配信して妹に罵倒されリスナーを罵倒る。

「はようこい。妹」


「…………」


 いろいろ苦しそうにするシアに溜息が出る。


 売られたんだからしょうがないじゃんよ。そこは諦めて普通に俺の妹になればいいのにな。


 勇者の加護だかなんだか知らないが、あれのおかげで女からすごいモテるからな。


 世の中理不尽すぎる。美女とイケメンのための世界かよ!


 …………ん?


「もしかして胸が痛いのか?」


「!? ち、違うわよ!」


「ったく。しょうがねぇな。痛いときは痛いって言えってあれだけ言ったのに」


 俺は強制的に妹をお姫様抱っこする。


 苦しそうに顔を歪めるシア。


 ひとまず、揺れない範囲で超高速で走って、バカ勇者から離れていく。


「ど、どこまで……行くつもりなの?」


「ん? 隣国」


「は!? バカなの?」


「おう」


 隣国を目指すのは何もバカ勇者から離れるためだけではない。もっとも大きな理由があるが……それはそこに着いてからの楽しみだ。


 近くの街までお姫様抱っこで向かい、そこから長距離移動馬車に乗り込んで隣国を目指す。


 途中で馬車を襲ってきた魔物や盗賊がいたが、ひと睨みしたら全員が失禁しながらその場で倒れた。


 ラスボスが持つ特別なスキル【覇気】というもので、睨みに乗せると大抵の生物は気絶する。うん。便利。まあ、殴り飛ばしてもいいので、中には運動がてら殴り飛ばしてたやつもいたけど。


 気のせいか従者が顔を青くしてた。まさかとは思うが、盗賊どもを手引きしたのが従者ってことはないだろうな?


 バカ勇者をぶっ飛ばして十日ほど。俺達はようやく隣国にたどり着いた。




「なんでよりにもよってここなのよ」


「え? そりゃ――――無限に戦えるから?」


「脳みそに戦うことしかないの?」


「なあ。シア」


「うん?」


「『お兄ちゃん』を付けてくれないか?」


「…………」


 シアがまるで汚物を見るかのように真剣に話す俺を見下ろす。


「この変態」


「おう」


「脳筋」


「おう」


 なんだろう。妹に罵倒されるこの感じ。ちょっと癖になる? 屋敷にいた頃からシアはこんな感じだったからな。


 最初こそ、こいつ……俺のおかげで生きてるのに、なんて思ったこともあったが、本来なら死んでるはずの運命ならこうなっても仕方ないのかもしれないな。


 俺はシアを連れて、街のど真ん中にある超巨大塔の中に入った。




「いらっしゃいませ」


 中は遺跡のような作りになっていて、広間には大勢の人と事務スペース、ゲートのようなものが見える。


「探索者になりたいんですが」


「かしこまりました。お二人ですと、銀貨二枚になりますがよろしいでしょうか?」


「かまいません」


 ここはダンジョン事務局。塔の名前は【無限ダンジョン】。つまるところ、ゲームでいうエンドコンテンツってやつだ。


「あ、あの……」


「ん? 何か?」


 パスを作り終えると、受付嬢が心配そうに俺たちを見つめる。


「お二人だけで入りますか? 中は非常に危険ですよ……?」


 懐かしいな。ゲームでもレベルが低いとこういう風に言われたっけ。しかも強制的に入場禁止にまでされるからな。


「大丈夫だ。問題ない」


「そ、そうですか……」


 そのとき、俺の後ろから陰ができる。


「おいおい、嬢ちゃん~中はあぶねぇぞ~? 俺達が一緒に入ってやるよ!」


 そこには身長2メートルは超えてそうな大柄の男三人が、ニヤケ面で俺たちを品定めをするように見下ろしていた。


 はあ……こんなバカはどこにでも現れるな。


 はい。【覇気】。はい。終了。


 泡を吹きながら倒れる三人の男に周囲が驚く。


「シア。行くぞ~」


「う、うん。あれどうしたの?」


「さあ? シアが可愛すぎて倒れたんじゃないのか?」


「は? バカなの? そんなわけないじゃん」


「そうかな?」


「…………ふん!」


 シアと一緒にダンジョンの中に入る。


 一階にあるゲートをくぐると、転送装置というのがあり、そこにシアと立つ。


「転送。二階」


 俺達の体が光に包まれる。すぐに視界が一階から二階に変わった。


 移動できる階は階のボスを倒さないといけないので、いまは二階までしかいけない。


「ここがダンジョン……変な場所」


「魔物とか出るから気を付けろよ」


「は? こんなとこに連れてきておいて、お兄ちゃんがそれを言うの? バカなの? 頭よわよわなの?」


 そう言われるとたしかにな。まあ、何があっても俺が守るからいいが。


 歩いていると魔物が現れた。ダンジョンは外と違って最初から難易度が高い。一階といえど、中級冒険者くらいにならないと探索者にはなれないのだ。


「イモウトヲマモルゾパンチ~」


 パーン。


「イモウトヲマモルパンチ~」


 パーン。


「イモウトパンチ~」


 パーン。


「イモパン~」


 パーン。


「名前適当に減ってない? 最後は何か食べ物みたいな名前じゃん」


 だって、ネーミングセンスなんて俺にあるわけないしな。


「よし、腕慣らしは終わった。これから本番だな。シア! やるぞ!」


「な、何をやるのよ」


「それは――――俺の必殺技! 【配信】!」


 キラリンと俺の体が光ると、光が空中で一か所に集まり、中から現れたのは――――――――一台のドローンだ。


『お嬢~待ってましたあああああ!』


『アンバーさまあああああ~! 結婚してええええええ~!』


『今日も可愛いよ~アンバーさまあああ!』


 ドローンから無数のコメント・・・・が空中に映し出される。


「うるせぇぞ。お前ら。さっさと【いいね】だけ押せ」


 こいつらはいわゆる【リスナー】だ。そう。文字通りリスナー。理由はわからないが、俺には【配信】とかいう変なスキルがあって、それを使うとこうして配信することができる。


