第5話 突入

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 ホシ達によって壊滅させられた街はいつも同じ光景だ。

 肌色の砂風が吹き、崩れたした建物が寂しく佇む。まるでどこかのSF映画に出てくる荒廃した惑星のようだ。

 


『チームL 指定ポイントまでの距離残り二百です』


「了解、他のチームはどう?」


『他チームも索敵しつつ順調に進んでいます』



 そんな人類の努力━━━━もしくは傲慢により造られた繁栄の象徴であるテーマパークに向けて、私達三人はどこまでも続く崩壊した長い道路を駆け抜けていた。

 


「レイちゃん、それ重くない?」



 走っている途中、ハトちゃんが私の背負っている大きな白い箱を見ながら聞いてきた。

 それに私は「大丈夫だよ」と短く返しながら私達の装備について思い返した。


 天門台の戦闘員が任務にはホシに対抗するための芒炎鏡は全員の標準装備として、そこから様々な装備が支給されることになる。



「二人とも、装備の準備はいい?」


「もちろん! あいつらを一網打尽にしてやるサ!」


「私もバッチリよぉ。二人をしっかりとサポートしてあげるからねぇ」



 ハトちゃんは小さなバックパックを腰に巻き付け。メイアさんは大きなバックパックを背負っている。その中身はホシを殲滅する兵器であると同時に私達の命を守るための命綱でもある。



「…………見えて来たね」



 そうして走り続けて『Helloハロー Happyハッピー Worldワールド!』という文字に可愛らしいキャラクターの描かれた巨大看板が横目に通り過ぎると、テーマパークの入場ゲートらしき場所が見えて来る。目的地だ。

 


「チームL、指定ポイントに到着」


『到着を確認 チームLは次の命令があるまで待機せよ』



 オペレーターからの命令に従い、敵に見つからないように私達は息を潜めながら身を伏せた。


 伏せながら入場ゲートの先を見つめる。

 テーマパークとは程遠い━━━━まるで祭が終わった後のような寂しい景色の中を肌色の風が通り過ぎていった。



「あの倒れている像って…………」


「ああ、子供の頃にテレビで見てたよね。あの番組面白かったなぁ…………」



 以前だったら子供達の楽しそうな声が響いたであろうこのテーマパークは今や虫の鳴き声一つしない廃墟と化している。

 テーマパークは子供達に輝かしい夢を与えていた。しかしその夢すらもホシ達は奪った。

 ああ、ホシ達を倒す理由がまた一つ増えてしまった。



「この先に沢山のホシの気配がするわぁ」


「…………つまりこの場所にヴィーナスがいる可能性が高い、ということですね。………………クックックッ」



 まだか。まだ突入命令は来ないのか?

 逸る気持ちが抑えきれない。まるでご飯を前にして『待て』と言われている犬のようなもどかしさに包まれる。



「イブちゃん、落ち着いてね」


「あ、うん…………」



 そしてハトちゃんに諌められてしまう。ここまでが作戦前によくある私達の光景だ。


 だが五分もしないうちにその時は訪れた。



『全チームな告ぐ 支部長並びオペレーターの命令に従い速やかにターゲットを討伐せよ』



 その言葉を聞くと同時に立ち上がると、芒炎鏡ぼうえんきょうの激鉄を下ろして、引き鉄に掛ける指に力を込めた。



『ヴィーナス討伐作戦 開始!』



 そして合図と共に閉ざされた入場ゲートを飛び越えてテーマパークへと突入を開始した。



『よ…………ようこそそそ ここは幸せせいっぱいのハッピーワワールドドド! みんな楽しんでいってね ガガガガ…………』



 入場ゲートに設置されたスピーカーから流れる電子音を聞き流しながらテーマパークのエントランスへと足を踏み入れる。が。



『……………………』

「五芒と六芒、数は十よぉ」



 いつ訪れるかもわからない敵を待ち伏せしていたのだろう。白色に照らされた五芒星と六芒星のホシが十体、私達の行手を阻んだ。



「フッ………………」



 敵の軍勢を前に私はニヤリと唇を釣り上げた。

 その笑みの意味するもの、それは余裕だ。

 この程度の敵、この程度の数で足止めとは、私達も舐められたものだ、と。目の前の敵に対するある種哀れみにも似た呆れだ。


 ━━━だが油断はしない。最大限の真心を込めて奴らを葬ってやろう。



「エンカウント」



 先手必勝。目の前のホシ達の集団に狙いを定め、手に持った芒炎鏡のトリガーを引いた。


 ━━━バンッ

 

