第91話 人魔大戦勃発

 突拍子もない話でその場の空気が張り詰めた。百年以上続いた平和が、ある日突然壊れるなんて誰が想像できようか。

 俺は真偽を確かめようとシロを問いただす。


「宣戦布告だと!? 帝国軍兵力十万人? それじゃもう戦争は始まってるじゃないか! 何でシロさんは知っているんだ」


 俺たちが魔族領域を調査中に戦争が勃発するなど思いもしなかった。律儀に宣戦布告を通達する魔王軍にもビックリだが。


 シロは笑みを浮かべると、静かに口を開いた。


「それは我が帝都の宮殿で暇を持て余しておったからだ。ちょうどその時、面白い情報が入ってきたのでな」


「面白い? 戦争が起きれば多くの人が犠牲になるんだ。面白いはないだろ」


「うむ、人の感覚ではそうかもしれぬな。数千年を生きる我には、人の歴史など戦争の歴史にしか見えぬが。それに――」


 そこでシロは俺の目を見てニヤリとする。


「噂に聞いていた、帝国騎士の調査隊を一人で倒した男に会ってみたかったのでな。まあ、一緒に行動している黒髪の女にも興味があるが。旧知の仲なのでな」


「えっ、帝国騎士を倒したって……もしかして俺のこと? あれっ、シロさんが来たのって……」


 背中に冷たいものが走った。


「も、もしかして……俺がやらかしたのか?」

「やらかしまくりよ、アキっ!」

「やらかしておるな、アキよ」

「いつもやらかしておるのか、アキ?」


 いつものシーラのツッコみに続いて、クロとシロにまでツッコまれた。

 最近ツッコミ役のジールは、まだパンツ丸出しで寝ているのだが。早く誰か起こしてあげて。


「ああっ、またやらかして女性問題が……。い、いや、今は俺のことはどうでもいい。それより戦争だ。何で魔王軍は宣戦布告を?」


 俺の質問を、シロは真面目な顔したまま答える。とんでもない理由を。


「何でも此度こたびの開戦理由は、人族の男が魔王の処女を奪った件らしいぞ」

「「「は?」」」


 余りの意味不明な理由に、その場の全員が固まった。いや、ただ一人ワナワナと震えている者がいるのだが。


「わ、わわ、私は処女でしゅううっ!」


 何故かアルテナが処女アピールをした。それは誰に対するアピールなのだ。

 いや、当の本人は失言したとばかりに口を押えているのだが。


「ししし、しまったぁああ……」

「あ、そうなんだ……。まあアルテナが処女なのは見れば分かるから」

「ええっ、何故に」

「いや、何となく……」


 ボサボサの髪とかコミュ障っぽい雰囲気とか、見るからに喪女なのだが、そこは彼女を傷付けないよう黙っておき、話を進める。


「待て待て、処女の問題じゃなくて。そうだよ、開戦理由はデタラメだろ。絶大な魔力を持つ魔王の処女を奪える人族なんているわけないだろ。そもそも人族は新魔王が誰なのかも知らないんだぞ」


 一刻も早く戻りたいのに、クロが俺の肩に腕を回す。


「であろうな。魔王軍にとって開戦理由など意味は無いのじゃ。あの者どもは暴れられれば何でも良いのじゃからな。先の大戦での屈辱を晴らすのだと言っておったわ」


「そんな……大戦で敗北した雪辱を晴らしたいのかもしれないけど、その一部の魔族の暴挙で、アリアのように人族と一緒に暮らす魔族がどれだけ迷惑するか……」


 グッ!

 強く拳を握る。


(そうだ、あのレストランで高齢の客に罵倒されたように……。いつも被害を受けるのはアリアのような弱い立場の魔族なんだ。辺境伯アレクシスの時のように、ノワールのような子供が酷い目に遭うんだ)


「アキちゃん……」


 アリアが俺の背中にそっと手を置いた。


「ならばそなたが勇者となって帝国軍を説得すれば良かろう。魔王は自分が倒すのだと」


 クロが突拍子もないことを言う。


「は? 俺は勇者なんかじゃないぞ。ただの支援職サポーターだ。とても勇者のような偉大な人物になんかなれないよ」


「アキよ、勇者とは何じゃ?」


「そりゃ、誰も成し遂げられない偉業を達成した伝説の戦士だろ」


「その者は生まれつき勇者であったのか? 違うであろう。誰しも勇者として生まれたのではない。確かに特別なスキルや力を持っておるのだろうが、研鑽けんさんを積み技を極め冒険の果てに偉業を成し遂げたのじゃ」


(クロは何を言っているんだ? 俺が勇者になれと言いたいのか? 確かに俺は強くなった。でも、俺は勇者なんて器じゃない。俺は静かにスローライフがしたいだけの男なんだ……)


