第一話 俺がやらなきゃ

 謎の本を拾った俺は突如異世界へと転生し、

 一人の少年''マナ''として生まれたらしい。


 が、そんなワケの分からん状況を整理する間もなく俺は今、こっちの世界の母と思しき人に手を引かれて避難している真っ最中である。


 ふ、普通ならここで主人公たちは戦うけどお……。

 俺は十歳のクソガキですから…遠慮しておきます…。


 それよか、先程部屋の窓から見えた村の様子。


 何やら振れば火が出てくる杖や大きな紙に魔法陣が書いてあり、そこから物を出す見たことのない道具…。

 水を発生させたりする日常に溶け込む魔法、

 ゲームやラノベで何度も目にしてきたエルフやドワーフなどの様々な種族達…。


 「そっちだー!!」

 

 「囲めー!!」


 重そうな鎧に身を包んだ村の人たちが、大きな狼のようなけむくじゃらの魔物、ウェアウルフやでっけえ鳥の頭に人の体を持った魔物、ガーゴイルなどと死闘を繰り広げている。


 「ガアアアアッ!!」


 「グアオオ!!」


 ——————


 「い、異世界…こええ……。」


 しばらくし、魔物達が殲滅された。

 この村…意外と強い人が多いんだな…。

 母は村の手伝いがあると言って行ってしまい、俺は部屋に戻ることにした。

 そういえば、異世界に来て初めての一人だな。

 そこでこの機会にこっちの世界について調べてみる事にした。


 ——————



 異世界ここに来て三日程経っただろうか。

 最近、異世界の生活にも慣れ、自分なりに調べてみて分かった事は三つ。


 まず一つ目は俺の身体について。


 どうやらこの体、''マナ''は生まれた時から今までずっと眠りっぱなしだったらしく、だから俺というかマナは三日前に初めて目覚めた事になる。

 眠りっぱなしってどゆこと?と思うがそれは父と母が一番思っている事だろう。


 あと、髪が長くて邪魔なので生まれて初めて髪を結んだ。

 どこぞの錬金術師の兄のような気分がして中々かっこ良い。


 二つ目はあの''本''について。


 初めてこっちにきたのに魔法や道具、襲いくる魔物にすらなぜか既視感があると思ったら、なんとあの本に書かれていた内容と全く同じだったのである。

 つまり予備知識を持って転生した事になる。


 正直これはかなりデカい。

 何も知らないまま異世界に放り出されたら俺は間違いなく発狂する自信がある、てか叫び散らかしてただろう。


 そこで、予備知識をもって覚えている魔法を使ってみようとしたのだが…。

 全て成功しない。

 おかしいな…。詠唱文も合っているハズなのに。

 すると俺はこの世界で魔法が使えないのかもしれない。


 おいおい…チートどころかハンディを背負わされてしまったぞ…。


 そして三つ目。

 この村についてだ。


 この村は魔物による襲撃が異常なほどに多い。


 「魔物だー!!魔物が来たぞ!!」


 ほら、今だって。

 だがこの村の戦士達は強いらしく、大抵すぐ終わる。

 慣れれば妙な落ち着きが出てくるものだ。


 ——————————————————


 「やめろおお!」


 「くるなあああ!!」


 おかしいな。

 いつもは悲鳴なんて聞こえないしすぐ母が来てくれるのに。


 ヤバい…。余裕ぶっていたがかなり不安になり、冷や汗がだらだらと流れ始めた。

 俺は能力もなければ、オマケに無力なのだ…。

 襲われれば一瞬で死ぬ自信がある…。


 ドゴオオオオン!!!!


