第95話 これが勇者パーティー(仮)だ!

 ジェフリーの説明で争いは避けられたものの、何故か俺が勇者にされてしまった。


「おい、俺は勇者じゃないぞ。俺はただの支援職サポーターだ」


「「「勇者ばんざーい! 勇者ばんざーい!」」」


 俺の意志とは逆に、帝国軍は大盛り上がりだ。ジェフリーと共に駆け付けた王国軍まで万歳している。


「アキ君凄い! ついに勇者になったんだ」


 レイティアが目をキラキラさせている。そんな瞳で俺を見つめられたら、今更違うとは言い出しにくいではないか。


「アキちゃんは勇者になっても私の婚約者なのは変わらないのよね♡」


 念押しするようにアリアが言う。婚約者なのはもう否定しないが、勇者になるのは否定したいところだ。


「アキはやる男だって分かってたわよ! アタシは最初から目を掛けてたんだし」


 そう言ってシーラが小さな胸を張る。ドヤ顔で言っているが、さっきまで散々俺にツッコんでいたはずなのだが。


「うむ、アキが勇者ならば面白い。我もついて行こう」

「そうじゃな。わらわもアキについて行くぞ。面白そうじゃからな」


 シロとクロまで賛同してしまう。

 ただ、その顔には仮面舞踏会マスカレード風の仮面をつけているのだが。


「ちょっとシロさんクロさん、その変な仮面は?」

「今から我は勇者パーティーのメンバー、白仮面である!」

「では、わらわもメンバーの黒仮面じゃ」


 勝手に仲間にされてしまった。


 その時、帝国軍の中から騎士団長らしき男が歩を進めてきた。


「もしや、貴女様は……」

「おう、ハインツではないか」


 シロが返事をした。顔見知りなのだろうか。


「何故、貴女様がこのような場所に。ヴリド――グハアっ!」


 突然、ハインツとかいう騎士が謎の力で吹き飛んだ。


「我の名はシロである! ヴリ何とかではない! 今は勇者パーティーの白仮面であるぞ!」

「は、ははぁ……」


 シロに無茶振りされ、ハインツは渋々頭を下げる。何のコントだ。


 だが、この魔王軍討伐の戦意を高揚するような熱気の中で、俺は戸惑いを隠せないでいた。


(待て待て待て待て! 俺は勇者じゃねー! 大切な人と静かにスローライフがしたいだけなんだ。どうしてこうなった)


 俺の迷いを感じ取ったのか、レイティアが手を繋いできた。


「アキ君、勇者とかはどうでも良いけど、ボクたちで魔王を倒し戦争を止めようよ」

「レイティア……」

「きっと報酬もガッポリで、夢の富豪イチャラブ生活が」

「おい」

「そ、それにさ……す、好きな人が英雄だなんて憧れるだろ」

「レイティア……」


(そうだ、勇者とか魔王とかは関係無い。俺は好きな人の喜ぶ顔が見たい。好きな人の前ではカッコ付けたい。もうそれで良いんだ)


「そうだな。あくまで仮だけど、勇者パーティーを組もうか」

「そうこなくっちゃ!」


 繋いだレイティアの手にギュッと力が入る。


「よし、俺たち勇者パーティー(仮)は、ここから北進し魔王を倒すぞ! 戦争を終結させ平和を取り戻すんだ!」


「「「おおおおおおおおおおーっ!」」」


 この瞬間、世界を震撼させる魔王軍の侵攻に際し、百年の歳月を経て再び勇者パーティーが復活したのだった。


 勇者(仮) アキ・ランデル 専業主夫

 剣士 レイティア・グランサーガ 青竜姫

 魔法使い アリア・ヴァナフレイズ サキュバス

 魔法剣士 シーラ・テンペスト・エメローダス ハイエルフ

 くっころ騎士 ジール 竜騎士ドラゴンナイト

 黒仮面 クロ 謎の上位竜

 白仮面 シロ 謎の上位竜

 ? アルテナ 謎の君主級悪魔デーモンロード



 俺たちのパーティー閃光姫ライトニングプリンセスが、当初と比べかなりの大所帯になった。

 くっころジールや他三人の力は未知数だが、これはこれで心強い援軍になりそうだ。


 ただ、さっきからガタガタ震えているアルテナが気になるのだが。


「あううっ……し、死にたくない、死にたくない……」


 ポンッ!