「俺は世界の行く末になんて興味はない。戦争に勝利し英雄になりたい訳でもない……。勇者になりたいわけじゃない。でも、俺は守りたいんだ! 大好きな人を!」


 きゅぅぅぅぅーん♡♡♡

 後ろから皆のハートが鳴っている気がする。


「良いではないか。好きな女を守る。それも立派な理由じゃ。面白い男のそなたじゃ。世界より好きな女子おなごを優先しそうではあるがな。ふふふっ」


 心から楽しそうな顔でクロが笑った。


「それに本物か偽物かなど些末さまつなことじゃ。例え偽物であろうが、人が本物だと思えば本物になるものじゃ。そなたが好いた女子おなごを守り通す覚悟があればじゃがな」


「当然だ。俺は大好きな女を守るぜ! 一生大切にするんだ!」


 きゅん♡ きゅん♡ きゅん♡

 きゅぅぅぅぅぅぅーん♡♡♡


 さっきから後ろで変な音が鳴っている気がする。

 振り向くとそこには、デレッデレになったレイティアとドロデレ顔のアリアと、耳も頬も真っ赤になったシーラがいた。


「あれ? また俺がやらかしたのか?」


 いつものツッコみが返ってくるかと思ったが、予想とは違うようだ。


「あうぅ♡ アキくんのばかぁ♡ 皆の前で恥ずかしいよぉ♡」

「アキちゃん♡ アキちゃん♡ アキちゃん♡ もう一生離れないからぁ♡」

「アキっ! い、いい加減にしなさいよね! ま、まあ、アキがやらかすのは想定内だし♡」


 予想外ではなく想定内らしい。


「よし、今から国境線の渓谷まで戻って帝国軍を止めよう。そして魔王軍の先陣であるモンスターを倒して戦争を止めるんだ!」


 ただ、これには問題がある。俺たち閃光姫ライトニングプリンセスの四人……いや五人では無理だ。滅茶苦茶強いクロやアルテナの力が必要だろう。


「クロさん、お願いがあるのだけど」


 クロは、俺が言うまでもないといった顔をしている。


「分かっておる。わらわは直接戦うことはできぬが、助力するのは可能じゃ。そなたとの賭けもあるしの」


「賭け……あっ、あれは夢じゃなかったのか」


 みっちり密着されたまま一夜を共にしたのを思い出す。


(マズい……。クロと添い寝したのが皆にバレると恐ろしいお仕置きが……。そ、それより加護が反転して呪いに。もしかして、嫁属性を増やすと呪いの危険性が増すのでは? ギリギリの綱渡り状態になるのでは?)


 そんな俺の心配を他所に、クロはシロの首に腕を回し微笑む。


「ほれ、シロも協力するのじゃ」

「我が協力する義理など無い」

「カツカレーの為じゃ」

「うむ、カツカレーなら仕方がない」


 そんな理由で良いのだろうか。



「よし、すぐに国境線まで戻ろう」

「アキ君、ここからだと何日もかかるよ」


 レイティアの疑問は当然だ。だが、俺たちには秘密兵器がいる。


「ジールに乗れば一っ飛びだろ」

「あっ、そうか!」


 さっそく俺は地べたで寝ているジールを起こす。まったく呑気な女騎士だ。


 ゆさゆさゆさ――

「おい、ジール、しっかりしろ」


 ジールを優しく抱き起こすと、彼女は俺の腕の中で薄っすらと目を開けた。


「んんっ……あ、あれ、私は……」

「気を失ってたんだぞ」

「そうなのか……」

「もっと自分を大事にしろよ、ジール。お前の体はお前だけのものじゃないんだからな」

「そ、それは……どういう♡」

「言葉の意味のままだ」


 きゅん♡ きゅん♡


(よし、ジールも無事だから安心したぞ。これで一気に空を飛んで戻れるな)


「ううっ♡ そ、そうか、私の体は私だけじゃなくアキのモノ♡ そして、やがて生まれる二人の愛の結晶である子供のものでもあるのか……」


(まったくジールはしょうがないな。無鉄砲に飛び掛かって何かあったらどうするんだ。ドラゴンに変化して飛べなくなっちゃうだろ)


「くううっ♡ 貴様は罪な男だな。姫様の婚約者でありながら、こんなにも私の心を掻き乱すとは♡ もう貴様にはどんな変態プレイも見せてしまいそうだ……」


「おい、ジール。どうかしたか? ぶつぶつ独り言をつぶやいてるけど」


「な、何でもない、何でもないぞ」


 こうして俺たちは戦争を止める為に行動を開始した。大好きなお姉ちゃんとイチャコラスローライフしたいという不純な動機ではあるが。


「よし、皆、クロさん、シロさん、アルテナ、皆で一緒に魔王を倒そう!」

「「「おおおーっ!」」」


 一人アルテナだけ顔が青い。


「あわわわ、あわわわわぁ。もうおしまいれすぅ」


 俺は、挙動不審なジールも、ニヤニヤ妖しげな笑みを浮かべるクロとシロも、さっきから変なアルテナも、全て華麗にスルーした。

 そう、女性問題はスルーするのが最善なのだ。






 ――――――――――――――――


 遂に魔王軍との激突だ!

 若干楽しんでいるだけのクロとシロが不安だけど。

 あとアルテナはどうしたんだ?


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