第92話 永遠にして真理、最強にして無敵
今、俺の眼前には、カツカレーを今か今かと待ちわびるシロとクロの姿があった。早く作らねば食い殺すと言わんばかりのテンションだ。
「ほれ、早くせぬか! 我は待ちくたびれたぞ」
金属製のスプーンを持ったシロが催促する。
その横には面白がっているクロの姿もあった。
「そうじゃぞ、アキ。早く作らねば、わらわが食うてしまうぞ」
この自称数千歳なのに子供みたいな二人を前に、俺は黙々とスキルで料理を作るしかなかった。
「ど、どうしてこんなことに……」
時間は少し遡る――――
クロたちの協力を得て、魔王軍、帝国軍、双方を止める為に出発することになった俺たちは、さっそくジールに乗ろうとした。
「そういう訳でジール、頼むぞ」
「ああ、私に任せろ! この上位竜のジールにな」
自信満々な顔でそう宣言したジールは、突然服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと待て! 何故裸になる?」
真っ先にスカートを下ろしたジールに問いかける。パンツが可愛い柄なのが気になって仕方がない。
「そんなの決まっておる! 竜化したら服が破けるだろ」
「た、確かに……」
いや、俺が言いたいのはそういうことではない。
「待て、シロさんは魔法で服を生み出していたぞ。ジールも、パパッと服を再現すればどうだ」
「そんな魔法は知らん! 私は戦闘特化の
戦闘特化型らしいのに、一度も勝った場面を見ていない気がする。
見たのは俺に拘束されて『くっころ』発言したのと、デコピンされてパンツ丸見えになったのだけだ。
「くっ、皆の前で私を脱がせるとか、貴様は本当に鬼畜な男だな! 羞恥に身悶える私を見て喜んでいるのか! この変態めっ! だが、それが良い!」
ジールが何か言っているが俺はスルーして後ろを向く。ヘンタイさんに付き合っていたらお姉さんたちの嫉妬が爆発してしまうのだ。
ズドドドドドドドドドドドド――――
こうして巨大なドラゴンに変化したジールに乗り、俺たちは国境付近の渓谷まで戻ることになった――はずなのだが……。
目立たないよう木々の合間を縫うように飛行して数刻、まだ食事には早いはずなのに、シロが腹が減ったと抜かし始めた。
「これ、アキよ、早くカツカレーを作らぬか!」
「くっ、苦しいっ! 首を絞めるな!」
「我は空腹である!」
「お、落ちる! 空飛んでるのに危ないって!」
ジールの背中でドタバタと騒ぎになり、危険なので昼食となったのだ。
そして今に至る――――
「はい、完成です。ジャンボエビフライ付き特製カツカレーです」
そう言って皆の目の前に山盛りのカレーを並べてゆく。前回のよりアレンジを加えたスペシャリテだ。
分厚いロースカツは、表面はザクザクの
カレーはタマネギを飴色に炒めて甘みとコクを出し、十二種類のスパイスを混ぜ合わせた特製だ。
ホカホカご飯が隠れるくらい大きいカツとエビフライを乗せ、その上からたっぷりとカレーをかけた。
アキ特製カレーの完成である。
「ふおおおおっ! おおおおっ! こ、これは想像以上であるぞ! 食欲を誘う調合された香辛料の香りと、絶妙な色と米に絡むとろみ。こんな料理は帝都アースヴェルでも見たことがないぞ!」
興奮気味に話すシロが、さっそくスプーンでカレーをすくった。待ちきれんとばかりに。
「はむっ、はむっ……うむっ、今回のカレーも絶品じゃ! アキよ、褒めて遣わすぞ」
クロはもう食べていた。
「俺の専業主夫スキルって、ずっとハズレスキルだと言われ続けてきたけど……。何だか最近は強者女性に必要とされている気がしてきたぞ」
そんな俺のつぶやきに、シーラからお叱りが入る。
「あんた今頃になって気付いたの? ほんとアキって鈍感なんだから。どうすんのよ、こんなに色んな女をはべらせて!」
「はべらせているつもりは全く無いぞ。むしろお仕置きされているのだが」
その証拠に、さっきからレイティアとアリアの視線が怖い。
「アキ君……次々と女を……。ボクも本気出さないと」
「アキちゃん♡ もっとキツい調教が必要なのね♡」
怖い発言が聞えたので聞こえなかったフリをする。
その後、再びジールに乗って飛行し国境線付近まで戻ったが、日が暮れてきたので野営することになった。
◆ ◇ ◆
テントの中に寝た俺を囲むように、レイティアとアリアに両側からギュッと抱きしめられ、腹の上にはシーラが乗っている。
そう、皆がシロやクロを警戒して俺の貞操を添い寝しながら守っているのだ。
ついでにジールも一緒だが、スルーし続けたらふて寝してしまった。
「くっ、キツい……。健全な男子にはキツ過ぎる……。貞操を守りたいのか破りたいのかどっちなんだ。もう限界だぁああ!」
柔らかなお姉さんたちの体と匂いと体温を感じながら寝返りを打とうとした時、それは起こった。
シュピィィィィーン!
