バイト先でいつも喋るやつに「友達になってください」と言ったら、次の日なぜか『眠り姫』に話しかけられた件。
沙月雨
とある少年のモノローグ
例えば、どこにでもいるような、ありふれた一人の男がいるとしよう。
物語でいうと所謂脇役であり、存在すら認知されないエキストラ。
もしそのエキストラが、絶対にハッピーエンドが確定されているお姫様に出会ったらどうする?
話す? 仲良くなる? はたまた、自分もメインキャストになるために近づく?
答えは、ノーだ。
俺だったら絶対に関わらない。
だって、可愛らしいお姫様とくっつくのはいつだってかっこいい王子様だというのと同じように、エキストラはエキストラなりの役目があり、またそれを全うしたときに、俺らはそれぞれの人生を手に入れられるから。
可もなく、不可もなく、山もなく、谷もない――――――そんな人生。
そんな、平凡な人間にとってこれ以上ないほど幸せな物語から外れる必要性が、一体どこで感じられるというのだろう。
――――――だというのに、もしその物語に何らかのバグが生じたとき。
この広い日本という名の空間で、1億2700万人のうちのヒロインと、どこにでもいるようなありふれたエキストラが出会ったとき。
『そんなはずがない』と、誰だっていうだろう。
そもそもエキストラと主役が出会ったところで、存在が認知されるはずがない。
所詮は全て配役が決められている中、俺達はただその中で踊らされているだけなのだから。
けれど、もし。
もし、その1億2700万分の一の確率で、ヒロインが何らかの理由でエキストラの存在を知り、また興味を持ったとしたら、それを人は何と呼ぶだろう。
それを、ある人は間違いと呼んだ。
それを、ある人は偶然と呼んだ。
そして、それをある人は――――――『運命』と呼んだ。
『天照優雨』
それが、平凡な人生を歩むはずだった俺の名前。
――――――さて、俺は「これ」をどう名付けようか。
世界に選ばれ、その存在を祝福されるためだけに生まれたような少女と、生きていても何の価値もない少年の出会いを。
「おはよう、優雨」
姫宮雫―――――『眠り姫』と呼ばれているたった一人のお姫様と、何万といるエキストラとの物語を。
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