が続いていて。
しかし体育祭は目前。
今日からの準備、そして、当日にももちろん仕事がある。部活が忙しい森田くんに加え私も休んでしまったら、委員会の人やクラスメイトに迷惑をかけてしまう。
・・・しっかりしないと。
「あ、結依ちゃん。」
「舞先輩。会長!お疲れ様です。」
不意に声をかけられて振り向けば、
そこにいたのは会長コンビ。
今日も美しいですね、なんて言えば、
あらありがとう、と優雅な笑みで返される。
・・・絶対この人お嬢様なんだろうな。
「さっちゃんは多分教室だと思いますよ。」
「えっ・・いやあ別にそんな・・・」
明らかにさっちゃんを探している会長にそう言えば、頬を少し赤らめて。恥じらいがあるんだか無いのか分からないなこの人。ピュアをこじらせるとこうなるのか、柳くんには気を付けて欲しいものだ。
「会長と舞先輩はクラスは一緒なんでしたっけ?」
「いや、別だ。」
「そうなんですね。じゃあ敵同士なんですね。」
その言葉に舞先輩はふふっ、と笑う。
「敵・・・にもならないかもねえ。」
なにその恐ろしすぎる台詞。
「・・・それは、どっちの意味でですか?」
「秋山くんのご想像にお任せするよ。」
舞先輩の笑顔が怖い。怖すぎる。
会長と目を合わせてゆっくり頷く。これ以上は聞かない事にした。
「当日、晴れるといいですねえ。」
私の言葉に2人とも頷いて、
じゃあまた、と歩き出す。
「秋山くん。」
歩き出す直前、会長が私の名前を読んで。
「少し、疲れているようだ。あまり無理するなよ。」
「・・・ありがとうございます。会長も、舞先輩も。」
私の言葉に優しく笑って手を挙げる。
・・・疲れている感じ、出てただろうか。
少しの申し訳なさと、けれど気遣ってくれる会長の優しさが染みて、心がじんわりと温かくなった。
「あれ、春原くん。」
既に生徒が帰宅した放課後。
仕事を終え教室に戻ればそこにいたのは春原くんで。
「どうしたの、こんな時間まで。」
「・・・寝てた。気づいたら誰もいなかった。」
「なるほど。」
どおりで。
彼の表情はいつにもまして眠そうだ。
「秋山は実行委員の仕事?」
「そう・・・っ」
と、返事をすると同時に、
少し激しくむせてしまう。
春原くんは少しだけ眉を下げて、
わたしにペットボトルを差し出した。
「・・・飲む?」
「大丈夫、ありがとう。」
私の顔を覗き込んだ春原くんは、
少しだけ心配そうな顔をしているように見えて。
「体調悪いの?」
「少しだけ。でも全然元気だよ。」
「元気じゃないやつが言う台詞だよそれ。」
「ほんとに大丈夫。ありがとう。」
おもむろにカバンを開けた彼は、
そこから何かを取り出し、私に投げる。
「秋山・・・それはさすがに」
「お黙り」
運動神経の悪い私。
当然キャッチ出来ませんでした、ええ。
明らかにからかおうとした春原くんの言葉を遮断し、拾い上げたものは、小さなのど飴だった。
リンゴ味。
私の好きな味。
「体調。」
「ん?」
「悪化したら絶対休む事。」
「・・・でも皆に迷惑かかかっちゃ」
「いいから。」
はあ、と春原くんはため息をつく。
「無理もしない事。」
「・・・はい。」
「無理したら、小指が飛ぶと思って」
「どこぞのヤクザの方ですか??」
心配されているのかされていないのか。
飄々としたままの春原くんは立ち上がって、
ひらひらを手を振って教室を出て行った。
手に残ったのど飴をじっとみつめる。
何となく舐めてしまうのがもったいなくて、そのままポケットにしまった。
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