任務 十芒星ヴィーナスの討伐
第4話 作戦
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「あの星型異形がこの地球に襲来してから五年。我々は大切なモノを奪われ続けてきた。愛すべき家族、帰るべき故郷、星々が輝く夜。奴らの熱光線は私達が育むべき未来の全てを消し去った。まるで傲慢な神にでもなったかのように」
天門台のブリーフィングルーム。その壇上でニホン支部の支部長━━━エレンが隊員に向けてをホシ達の所業を語っていた。
私達はその言葉の一節一節を噛み締めるようにして聴いていた。瞳に確かな力を込めながら。
「奴らに対抗するための兵器を手にしたとて守りに徹するのが精一杯だった。それほどまでに我々と奴らとでは戦力の差は開けていた」
その感情を現す言葉はまさしく怒り。
今の私達の心はホシ達への怒りの思いが一つに染まっている。
「ここまで長かった、本当に長かった…………だが我々はついに忌むべきホシ達へ一矢報いる時が来た!」
腕を振り払い羽織っているコートを翻す。
そう、私達人類はこの時をずっと待っていた。━━━即ち、反撃の狼煙を上げるこの時を、奴らに眼に
「だが油断してはならない。人類は油断をしたところから全てを奪われてきた、この事実は歴史が証明している。故にこの作戦の最初に私から君達にこの言葉を送ろう」
━━━━彼を知り己を知れば百戦殆からず。
歴史から紐解かれた毅然たる事実。それはどの時代、どの文明でも我々の道標となるはずだろう。
エレン支部長の演説が終わった。
我々の闘志の炎は点火された。なら次やるべきことは非常に単純、そう『敵を知る』ことだ。
「それではこれより『十芒星・ヴィーナス討伐作戦』のブリーフィングを始める。まずはこの映像を見てくれ」
真っ白なプロジェクターにある映像が映し出される。
それは上空から撮られた映像だった。
映像の状況を言葉にするなら『この世の地獄』と言うべきだろうか。閑散とした街を襲うホシ達、熱光線が建物と人間を破壊する身の毛もよだつ凄惨な光景。その集団の中心にいたホシは街を包むように金色の光で照らしたのだ。
そして光を浴びた一部の人達が隣にいた者に襲い始め地獄はさらに深まっていく。
見ただけでわかる。これは五年前私とハトちゃんが実際に体験した時の映像だ。
思い出すだけでも吐き気がする。そして怒りの感情が沸々と煮えたぎって来る。
「………………ッ」
「イブちゃん………………」
そんな様子を見てハトちゃんの小さな手が私の拳を優しく包み込んだ。
冷たい感触が手の甲に伝わって心地がいい。
「落ち着いて、イブちゃんは一人じゃない。この部屋にいるみんなやわたしが着いてるからネ」
「…………うん。ありがとう」
籠った熱、怒りの炎が彼女の温もりによってゆっくりと冷めていく。
ああ、本当にハトちゃんが隣にいてよかった。
そうしている間に五年前の映像が終わると、一枚の写真がプロジェクターに写し出された。
金色のホシ━━━━ヴィーナスだ。
「今回のターゲットは『コード・ヴィーナス』。現在までに六体しか確認されていないホシ達の最高戦力である『十芒星』の一体。映像を見てわかると思うが、このホシは己の発した光を浴びた者の精神に異常を発生させる能力を持っている」
あの光を浴びた者はホシを讃える言葉を叫びながら人間を襲おうとする。まるで神を崇め殉ずる狂信者のように。
ホシという偽りの神に殉じたその先にあるのは天国では決してない。大切な人を殺し、そしてホシの熱光線に貫かれる地獄が待っているのだ。
「だがこれに対抗するために、研究課が精神攻撃に対する防護装置を開発し戦闘スーツに取り付けた。当然だが過信はできない、だがもしもの備えとして有効に使ってくれ」
まさかそんなものが開発されるとは思ってもいなかった。
ターゲットが発見されたのは四日前、それだけの短い期間で精神攻撃に対抗するための装置を開発していたとは。
