異世界悪役にTS転生した俺は、勇者(主人公)をボコボコにして妹の病弱メスガキヒロインを連れてダンジョンに潜りご飯を作ってあげる~その様子を現代配信したら大バズリました。ポイントでガチャを回します~

御峰。

念願の異世界に転生した……は!?女!?

 世界は理不尽だ。俺みたいな冴えない男はいくら配信をしても注目を浴びることなどない。いくらゲームが上手くなってもな…………。


 いつしか俺は惰性でゲームをやり込むようになって、気が付けば何も必要ないソロゲームに没頭するようになった。


 そこに映っているのはラスボスになる『アンバー・ディグラス』。彼は人類を滅ぼすべくラスボスになったらしいが、理由は好きだった女性が死んでしまったからとされている。


 はあ~やっぱりどの時代も女だな。やっぱり女がいいよな!


 次の瞬間、俺の視界が暗くなり、倒れる感触が伝わってくる。頭部に熱い痛みが伝わる。


 おいおい……まじかよ…………俺、まだ……何もできて……ないのに…………。




 ◆




「アンバー!」


 うるせぇな……まだ眠…………ん? 声?


 カバっと起きると、見えている景色に不思議なものが映る。


「は……?」


「アンバぁああああああ!」


 うるさく叫ぶ男の子の声に視線を向けると、可愛らしい顔に大きな目から大粒の涙を流しながら俺を見ている。


 うわ……いまどき、こんな小さな子を金髪に染めるとか親の顔がみたいぜ。


「大丈夫? もう座って大丈夫? 痛くない?」


 どうやら俺に向かって話してるが……?


「お前、誰だ?」


「えっ……? ぼ、僕だよ? アレンだよ?」


「アレン……?」


 そんなことより、俺の声、なんか変じゃないか? 女みたいな声になっているぞ? それに体が何か……小さくなってないか?


 そのとき、俺の視界を邪魔する赤い髪が見える。それを引っ張ってみる。


「痛っ!?」


 は……? 俺の髪……? いやいやいやいや。赤いぞ? 自慢じゃないが髪なんて染めたこともねぇよ。


「アンバー? まだ疲れているのかもしれない。ゆっくり休もう?」


「近付くんじゃねぇ!」


 イケメン男の子のおでこを突いてやると、「痛いよぉ……」と可愛らしさ倍増で俺を見つめる。


 はあ……こいつ。さぞモテるだろうな。てか、やっぱり俺の手も小さくなってるな。髪も長いし、声も女……みたい……し…………おいおい。まさか。


 急いで自分の下部を開いてみた。


「「!?」」


 男の子が急いで視線を外すと同時に、部屋に悲鳴が響き渡った。そう――――俺の声だ。


「うわああああああああああああああ!」




 ◆




 五年が経過し、俺が十歳に、アレンが十歳に、その妹のシアが七歳になった。


 アレンはあれだ。俺がやってた美少女ゲームの主人公。超絶金髪イケメンで、世の中の全ての女性から愛される加護を持っている。そう。【勇者】というな。


 あいつが【勇者】を覚醒させた今日。屋敷ではパーティが開かれた。


「シア。体は大丈夫か?」


「ふ、ふん。気にしないで。私に触れないでよね」


 こいつはアレンの妹のシア。金髪碧眼の超絶美少女。欠点が二つあるというなら、まず一つ目は病弱であること。不治の病で、たしかあのゲーム通りなら、こいつ、二年前に死んでる。


