第97話 不死の王

 その頃魔王軍統合作戦司令部では(sideザベルマモン)



 凄まじい爆音と大地を揺るがす振動が起こり、ここ魔導要塞ギガントパンデモニウム頭頂部にあります魔王軍統合作戦本部はパニックりなりましてよ。


 ズガガガガガガガガガガガガーン! ドドドドドドドドドドドーン!


 再び轟音がして前方から土煙が巻き上がりましたわ。


「何事ですの! 状況は!?」


 すぐに部下が駆け付けましたの。


「ご報告します。何者かの奇襲を受けました! 被害甚大! 繰り返します、被害甚大! 第三軍魔獣部隊壊滅! 第四軍死霊部隊も過半数が消失! レイスを除き破壊し尽くされた模様!」


「は?」


 一瞬、何が起きたのか理解が追い付きませんでしたわ。あの選りすぐりのモンスターを集めた魔獣軍団と不死の死霊軍団が、たった何度かの攻撃で壊滅したなど有り得ませんですから。


「えっ……壊滅? 一体どんな……。て、敵には伝説級の剣士や大魔法使いがいますのね? はっ、もしや勇者!?」


 これは婚活の大チャンスですわ。敵が本当に勇者ならば、わたくしが肉体言語でお見合いをして成婚するしかないですわね。


「コホンっ、わたくしが出ましょう」


 立ち上がったわたくしを、バルバトスとダンタリオンが止めましてよ。何ですの、この邪魔な男どもは。


「おいおい、真っ先に大将が出張るなんてねえだろ。ここは吾輩に任せてもらいますぞ! グハハッ!」

「そうですな。先ず我ら悪魔司令官が出るべきである!」


 余裕ぶっこいてますけど、わたくしより弱い彼らで大丈夫かしら。


「そんな顔をするなよザベルマモン大将軍、あんたには及ばずとも、これでも吾輩は魔王軍きっての武闘派だぜ」


 バルバトスが一般魔族の腹よりも太い腕を掲げましてよ。上腕二頭筋が山のようですわ。


「ふっ、そうだな。前衛は倒されたとしても、まだ不死の王エルダーリッチは健在であろう。あの魔物は物理的に排除不可能である。ここは我ら一丸となって敵の先鋒を倒してごらんに入れましょうぞ」


 ダンタリオンまでやる気ですわ。


「バルバトスさん……ダンタリオンさん……」


 彼らがやる気なら任せてみようかしら。


「それに、吾輩らに倒されるようじゃ、真の勇者とは呼べねえな」

「そうであるな。我らやエルダーリッチを突破できぬのならば、ザベルマモン様のお眼鏡に叶う男ではありますまい」


 キュピィィィィーン!


「そ、そうですわね! ザコに負けるようなら真の勇者じゃありませんわ! わたくしより弱い男に興味ありませんわね! おーっほっほっほっほ!」


「お、おう……吾輩、これでも一軍を任された君主級悪魔デーモンロードなのだが」


「ザ、ザコ……だと。ガクッ……」


 何やら部下の戦意を削いでしまったようですわね。わたくしのせいじゃありませんわよ。


 ◆ ◇ ◆




 再び交戦中の閃光姫ライトニングプリンセス――――



 俺は魔法攻撃を避けるようジールを誘導する。

 パシッ! パシッ!


 ビュバァアアアアアアアアアアーッ! シュバァアアアアアアアアアア!


 地上から幾重にも重なるように光線が放たれ、俺たちの乗ったドラゴンジールに向かって発射される。見た目にもヤバい大魔法なのは俺でも分かるくらいだ。


「相手はかなりの使い手だ! このままだと狙い撃ちされる! ジール、一旦地上に下りよう」

「ガルル、了解した!」


 ヒュゥゥゥゥゥゥ――


 魔法を撃っているであろう敵から離れ、俺たちは岩陰に着陸した。


「よし、ここからは地上を行こう!」

「ま、待つんだ! 私が裸なのだが」


 竜化から人型に戻ったジールがスッポンポンだった。筋肉質でありながら意外と柔らかそうな女騎士の体をクネクネさせ、両手で胸と股間を隠す姿が何とも形容しがたく、俺は顔を逸らした。


「おいジール、早く服を着ろ」

「お前のかばんに預けてあるのだが! はっ、まさか、私の下着をクンカクンカしておらんだろうな!?」

「そんな訳あるかぁああ!」


 俺は鞄からジールの服を取り出すと、極力下着を見ないように手渡した。ちょっと可愛い柄なのが気になって仕方がない。

 いまいち緊張感に欠ける展開だ。



 ドッカァアアアアアアアアーン!