「えっ? な、何だ……これ?」
周囲の空間に何かの違和感を感じたと思った瞬間、外から聞こえていた川のせせらぎや虫の声が聞えなくなった。
完全な静寂である。
「おい、レイティア! アリアお姉さん! シーラ! ダメだ、動かない……」
皆の肩を揺すってみたが、ピクリとも動かない。まるで時間が止まったように。
「これは……まさか時間停止魔法? こんな超高位魔法を使える人なんて伝説級魔法使いくらいでは?」
俺の脳裏に一つの考えが浮かんだが、すぐにそれを消し去る。俺が動けているからだ。
「ま、まさか魔王の襲来……かと思ったが、俺だけ動けるのはおかしい。一体どうなってるんだ?」
「魔王ではないぞ。我の仕業である」
俺の独り言に答えるように、テントの外からシロの声が聞えた。
「は? シロさん? 何で……」
「何でと言われてもな。アキの周りには常に女が引っ付いておるからである」
「くっ、確かに……じゃなくて! 何で時間停止を」
テントを開け外を覗くと、そこには静寂に包まれた闇の中で白夜の太陽のように輝くシロの姿があった。
「シロ……さん、あんたは何者なんだ? ま、まさか、竜お――」
「それ以上言うな。我の正体がバレては面白くないのでな」
「お、面白い? 人知を超えた存在様は悠長なことで」
「ふむ、何とでも言え。我は森羅万象を司るバランスブレイカー」
シロが空中に浮いている。もう何でもありかよ。
「永遠にして真理、最強にして無敵、それ故に暇なのだ。この永遠にも等しい時の中で、くだらぬ人の争いを眺めるしかやることがない。我が干渉しては世界が改変してしまうからな」
「それが、何で俺に……」
「最強と最強が衝突すれば世界が滅ぶ。我ら四柱は東西南北に散り互いに干渉しない盟約を結んだ。しかし……もうそのような古臭い慣習など意味は無いのではと思うたのである。暇ならば面白いことを、新たなる美食をと」
「俺には分からないな。そんな神様みたいな達観した思考なんて」
「まあ、クロとアオのように仲が悪い者もおれば、アカのように南に行ったきり消息不明で神のように祀られてしもうた者もおるのでな。だが、我は刺激が欲しい。美味なる料理と美味そうな男である」
ググググググググ――
体が勝手に動きシロの前まで移動させられた。
「アキは面白い男であるな。ふむ、スキル専業主夫とな。クロが何やらしておるようだ。どれ、我も一枚嚙むとするか」
「お、おい、まさか……」
クロが俺を抱きしめる。
体が動かず全く抵抗できない。
「おい、やめろ! 俺は浮気しないぞ!」
「ふふふっ、
「ぐああああ! 俺は裏切らない! 絶対童貞を守る!」
「かぷっ!」
「は?」
本当に噛まれた。首筋をカプっと甘噛みで。噛むの意味が違うぞ。
「ついでに舐めておくか。ペロペロペロ」
「うっわぁああ! やめろぉおおおお!」
「楽しみである。これで我の因子も組み入れた。さて、どうなるか」
そこで急速に意識が遠のいてゆく。
◆ ◇ ◆
チュンチュンチュン――
小鳥のさえずりと共に目が覚めた。いつものアレである。
「はっ! ま、待て待て、嫁属性も増えてないしスキル覚醒もしてないぞ。夢……だったのか?」
両側にはレイティアとアリアが寝ている。腹の上ではシーラが幸せそうな寝顔だ。
「やっぱり夢だったのか。そうだ、そうに違いない」
自分に言い聞かせていると、皆が目を覚ました。
「んん~っ、朝ぁ♡ おはようアキちゃん」
「おはようございます。アリアお姉さん」
「クンクンクン……アキちゃん、他の女の匂いがする」
「夢じゃなかった!?」
「アぁ~キぃ~ちゃ~ん!」
アリアの目が怖くなる。
「アキ君、もしかしてまた……」
「アキっ! アタシが目を離した隙に……」
レイティアもシーラもジト目だ。
「そうか、まだ夢の中なのか!」
むぎゅぅぅぅぅーっ♡♡♡
「この柔らかさ、夢じゃないっ!」
こうして俺は、朝っぱらからお仕置きという名のマッサージをされるのだった。
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