探偵と教師の共同生活

御影聖

序章 〜探偵と教師の共同生活とは、一体どのようなものなのか〜

自堕落な探偵 自立した教師

「わあ〜!」


 茶髪の男が、カーテンを開けながら言った。窓の外には、雲ひとつない青空が広がっている。


 新聞をめくる手を止めて、黒髪の男が顔を上げた。


「今日もいい天気ですね!」

と茶髪の男。


「そうだね。それにしても、最近依頼ないね。どこかで事件起きないかな」

 黒髪の男が答える。


「全く、不謹慎です!平和が一番ですよ」


「そんな綺麗事言って。私たちの生活がかかってるのだよ?このまま依頼が来なかったら明日にでも餓死するかも」


「何言ってるんですか、四日前に浮気調査の依頼を終わらせたばかりですよね!」


「いちいちうるさいなぁ、はるは。あ、そういえば」

 黒髪の男は、新聞を机に投げて立ち上がった。


「今日、床屋予約してるんだった」


「依頼受ける気ないじゃないですか」


 茶髪の男、寿々木すずきはるは呆れた様子でキッチンに入った。

 黒髪の男は、廊下の奥に姿を消す。


「朝ごはんどうしますか?米かパンか」

 その背に向かって桜が問うた。


「ん〜。どっちでもいい」


「じゃあ米にしますね」


「え〜、やっぱパン。シュガーバター」


「はいはい」

 桜は、腕まくりをすると、引き出しからしゃもじを取り出した。

 そしてそれを水で濡らすと、慣れた手つきで米を混ぜ始める。


 黒髪の男はしばらくすると、はかまに着替えて戻ってきた。

 そしてキッチンをちらりと見やると、ソファに体を埋めて瞼を閉じた。


 しばらくすると、トーストの香ばしい匂いが漂い始めた。

 みそ汁の優しい香りも、それを追うように立ち上る。


「朝ごはんできましたよ」


 焼きたてのパン、卵焼き、そして温かい味噌汁が、テーブルに並べられた。


 しかし返事はない。


 桜は自分の朝食も並べると、ソファに近付いた。

「朝ごはんできましたよ、流澄るすむさん!!」


「ん、ああ。もうそんな時間か」


「いやまだ三十分も経ってませんから。起きてすぐ寝ないでください!」


「私は生粋のロングスリーパーなんだよ。適正睡眠時間は人によって違うんだから押し付けはよくないよ」


「言い訳はよして、早く食べますよ」


 黒髪の男、静星しずほし流澄るすむは、桜に引っ張って起こしてもらうと食卓に着いた。


 ふああ、とあくびを漏らすと、彼はパンにかぶりついた。

 噛む度、じわりと口の中にバターが滲んで、砂糖の甘さと溶け合う。


 流澄はそれをすぐに平らげると、機嫌よさそうに今度は箸を手に取った。


 口の周りにパンくずが付いていた。


「やっぱり、君は朝ごはんについては最高のシェフだ。いつ食べても美味しいね」


「誰でも作れますよこれくらい。褒められて悪い気はしませんけどね」


 桜は腰を上げると、ティッシュで流澄の口元を拭った。


「ああ、ありがとう」


「全く、これじゃあ僕、いつまで経っても流澄さんとレストランには行けませんね」


「私は、君と叶麗夫人の手料理で満足しているからね、その必要はないよ」


「夫人の料理は確かにホテルランチ級ですよね」


「ホテルランチだなんて、例えが間違ってる。彼女は家庭料理の専門家だ」


「家庭料理のホテルランチ級、と言えば伝わりますかね」


「うーん、考えものだね」


 話しているうちにも、朝食は彼らの胃袋にどんどん消えていく。


 流澄が先に食べ終わり、食器を流しに持って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る