天門台・研究課。やはりとんでもない技術力だ。
「さて、次はターゲットの潜伏場所だ。ヴィーナスは廃墟となったテーマパークで潜伏している可能性が高い。正確な位置は不明だが、これを皆で捜索、見つけ次第撃破することになる」
その言葉と共にドローンから撮影された画像が表示される。
写っている崩れた入口に壊れ伏した観覧車、馬の欠けたメリーゴーランドなどのアトラクションの風景はどこか幻想的な寂しさを映し出している。
しかしそれも一瞬の事。プロジェクターは風景を映し出した画像が消えて私達の顔写真を写したページへ移動した。
「今回の作戦は一組三人のチームを十二チーム編成。各チームがテーマパークの四方から近づき強襲、一気に攻め込む」
作戦を簡単に説明すればテーマパークを包囲して敵の逃げ場を塞ぎ、一気にすり潰すということだ。敵の戦力は未知数だが、この作戦ならどのような相手でもこちらが優位に立ち回れるだろう。
とはいえこれにも危険は多々ある。しかし危険を犯してでもこの機会に金色のホシ━━━━ヴィーナスを討伐したいということだ。何せチャンスは今回きりなのだから。
「ではこれよりチーム編成を伝える。まずはAチーム、アナ、ヒバリ、ジュリア。Bチームは………………」
こうして続々とチーム編成が決められて行き。
「最後Lチーム、メイア、イブキ、ハトの三人だ。それでは四時間後に出撃する。それまでに万全の準備を完璧に整えるように!」
「はい!!」
こうしてブリーフィングは終わりエレン支部長は部屋を後にした。残った隊員達も各々出撃の準備のために続々と退室して行く。
皆の表情は緊張に満ちている。それもそうだ、この十芒星討伐作戦は歴史に刻まれるであろう大事な作戦なのだ。
成功すれば人類に生きる希望を与え、失敗すればホシには敵わないという明確な敗北を決定付けることになるのだから。
そう、この場にいる者は今人類の未来を決定するための三叉路に立たされているのだ。これで緊張するなと言うのが無理な話だ。
「…………わたしたちも行こっか」
「…………うん、そうだね」
もちろん私とハトちゃんもその一人。今も心臓がバクバクしている。
早く落ち着かないと。こんな時は暖かいココアでも飲んでゆっくりしなくちゃ。
「お二人共ぉ、少しいいかしらぁ」
そんなココアを求めて部屋を出ようとした私達の足を朗らかな声が呼び止めた。
振り返った先には、優しく朗らかな笑みを浮かべた赤茶髪の女性━━━━メイアさんが立っていた。
「あ、メイちゃん! そういえば一緒のチームだったネ!」
「イブキさんに、ハトさん。今回はよろしくお願いしますねぇ」
そう言って彼女は大きな身体を揺らしながら私とハトちゃんに向けてお辞儀をした。
メイアさんはこのニホン支部では三番目の年長者であり、後方支援のスペシャリストだ。
その能力は折り紙つきで彼女の活躍によって成功を収めた作戦は十八回。まさに天門台が誇る最高戦力と呼んでも差し支えないだろう。
「メ、メイアさん!? よろしくお願いします!」
「うふふ、元気いっぱいねぇ。私が二人をしっかりとサポートするから頑張ろうねぇ」
「メイちゃんが居れば百人力だよ! 一緒に頑張ろう!」
私は憧れの人に出会ったことによる緊張と共に、ハトちゃんはまるで近所のお姉ちゃんと話すような気楽な様子で、それぞの声色を纏わせながらメイアさんに挨拶するのだった。
「それじゃあ早速出撃の準備をしましょうかぁ。イブキさんは『アレ』の準備も必要でしょう?」
「そ、そうですね。私は工廠課へ向かって武器を受け取って来ます」
「わたしも一緒に行くよ、罠をたっぷり補充しとかないとネ!」
こうして私は頼れる親友と頼れる先輩と共にブリーフィングルームを後にした。
━━━━夜を奪い返す戦いは、間も無く始まる。
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