 何で死んでないかって? 俺が何とか延命させてるから。本人は気付いてないみたいだがな。


 もう一つは――――


「アンバー様! 俺と付き合ってください!」


 どこの骨だかもわからないこぎれいな男が花束を持って前に跪く。その目的は――――そう。シアではなく、俺だ。


「嫌だ」


 男は「ガーン」と聞こえそうなくらいショックな表情で去っていく。


 はあ……どいつもこいつも……。


「あんた、なんで受けないのよ」


 不満そうに口を尖らせて聞いてくるシア。


「いいんだよ。俺は男に興味ないから。おめぇも知ってるだろう」


「知ってるけど……あんた、本当に中身は・・・男だもんね」


「そういうとこだ。俺に色目を使わないのは――――お前くらいさ」


 そう。二つ目。シアだけは俺をちゃんと俺として見てくれるのだ。


 今回パーティの主役であるアレンの挨拶が終わり、俺の方にやってきた。


「やあ、アンバー。ちゃんとご飯は食べてるかい?」


 はあ。やっぱりイケメンってこうだよな。自分より相手を気遣うっつうか…………それが素で出るからムカつくんだよな。


「おうよ」


「…………アンバー。聞いてくれ」


「なんだ? また告白でもされたのか?」


「えっ? う、うん。それはちゃんと断ってる」


「はあ~モテてるのに残念だな」


「…………自分が好きな人以外からモテても仕方ないよ。君が教えてくれたことなんだ」


 そりゃそうだろうよ。好きでもない相手と一緒に暮らすなんてバカバカしい。


「それでアンバー」


 アレンは俺の前で跪いた。


「僕と……婚約してほしい」


「…………はあああああ!? おい、そんな冗談やめろ」


「本当だ」


「待て。俺みたいなガサツな人間の何がいいってんだ」


 自慢じゃないが、俺はガサツだ。そう。そういう男・・・・・だからな。


「そういうところがいいんだ。君には裏がない。ずっと前だけを向いて、眩しいから! 君じゃなきゃダメなんだああああ!」


 あ~出ました出ました~あのゲームの主人公の決め台詞。「君じゃなきゃダメなんだああああ!」。


 な~にが君じゃなきゃダメなんだよ! バカたれ! イケメン滅ぶべし!


「断る」


 周りでどよめきが起きる。


「そこを何とか!」


「しつけぇな……嫌ったら嫌だ」


「じゃあ――――僕と勝負してくれ」


「…………は?」


「僕が勝ったら、僕の婚約者になってくれ。それから絶対に好きにさせて見せる!」


「…………言うようになったじゃん。もし負けたら?」


「君の言うことなら何でも聞こう」


「いいだろう。じゃあ、お前が負けたら今日からシアは俺の妹な」


「わたし!?」


 アレンがシアを一度見る。


 二人は元々仲はそう悪くない。だが、本来なら二年前に死ぬはずのシアだからなのか、アレンはあまり興味を示さない。それは――――まるで運命の歯車かのように。


「いいよ。それで」


「お兄ちゃん!? わ、わたしを売るの!?」


「…………僕は負けない。絶対にこの手で、【勇者】となった僕はアンバーを手に入れるんだ!」


 へぇ……「手に入れる」とか珍しく男らしい・・・・言葉を言えるようになったじゃねぇか。いつも優男のくせに。


 屋敷から外に出て庭に立つ。


「そんなドレス姿でいいのかい? アンバー」


「…………お前。勇者になったからといって浮かれてんな?」


「…………ごめん。そうだね。君がそう決めたんなら、いくよ!」


 アレンは木剣を持って俺に襲い掛かる。


 速い。とんでもない速さだ。体には綺麗な水色のオーラまで出ていて、【勇者】として覚醒したアレンは以前のような弱いただのイケメンではなくなったってことだな。


 しかし――――












「っしゃおらああああああ!」












 俺の右拳がアレンの木剣を掻い潜り、腹部を強打する。


 ドゴーンという大きな音とともに、アレンはその場でうずくまった。


 なめんじゃねぇええええええ! 俺がこのゲームを何年やりこんだと思ってんだバカ野郎おおおお!


 五年も時間があって、最高効率でレベルアップを繰り返して、俺に勝てるやつなんているわけねぇだろおおおおお! 勇者とかゴミみたいな才能で俺に勝とうなんて十年はえーんだよおおおおお!


 だって、俺、ラスボスだから。


 そう。ラスボス。あいつ。姿形から男だとばかり思ってたら、まさか女だったとはな。


 それに好きな女が死んで悲しみでラスボスになったらしいから、その死ぬ運命だった女も助けてみるよ。


 だって、前世ではこんなルート、経験できなかったからな。


「おい。シア」


「へ!?」


「お前。今日から俺の妹な」


 そのとき、うずくまったアレンが「ま、待て……」と口から大量の吐血を吐きながら右手を伸ばす。


「ほぉ……あの一撃に耐えるとはさすがは勇者よ。そんなお主に祝福を与えましょう」


「アンバー……?」


「ふっふっふっ」


 アレンの前にたった俺は――――


「今まで封印していた――――必殺技!」


 俺はその場から高く飛ぶ上がり、くるくると周りならアレンの背中に膝から落ちてきた


「ムーンサルト・プレスぅぅぅぅぅぅ!」


 ドゴォォォォォォン!


 その日、俺は勇者アレンの家を出た。


 元々令嬢とかでもなく、ただの孤児で彼の気まぐれで拾われて育てられたから。


 前世の知識を活かしてレベルアップとかで稼いだ素材とか上げたりしてるから、育ててくれた恩義は全部返したはずだ。


 目的妹のシアが終われば、あとはこっちのもんだ。


 予定としてはちょっと早かったけど、俺はシアを連れて外に出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る