 村が激しく揺れたと同時に今まで感じた事のない、おぞましい気配を感じた。

 それはまるで心を抉るように俺を恐怖させ、震えあがらせた。


 「な、なんだよコレ…!」


 そして轟音と共に家が崩れた。


 「ウゲハハハ!!ガキがこんなところにもまだ残っていたとはな!!」


 凄まじい圧を放ちながら現れたのは、筋骨隆々な腕を四本と、恐ろしい眼光で俺を睨む一匹の魔物。

 顔には気味の悪い笑顔を浮かべ、舌なめずりをして俺を舐め回すように見ている。


 本の通りの姿、一つしかない目に腰に巻きつけた布切れ、そして青っぽい肌。


 そいつを見た途端、頭が警鐘をけたたましく鳴らす。


 「サ、サイクロプス…!!しかも言語を話す魔物…!?」


 本で読んだ知識が俺の五感全てを持って逃げろと叫びだす。


 「ウゲハハハハ!!中々詳しいなガキ!ならば話は早い!」


 そう言って俺は空いていた腕で掴まれる。

 体が凄まじい力で締め付けられてしまい、粉々になってしまいそうだ…。

 かろうじて開けた目で横を見てみると、ヤツの腕には俺の他に誰かが握られていた。


 「マ、マナ…!!」


 「母さん!?」


 「すまねえ、マナ…。守ってやれなくて…!!」


 掴まれていたのは父と母だったのだ。


 「マナ…。お母さん達のせいでごめんね…。」


 母の声はこの状況、全ての絶望を含んでいた。



 クソ…。俺は死ぬのか…?

 体は恐怖で震え上がっているし、気を抜けば痛みで今にも気絶してしまいそうだ…。


 それも当然だろ?

 現実にこんな腕が四本もあるやつはいなかったんだし、味わった事のない程の激痛だ…。


 だが…。隣をチラッと見る。

 この数日間、この二人のおかげで家族の温かみに触れてきた。

 現実ではあまり味わわなかった感覚…。


 それもあって最初は戸惑い、思い詰めた異世界だが案外悪くないと思い始めていたこの頃なのに…。


 何より俺は、


 「イヤだ…。死にたくない…。まだ死にたくない…!!」


 俺の震える声に嘲笑うサイクロプスだったが、突然、視界の真ん中に文字が現れた。


 『能力開放可能』


 俺は死にたくない。

 今は考えている暇も迷ってる暇もないだろ…。

 開放を選択する。


 『能力獲得成功。能力名''神ノ書物アンドロメダ''』


 テロップと同時に俺の周りを見覚えのある光が包む。


 「こ、この光…!?」


 光が消えると、俺の手にはあの時の本が握られていた。

 黒い表紙に、水色に輝くラインが走っている。


 「ム!?キサマなんだそれは。どこから出した!!」


 急いでページをめくる。

 なんで?とかなんだこの本?とかは後にしろ。

 今すべきは俺ができる事をする事だ…!


 開かれたページは火属性初級魔術''炎フロウガ''。


 「よし…!」


 必死に記憶を呼び覚まそうとする。

 前世で覚えた''攻略''するための魔法を…!!


 『''体内魔力循環''+''魔力生成''!!』


 唱えると本が光り、今まで感じた事のない力を感じる。

 体の内側から溢れるような感覚、その力が体の中を駆け巡り、漲る。

 体の隅々まで行き届いたそれは、俺に力を与えた。


 「これが…!魔力なの…か…!?」


 俺は手の平をヤツの頭に向けた。


 「何をする気だァ!ガキィ!!」


 サイクロプスがブンブンと腕を振り回してくるが俺は絶対に照準を離さない。


 (ここで外せば俺の全てが無駄になる…!それに俺も、この二人も…!!)


 決死の思いで俺は体が砕けるような痛みに耐え抜き狙いを定め続け、ついに照準がヤツの頭を捉えた。


 「俺はな…死にたくねえんだよ…!!

『''炎フロウガ''!!''詠唱破棄''!!!』



 「うがあああああああ!!!!!!」


 詠唱無しに放たれた俺の初級魔術''炎フロウガ''は敵の頭を貫き、体を燃やし尽くす。

 役目を終えた''炎''は遥か遠くの上空にて散った。

 サイクロプスは断末魔と共に消滅したのだ…。


 「やっ…た…。俺にも力……あっ…た…。」


 俺は気を失い、地面にぶっ倒れた。


 遠くから父と母の声が聞こえるが今は寝よ…。


 地面から見上げた空には、水色に輝く星が俺を照らしていた。

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