ゆるりと春
なつめのり
不思議な隣人春原くん
第1話
高校2年生の私、
と、言っても別に恋愛的な意味ではない。
ただ単純に興味がある人がいるのだ。
それが、隣の席の
少し癖毛なベージュの髪にいつでも眠そうな表情。
顔は非常に整っているため女子からの人気は高い。
そんな彼は、とても面白いのだ。
春原くんはいつも遅刻ギリギリに教室に入ってくる。
そして席についたら教科書とノートと筆箱を出して__ガタンッ、すぐに、寝る。
勢い余って机に思い切り頭をぶつけていたようだが、そんな事も感じないくらい眠いらしい。
授業中も基本的に眠そうでいつも首がカクカクしている。
これだけ寝るなら突っ伏してしまえばいいのではないか、と思うのだがどうやら突っ伏さないのが彼のポリシーらしい。よく分からない。
授業中はいつもそんな感じのため、英語教師(年齢不詳独身)には目をつけられていて、何かと当てられる、が。
「⋯。」
無言で黒板に書く解答はすべて正解。
英語教師も悔しそうに唸る。
そう、春原くんは寝てばっかりなのに頭がいい。
家で遅くまで勉強していて、だから毎日寝ているのだろうか。でもそれなら授業を真面目に受ければ__コツンッ
頭に軽い衝撃が走り、クラスからは笑いが漏れた。
「さっきからずっとボーッとしてるじゃないか秋山。この問題やってみろ」
どうやらさっきのは出席簿で叩かれた衝撃らしい。
すみません、と謝りつつ黒板へと向かう。
だめだ、私は考え始めると止められない気質である。今度から気をつけないとなあ、なんて思っている間に解答を書き終わって席へと戻った。
私が書いた答えを睨みつけて、英語教師はまた悔しそうに唸っていた。英語は得意だ。
⋯ちなみにこの授業で当てられるのは春原くんか私かの二択である。
お昼休み、春原くんの周りにはわらわらと男子が集まってくる。男子が話している間も基本的に眠っているかボーッとしているように見える春原くんだが、男子からも人気が高い。
「また春原くんみてるの?」
「うん。」
「きも。」
「普通に傷ついた今。」
友人であるさっちゃんこと
短く切りそろえられた髪に大きな瞳。陸上部に所属しているさっちゃんは美人な上に運動もできる。
・・・少し私に分けてくれたっていいよね、うん。
「さっちゃん今日も可愛いね。」
「真顔で言うな怖いわ。」
再びバッサリ切られた私。悲しい。
「ところでさっちゃん。春原くんは本当に不思議な人だと思わない?」
「んー、まあ。でもあんたも不思議だと思うよ?」
「なんで?」
本当に分からずに首を傾げれば、
さっちゃんは、全く、と笑う。
「私達からみた春原くんと、男子からみた結依は多分同じだよっ、てこと。」
「⋯私寝ないよ?」
「寝ないけど、頭はいいのにポンコツじゃん」
「やっぱり辛辣ッ」
よく分からないけど私と春原くんは、似てる、らしい?
「しりとり。」
「りんご。」
「ごま。」
「まるた。」
「体育やだ。」
「わたしもやだ。」
「帰りたい。」
「帰りたいねえ。」
「⋯お前らしりとりする気ないだろ。」
授業前、しりとりをやっていたはずの私と春原くんに
あれ?と思っている人もいるかもしれないが、私は普通に春原くんとは仲がいい。だから、断じてストーカーではないのだ。前半の文だけで勘違いしないでくれ。
「体育、めんどくさい。」
春原くんのその言葉に塚田くんがハハッと笑う。
塚田くんはいかにもという感じの長身爽やか青年で、春原くんと一緒にいる確率が1番高い人だ。
「女子は?体育なにやんの?」
「バスケ。」
「秋山終わったな、ドンマイ。」
「やかましい。」
笑ってからかってくる塚田くんにパンチをするも届かず。何を隠そう私は運動が大の苦手である。
「俺も体育きらーい。」
間延びする声でそういった春原くんを見れば、やはり眠そうで。
「春原くんが運動できるなんていったら私学校こないからね。」
「重いわ。」
「できるわけないよね、春原くんに運動なんて出来るわけないよね!!」
「そして失礼。」
塚田くんと春原くんからダブルでツッコミを受けた私はさっちゃんへ助けを求める。
「さっちゃん、バスケは私と同じチームだよね約束して。」
「何言ってんの名簿順だったら分かれるに決まってるじゃん。」
「え??なんでさっちゃんは白河に生まれてきたの???」
「そこまで言うか。」
これくらい取り乱すくらいには体育は苦手だ。
ポカーン、という効果音が目に見えそうなくらい、私は今間抜けな顔をしている事だろう。
普段クールなさっちゃんも今ばかりは一緒にマヌケ顔。
「春原!抜け抜け!」
バスケのコートで華麗なドリブルを見せるのは、なんと怠け者代表春原くん。
1人、2人、と抜かしていって、ドリブルシュート。
華麗に決まったシュートに男子の叫び声と女子の黄色い悲鳴が混ざった。
⋯嘘でしょ。
あのペンギンよりも早く歩けないで有名な春原くんが、走ってる。
「さっちゃん。」
「⋯なに?」
「やっぱあの人、変、不思議。」
「⋯今は同感。」
チラッとこっちを向いた春原くんは、真顔のままピース。心なしかドヤ顔のような気もした。
「秋山。」
放課後、部活に出るさっちゃんを見送って1人廊下を歩いていれば、後ろから聞こえてきたのは眠そうな声。
「誰ですか。」
「誰って⋯春原だけど」
「私の知ってる春原くんはあんな華麗なドリブルなんてしません。」
「⋯。」
そのまま振り向かずに歩いていれば、
ぷっ、と後ろから笑い声が聞こえた。
思わず振り返れば、あら珍しい。
春原くんが楽しそうに笑っていた。
「怒ってるの?」
「怒ってないよ。⋯運動できない仲間だと思ってたのにあんなバスケができるなんて裏切り者だくそう、なんて思ってないし。」
「怒ってるじゃん。」
そう言って春原くんはまた笑う。
いつもはけだるそうなくせに、春原くんの笑顔はとても明るくて、そして優しい。
「⋯ねえ、あのさ。」
「ん?」
春原くんは何か言いかけたけど途中でやっぱりなんでもない、と首を振った。不思議に思って見ていれば、彼は少しだけそっぽを向いたあと、私を手招きする。
まるで小さな子供のように手で囲いを作って、私の耳元で何かを囁く。
「__________。」
そして、いたずらっ子のような表情で笑った。
その後すぐに私からぱっと離れて、
いつもと同じ眠そうな表情に戻って手を振る。
「じゃあね、また明日。」
1人、残された廊下で。
「__秋山がいなかったら本気でやらなかったよ。」
本当に、春原くんは不思議な人だ。
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