 アルテナの肩に手を置く。


「アルテナ、俺たちの事情に巻き込んじゃってすまないな」

「あ、アキしゃん……」

「でも安心してくれ。アルテナが危険な時は俺が守る」

「きゅ、きゅん♡」

「だから一緒に行こう。戦争を止めて人族も魔族も一緒に暮らせる世界にするんだ」

「はわわわわぁ……」


 心なしかアルテナの顔が赤い気がする。


「フヒっ、フヒヒっ……わ、私のような陰キャ女に、そ、そんな優しくしたら……ごご、誤解しちゃうれすよ♡」


 アルテナの顔が怖い。何か勢い余ってストーカーされそうな気がする。


「アぁキぃちゃぁ~ん!」


 案の定、後ろからアリアの威圧感が高まった。


「あ、アリア……これは」

「何で次から次へと女を堕とすのかなぁ?」

「違うんだ、俺は大真面目にだな」


 俺たちのやり取りを見ていたアルテナが笑った。


「ふふっ、うふふふっ」

「アルテナ?」

「う、嬉しいのです。アキしゃんのような人族がいてくれて」


 俺に笑顔を見せてくれたアルテナは、続いてアリアの方を向く。


「アリアしゃんもありがとです。魔族と人族……決して交わらないと思っていました。でも、お二人を見ていると、私にも希望が持てる気がしてきます」


「アルテナちゃん……」


 アリアとアルテナが見つめ合う。同じ魔族同士で通じ合うものがあるのだろう。


「あと、ママって呼んでもいいれすか?」

「え、嫌だけど」

「あわわ、ご、ごめんなしゃい」

「ママなんて歳じゃないのよ。アキちゃんにならママプレイするけどぉ」


 せっかく良い雰囲気だったのに、アリアが『ママ』でキレそうだ。眉間の辺りがピクピクしている。

 ママプレイは少し気になるのだが。


「はぁ……争いが終わったらアリアしゃんに魔王の座を譲ろうとしたのに……もう誰か代わってぇ」


 アルテナが変なつぶやきをした気がする。まあ、重要なことではないだろう。スルーするに限るぜ。


 ◆ ◇ ◆




 誤解も解けたことで、俺が暴れた……帝国軍といざこざがあったのは不問になった。


 そして魔王軍との決戦だが―――

 このまま戦闘経験に乏しい騎士を中心とした大軍による遠征では、計画していたより多くの犠牲が出る予測もあり、少数精鋭に選りすぐったメンバーを同行させることになった。


 帝国軍からは、第一軍銀獅子騎士団団長アーサー・エルトマン、第二軍銀虎騎士団団長ゲオルク・シュターデン、第三軍銀翼騎士団団長ハインツ・ランベルトが。


 王国からは、ウィンラスター公爵子息ジョージ(ジェフリー)と御付きの女冒険者三名が。

 因みに女冒険者だが、いつも紋章を掲げている気が強そうなのが魔法使いのステイシー、説明好きなのが女神官プリーステスのカーラ、無口なのが忍者のロザリーというらしい。



 ジェフリーは相変わらずだ。キザな顔して俺に話しかけてきた。


「やあ、久しぶりだね。アキ」

「そんなに経ってないだろ」

「ふふっ、あれから更に仲間が増えたみたいだね」


 ジェフリーはクロたちを眺めながら視線を俺に戻す。


「やっぱりキミは凄いな。これも勇者の人徳か」

「そんなもんじゃないよ。偶然というか成り行きというか」

「それもキミのスキルってもんさ。強い女にお仕置……好まれるってさ。フォォーッ!」

「おい、今お仕置って言っただろ」


 何故か強い女が寄ってくるのは自分でも薄々気付いているのだが。




 勇者パーティーと帝国王国連合軍の出発に際し、ヘイムダル帝国第一皇子カール・グスタフ・アーサヘイム殿下と、ジェフリーたち先発隊に追いついたアストリア王国エゼルリード・ガウザー陛下が並び挨拶することになった。


「此度の戦は世界の命運を賭けたものになるだろう。人々の願いはそなたらの双肩にかかっておる。我ら帝国王国連合軍は、ここで最終防衛線をしき守っておる故、存分に戦ってくるが良い!」


 カール殿下に続き、エゼルリード陛下も声を上げる。


「世界の存亡はそなたらに託された! 見事、魔王を倒し平和を実現すること期待しておる!」


「「「はっ!」」」


 そこにいる全員が平伏する……いや、数名していないが。


 ただ、俺にはどうしても言わなくてはならないことが有った。

 一人、立ち上がり口を開いた。


「一言よろしいでしょうか」

「おい貴様! 殿下の前で無礼であるぞ!」


 案の定、獅子の刻印がある甲冑の騎士団長が突っかかってきた。確かアーサー・エルトマンとかいったか。


「よい、申してみよ。勇者アキよ」


 許可が出たので遠慮なく言う。許可が無くても言うつもりだったが。


「今回の戦争で、帝国に住む魔族は強制収容所送りになったと聞きました。何か犯罪を犯した者ならば致し方ありませんが、善良に暮らしている魔族まで不当な扱いを受けるのには納得できません!」


 皇族に対するぶしつけな発言に、周囲の兵士たちが息をのむ。

 だが、カール殿下は静かに答えてくれた。


「うむ、問題は重々承知しておる。戦時故、緊急の策である」


 俺は静かだがハッキリと言い放った。


「忘れないでください。俺たちの勇者パーティーには、魔族もいるという事実を。平和を望むのに種族の違いはないということを」


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