 前世で一応俺が【配信者】だったからだと思うが、顔出しなんてしなかったが、今は顔出しでやってる。てか選択肢がない。


『今日も罵倒されに来ました! 投げ銭がほしいですか?』


「さっさと投げ銭して消えろ!」


『ひえ~! 今日も冷たい~! はい。どうぞ!』


 ドローンの下に【集金額:600,000円】【リスナー:1,145,140人】と表示される。


「お兄ちゃん……? それって何?」


「あ~そういや、お前らに初めて紹介するが、俺の妹のシアだ。よろしく」


『妹ちゃんキタああああああ!』


『妹可愛すぎん!? 金髪美少女!』


『何歳だよwwwめちゃ幼いじゃん』


『我らの姫様もまだ十歳だけどなwww』


「お兄ちゃん? 何この変な文字」


「シア。ちなみにこの文字読めるか?」


「読めないわよ? お兄ちゃんはわかるの?」


「当然だろう! 俺はお兄ちゃんだぞ! 天才だぞ!」


 ああ……そう! そのゴミムシを見るような目が見たかったんだ!


『悶える姫可愛すぎな件wwww』


『姫は姫だとして、妹君はどう呼ぶんだ?』


『小姫?』


『小姫wwwwww』


『小姫いいかもwwwww』


「おい。俺の妹を変なあだ名で呼ぶな。女王様と呼べ」


「誰が女王様よ!」


『女王様wwwww』


『小姫のおかげか、今日の姫めちゃ喋るやんwwww最高すぎん?wwww』


『ほんまそれwwww』


「まあいいや。お前らは静かにいいねを押して入金したら帰っていいからな。俺はこれからダンジョン探索するから」


『お~今日はダンジョンか』


『ダンジョンなんて初めての配信じゃん。楽しみだな』


 どうやらこいつらは俺がやりこんだこのゲームを知らないみたいで、何もかも面白いらしい。


 こいつらがいるのは異世界ではなく、現実世界。だから俺はバーチャル配信者に映ってるみたいだ。まあ、別にどっちでもいいがな。俺は俺の目的のために配信をするだけだ。


 しばらく魔物を倒し続けて、妹に罵倒されつつもコメントに腹いせをしながら、初めてのダンジョンを経験した。




「よ~し! ご飯を作るぞ!」


『出たwwww』


『キタああああああ~!』


「ご飯……?」


 俺は【アイテムボックス】から簡易式厨房を取り出す。


「じゃじゃーん! どうだ! 妹よ!」


「ダンジョンの中で厨房を取り出すバカがいるなんて知らなかったよ!」


 こいつめ……ちょっと慣れてきたな? ダンジョン初めてって言ってたのに。


『小姫正論パンチwwww』


「今日のご飯は――――こいつだ!」


「なんでよりにもよってゴブリンなんだよ! もっと美味しそうな魔物いたでしょう!?」


『醜悪すぎるwwww』


『やヴぇwww食ってみたいけど食いたくねぇwwww』


 緑肌の巨大なゴブリンジェネラル。慣れた手で捌いていく。屋敷に住んでいたころも、


「ふ~んふ~んふ~ん♪」


「ゲテモノ作りながら鼻歌を歌うな! バカ兄!」


「なあ、シア。これ美味しそうじゃないか?」


「わたしは食べないからね……?」


「え~美味しそうなのに……」


 作ったのは、ゴブリンジェネラルの各部位をいろいろ混ぜた煮込みである。


「素材なんてな! 煮込めば何でも食えるんだよ!!」


『脳筋発想wwww』


『焼くか煮込めばなんとかなるってやつwwww』


『姫ってこんな可愛いのにやってることがただのおっさんで草wwwww』


 ぐつぐつに煮込んだゴブリンジェネラルのシチューを一口食べる。


「っ!?」


 こ、これは……!!













「ゲロ不味いいいいいいいいいいいいいい」














「あんなに美味しそうって言ってたのに、やっぱりお兄ちゃんって頭よわよわなの? バカなの? 舌付いてないの? その目は飾りなの?」


『見た目通りの味みたいで草wwwww』


『小姫ちゃんめちゃ煽ってるwwww』


『姫のぐしゃっとなった顔可愛すぎんかwwwww』


 ああ……異世界に転生して……俺……今日初めて死ぬかもしれない。こんな不味いものなんて食ったことないぞ。


 ダンジョンの外の魔物なんて焼いて塩振るか、煮込めばなんでも美味しかったのに…………。


「そうか! 焼いて塩コショウだああああ!」


『また無茶なwwwww』


 妹はダンゴムシでも見てるかのような虚無の視線で俺を見つめる。


 炭火を起こしてゴブリンジェネラルの胸肉を焼いていく。胸肉は魔物どこも美味しい共通の場所である。


 焼いた肉の美味し――――くなさそうな匂いに顔が自然を歪む。


『姫ww顔歪んでる歪んでるwwwww』


『姫~配信中だぞ~笑顔笑顔~』


「ちっ……お前らに喰わせたいぜ」


『『『『舌打ち助かる』』』』


 こいつら変態ばっかか?


 そして、出来上がった焼肉に塩コショウを振ってかぶりついた。


















「ゲロ不味いいいいいいいいいいいいいいいい」


「やっぱりバカなの? 匂いでわかるじゃん。鼻も曲がりすぎて機能してないの? やっぱりバカなの?」


 妹に罵倒されるの……最高!

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