「うわっ!」

「きゃあっ!」


 その時突然、隠れていた岩山が爆発し、俺たちは押し寄せる大軍の目の前に晒された。例の敵大魔法使いによる長距離攻撃だろう。


「ちょっとアキ、マズいわよ!」


 シーラがレイピアを抜いた。彼女が剣を使うのは初めて見る。杖と剣の二刀流みたいでカッコいい。


「前衛は俺とジールでガードする。レイティアは攻撃を。アリアとシーラは俺の後ろに! 隙をついて魔法で攻撃してくれ!」

「「「了解!」」」


 俺たちが戦闘フォーメーションをとると、さっきからずっと高みの見物を決め込んでいたシロとクロがアルテナを連れて後退する。


「よし、我は後ろで応援しておるぞ」

「わらわは空腹なのじゃ」

「では我もカツカレーを所望である」

「はわわ、シロ様、クロ様、皆の邪魔はしない方が」


 呑気な話声が聞こえてくるがスルーしておこう。この状況で凄い余裕である。


 ズドドドドドドドドドドドド!


 前方から魔獣部隊の残党と自動人形オートマタが押し寄せてきた。その後方にゴーレムも見える。

 大地を埋め尽くすような数と地響を轟かせながら前進する様はド迫力だ。


「来るぞ!」


 俺が声を上げたその時、遥か前方から再び高出力の大魔法が展開するのが見えた。


「うおおっ、間に合え!」

【防御魔法・精霊の七層盾ロードエレメンタル


 ギュワァアアーン! ビュバァアアアアアアアアアアーッバババババ!


「ぐああっ、何とか間に合った! 凄い威力だ!」


 俺は正面に精霊の七層盾ロードエレメンタルを展開し、遠くから一直線に向かってきた青黒い光を受け止めた。


 超強力な七枚の精霊の加護を受けたマジックシールドだ。いつも槍にしてボコボコやっているが、本来の使い道はこっちである。


 パキィーン! パキィーン!


 信じられないことに、鉄壁のシールドの何枚かが破壊された。


「なんて凄い魔法だ。直撃してたらヤバかったぞ! さっき地対空魔法攻撃をした奴と同じなのか!」


 ただ破壊力があるだけではない。何らかの侵食効果のある黒魔法かもしれない。


「アキちゃん! 自動人形オートマタは任せて!」

「アタシもやるわよ! アキっ!」


 ゴバァアアアアアアアアアア!

 ズバババババババババ! バリバリバリバリ!


 こちらも負けてない。アリアとシーラの大魔法が炸裂し、魔獣と自動人形オートマタが密集しているところを爆発させてゆく。



 ギュバァアアアアアア!

「ギェエエエエ!」

「ギョベェエエエ!」


 魔法で爆発炎上するモンスターの中から、悠々と此方に向かってくる一団が出てきた。奇怪な叫びと半透明の体をした怪しげな敵だ。

 そのモンスターには、火炎魔法も雷魔法も全く効いていないように見える。


「何だあれは!? もしかして霊体? レイスか!」


 まるで亡者の群れを集めて丸めたような感じだ。奇声を発しながらふわふわと空中を漂っている。


「ちょっとアキ! あのレイスには通常魔法が効かないわよ!」


 シーラの言う通りだ。霊体モンスターの弱点は神聖魔法による攻撃と相場が決まっている。


「シーラ、光魔法で何とか対処できないか?」

「まっ、アタシは色々な魔法が使えるし。でも神聖魔法じゃないとダメージは期待できないわよ」

「それでも無いよりは良い」

「オッケー……って、ちょっと待って!」


 シーラの声で前方に視線を向けると、レイスの塊の向こうからローブを着た骸骨姿の魔物が現れた。


「あ、ああっ、アキ! 凄いの来ちゃった!」

「何だあれは?」

「エルダーリッチよ! 魔法も物理も効かない不死の王よ!」


(エルダーリッチだと! そんなの大昔の御伽噺おとぎばなしや勇者伝説の中にしか登場しない最強レベルのモンスターじゃないか!)



 ゴボボボボボボボボボボボ――


 そのエルダーリッチが地獄の亡者のような呻き声を発している。そこに存在しているのに、何か別次元から声を出しているような。


『ゴボボボボ――ガボボ、愚かなる人間どもよ――ワシは魔法を極めし者――不死の王――』


 予想外の大物が登場し、先手を取ったはずの形勢が逆転しそうな展開になってしまう。


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