12/10 シュトレン




 シュトレン。

 こってりとした酵母の入った生地に、レーズンとレモンピール、オレンジピールを練りこんで焼き上げたケーキで、上には粉砂糖がたっぷりかかっている、クリスマスの代表と言えるお菓子。







 澪の先輩に極悪者の魂と言われたおじいさんは、目を覚ました澪におとなしく刈られて天国へと向かった。


「ご。あ。ありがとうございます。暖さんと蒼さんがいてくれたので、おじいさんは天国に行くことができました」

「顔、しょぼくれているけど?」

「うう。私、一人できちんと魂を刈らなければいけなかったんです。なのに、結局暖さんと蒼さんに頼ってしまいました」

「頼ってくれて嬉しいけどなあ」

「やめてください。私、骨抜きになっちゃいます」

「はは。ならないよ。澪は大丈夫だって。これから死神として色々経験すれば、今度は澪が先輩として、死神だけじゃなくて、色々なやつの頼りになるから」


 包容力抜群の笑顔を向けられた澪は、よろめきそうになる身体をしっかり立たせてから、両の手をぐっと握りしめて頑張りますと言うと、まだ眠っている蒼を見つめた。


「蒼さん。お酒が弱かったんですね」

「なあ。弱かったんだな」


 知らないこともあるんだ。

 お互いに知らないことなどなさそうにと、澪は思いながら、刻一刻と時間が過ぎていることに少しだけ焦りを覚えた。



 現実と連動していて、日付を越えない限り、何度でも出入りできたアドベントカレンダーに逃げ込んだ蒼の魂は日付を越えると、次の日に移動するらしい。

 それは、ほとんどの時間をアドベントカレンダーで過ごしている澪たちも一緒で、日付を越えると次の日に移動していた。

 今日もそうだ。

 十二月九日から十日に移動していた。


(逃げ込んだ蒼さんの魂も)


 その日付に逃げ込んだ魂が定着していて、その日の内に見つけられなかったら消滅する、という恐ろしい心配はなくなり、澪は少しだけ安堵した。

 アドベントカレンダーの最終日までまだ時間があるのだと。


(そうよ。大丈夫!)


 うんうんと力強く頷く澪に、暖は朝食はシュトレンだと言った。


「シュトレン、ですか?初めて聞きました」

「お。そうか。なら朝食を楽しみにしてな。お菓子だけどな。パンみたいだし」

「うわあ。楽しみです」

「ならそれまでねむ」


 っていようか。

 続くその言葉を暖が紡ぐことはできず。

 別の言葉をゆったりと放っていた。


「酒を飲んだ後の寝起きは最悪だったのか。これも初めて知った」


 なあ、蒼。

 暖の眼には、剣を自分に向ける蒼の冷酷無比な顔が映っていた。

 最近では見慣れぬ、けれど、昔は見慣れた顔だった。











(2023.12.10)


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