 乾いた発砲音が鳴り響きオレンジ色の細い光が放たれたる。そして放たれた光は真っ直ぐな線を描いきながら先頭にいたホシへと迫っていく。



『………………!?』



 気付いた時にはオレンジ色の光はホシの身体を貫通させた。

 五百円玉ほどの大きさの穴が作られると共に、ホシの身体はどす黒く変色し地面へと倒れ伏した。



『………………!』


 

 仲間を倒された他のホシ達はこちらに対して強い敵意を示すと、身体を輝かせながら私達に向けて熱光線を発射し始めた。


 九体のホシ達による熱光線の雨。並の者ならなす術も無く貫かれてしまうだろう。

 しかし私達は違う、厳しい訓練により鍛えられた肉体とホシと戦い続けた経験が熱光線の雨を容易に避けさせるのだ。



「いひひ、ざーんねン!」



 ハトちゃんも小さな体躯を活かした体捌きで攻撃の隙間を縫うように避けながらバン、バン、バンと続け様に芒炎鏡で三体のホシを仕留めた。



「残り六体よぉ」

「このまま一気にやる!」



 残ったホシ達は熱光線による攻撃が通用しないのを見て、発射を止めて私達と距離を取っていた。



『………………!!』



 そして充分な距離を作った六体のホシは接近戦を仕掛けようと、自身の硬い身体を手裏剣のように高速回転させながら突っ込んで来たのだ。

 六体の内三体は私へ、残りの三体はハトちゃんの方へ迫っていく。



「ハトちゃん!」

「大丈夫! イブちゃんはいつも通りにネ!」



 それなら心置きなくやらせてもらうよ。



「了解! はあッ!」



 地面を蹴りながらいの一番に突っ込んで来たホシに向けて飛び上がった。そして回転攻撃を空中で回避し着地と同時に芒炎鏡のトリガーを引く。一体目。


 続けて身体全体をバネのようにして後方宙返りで飛び上がり、ホシの更に上へと舞い上がりながら、私の真下で回り続けているホシの身体に綺麗な風穴を作り上げた。二体目。



「…………ラスト!」



 空の下で回転する私へ向けて三体目のホシが迫って来た。このままでは敵の攻撃を受けてしまう。

 動きが大きく制限される空中で敵の攻撃の対応など━━━簡単にできてしまう。



 ━━━バンッ、バンッ、バンッ!



 腰を捻りながら身体全体を大きく回転させると同時に芒炎鏡を地面から水平に構えて連射する。

 それは回転による遠心力と連射による反動を利用した空中での斉射射撃。まさしく究極の面制圧攻撃だ。

 まるで空に飛び上がる花火のようにオレンジ色の光が拡散していく。この予想だにしない攻撃を避ける術はホシには無かった。三体目。


 そして私の着地と共に黒ずんだ三体のホシは無残にも灰となって空へと舞っていくのだった。


 こうして私の戦闘は終わった。さて一方のハトちゃんはと言うと。


 

「いやー、三体とも固まって来てるネー」



 迫ってくるホシに対して回避行動するでもなく迎撃するために芒炎鏡を構えるでもなく。ただ桜色の頭を軽く掻きながら笑いながらホシが来るのを待っていたのだ。


 徐々に距離が縮まる三体のホシの回転攻撃がハトちゃんに向けて一斉に襲い掛かって来る━━━と思いきや。



『……………………!???!!!?!?』

「ざーんねン!」



 ホシ達は自分達の攻撃は当たるどころかハトちゃんの目の前で無防備にも静止していた。いや、正確に言うならば静止

 ホシ達をよく見てみると、奴らの足元には黄色い板のような装置が設置されておりそこから強力な電流が放射されていた。


 これは天門台が開発した罠型兵器『星電器せいでんき』。強力な電磁波により対象を拘束することができる対ホシ用兵器だ。

 その威力は並のホシどころか上位個体ですら動きを封じてしまうほど。


 つまるところ、電磁の網にかかった三体のホシはもう終わっているということだ。



「これでおしまい!」



 ハトちゃんは拘束され無防備になったホシ達に向けてゆっくりとそのトリガーを引いた。


 こうしてこの任務最初の戦闘は終わりを迎えた。三十秒にも満たない、呆気ない攻防だった。



「二人ともすごいわねぇ。私がサポートする必要も無かったわぁ」


「五芒星や六芒星ぐらい大したことありませんよ」

「そうそう! 目的は十芒星だからネ!」



 目の前に倒れている五芒星と六芒星のホシは簡単に言えば下っ端のザコ。今の私達には敵にもならないだろう。

 それにまだ作戦は始まったばかり、ヴィーナスを倒すまで決して油断できない状況だ。



「それじゃあ先を急ごう!」

「おおー!」

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