警察からの協力依頼 九 〜ご令嬢救出作戦、緊張〜

「やっぱり危ない気がするんですけど……」


「いいから聞いて」


 流澄は懐から手榴弾を取り出した。


「今からこれで、壁をぶち壊すから」


「手榴弾じゃ無理ですよ」


「ちょっと、手を出してくれるかい?」


「あ……」


 流澄は、桜の手に手榴弾をそっと載せた。


魔法効果付与かこう、お願い」


 にっこり微笑む流澄。桜はしぶしぶ、手榴弾に魔力をこめた。


「できましたよ」


「ありがとう」


 壁から離れると、流澄は手榴弾を投げ付けた。ドカーンと大きな音がして、壁に穴が空いた。


「突入だね」


「気を引き締めて行きますよ!」


 ふたりは建物の中に駆け込んだ。複数の足音や、混乱の声が迫る。


「わっ!」


 突然、ふたりの視界は眩しい白で埋め尽くされた。

 今度は敵の方が、目くらましの魔道具を使ってきたのだ。


 流澄の耳を刃がかすめた。

 足をかけた敵に対し、体勢を崩したと思わせ、逆に転ばせる。


「頼みましたよ!」


 桜が、両手の指を組んで屈む。流澄はその手を大きく蹴って、宙に飛び上がった。


 流澄は素早く上階の柵を掴むと、降り立った。


 辺りを見回すと、廊下が奥まで続いている。その両側には、規則的に扉が並んでいた。この建物は社宅だったのだろう。


 階段が壊れているため、敵も登ってこられない。流澄はそのまま二階を進んだ。


 白花姫を入れた行李鞄は、一体どこにあるのか。


 外や一階の敵は、戦闘にある程度慣れているようだった。おそらく、誘拐組織の構成員ではなく、傭兵だろう。

 なにせ廃工場は、とても治安が悪い場所なのだ。


 それでもこの場所を選んだのはなぜか――


 流澄は立ち止まって顔を上げた。開けたホールに出た。


「やあ」


「ずいぶんとひょろっちいのが来たな」


 大柄な男が、行李鞄のそばに座っている。流澄は笑顔で、彼に歩み寄った。


「その行李鞄を渡してくれないかな」


「嫌だと言ったら殺す、というやつか。やれるもんならやってみろ!」 


 流澄は男に銃を向けた。男が手を振り上げた。流澄はとっさに後ずさった。


「っ……?!」


「ああ残念、指を狙ったつもりだったんだがな」


 ガシャリ、という音と共に、銃の頭が床に落ちた。男は魔術師なのだ。


 男は嘲笑を浮かべて彼を見た。


「降参か?」


「いいや、逆にもっと楽しくなってきたよ!」


 流澄は懐から短刀を取り出した。その不敵な笑みは、彼の興奮を表している。


「さあどうぞ」


「舐められたもんだな」


 男がまた手を振る。


 流澄は先ほどと同様の魔法を、刀で受け止めた。魔法の斬撃は、刃に吸い込まれた。


魔法効果付与かこう済みか」


「特注品さ!」


 それから流澄は、防戦一方だった。男はワンパターンの攻撃を仕かけてくる。


 流澄は攻撃を短刀で防ぎながら、体を大きく傾けた。


 片手を床につけて、男の腹を蹴る。男がひるんだすきに、流澄は急所めがけて短刀を突き出した。



 桜は、一階の敵を片づけてしまった。おびえて逃げていったのもある。

 辺りが静かになると、上階から靴音がふたつ聴こえてきた。


 桜は、特異魔法を使った。



「はっ、大言はいて、この程度か」


 男は、短刀を手で受け止めた。そのまま、流澄を壁に投げ飛ばす。


 ゴンッという衝撃音のあとに、彼は地面に落ちた。短刀は、男の後ろに弾き飛ばされた。


 流澄は頭から出血していた。頭が重く、体が動かない。


 男が、彼に向かって手を振り上げた――


「流澄さん!」


 男の背後に桜が現れた。男は振り返った。


「桜くん、鞄を……!」


「……はい!!」


 桜は特異魔法を使い、男の背後に回った。


 彼は緊張した面持ちで、大きな行李鞄を持ち上げた。

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