第69話 破壊神の面目躍如

「ぐおぉおおおおっ! 各パラメーターの凄い上昇だ! な、何だこれは!」


 三連続で特級魔法を使ってみたが、想像を絶する強さだった。いったいスキル専業主夫とは何なのか。


「それはこっちのセリフだ! 何だこれは!」

「お、おお、お前は何者だ!」


 門番の兵士は腰を抜かしている。突然キャベツの中からアークデーモンのような異形の甲冑戦士が現れたのだから無理もない。


「曲者だ!」

「例の冒険者か!」

「ひっ捕らえろ!」


 城の周囲を守っていた兵士たちが一斉に襲い掛かってきた。


 コォォォォォォォォォ!


「俺は、俺は、俺は大切な仲間を守る支援役サポーターだ!」


 三人を抱きかかえる。


「アキ君っ、強引だよぉ♡」

「ちょっとアキ! また暴走気味だしぃ」

「アキちゃんとキャベツ畑ぇ♡」


 暴走しているようで暴走ではない。もうこれが通常モードである。


【防御魔法・精霊の七層盾ロードエレメンタル

 キュワァァァァーン!


 防御障壁プロテクションの上位バージョンだろうか。俺の前方に七枚の光の壁が張り巡らされた。


「この防御魔法は自在に形を変えられるぞ! これなら戦闘スキルの無い俺でも武器に利用できる!」


 祝福の剣ブレッシングソードを抜くと、その切先に魔力を載せる。

 魔法伝導率が極めて高い剣ならば、俺のスキルを思うがままに扱えるのだ。


 ギュワァァァァーン!


 七枚の光の盾が円錐えんすい状に変形する。まるで巨大な槍のように。


「うっおぉおおおおおお! くらえ、七層精霊槍だぁああああ!」


 巨大な光の槍で地面を薙ぐ。

 ボコボコボコボコボコボコボコボコ!


「「「うわああああああぁああああっ!」」」


 次々と兵士たちが転倒し跳ね飛ばされ転がってゆく。槍で正門前を半周させただけで数百人が戦意喪失した。


「よし、城内に突入しよう! レイティア」

「うんっ、アキ君と一緒で力が満ちてくるよ」

「よし、正門を破ってくれ」

「よしきた、あとお姉ちゃんだぞ」


 俺に密着したままレイティアの青竜騎士の剣ナイトオブゲリュオンが衝撃波を放つ。


「アキ君と一緒で元気二百万倍! 竜撃斬ドラゴニックスラッシュ! どっせぇええええぇい!」


 ズガガガガガガァァーン!


 竜撃斬ドラゴニックスラッシュが正門の分厚い扉を、まるで紙細工のようにぶった切る。相変わらず凄い破壊力だ。


「突入っ!」

「「「おおおおっ!」」」


 城内に突入するも大軍によって進路を遮られる。


「取り押さえろ!」

「青髪の女以外は傷つけても構わぬ!」

「おい、何だアレは!」

「うわぁああああ! アークデーモンだ!」


 襲い掛かってくる兵士たちが、俺の姿を見て驚きおののく。魔王軍襲来とでも思っているのか。


「アクセラレーター!」


 周囲の兵士たちの動きがスローモーションになる。俺が思考加速しているのだ。


(これがアクセラレーターか。敵の動きが遅い。いや、俺の思考と動きが加速しているのか。これなら大魔法の呪文詠唱を一瞬で唱えられるよな。まあ、俺は攻撃魔法が無いけど)


 攻撃魔法は無いが防御魔法は有る。


「くらえ七層精霊槍を!」


 ズダダダダダダダダダ! ドタドタドタドタ!

「「「うっわぁああああああ!」」」


 高次元魔法防御障壁の巨大な槍で兵士たちを吹き飛ばしてゆく。ちょっと可哀想だが、飛んでくる火の粉は払わねばなるまい。


 ズガガガガッ! ボコボコボコボコボコ!

「「「あがぁああああああ!」」」」


 大軍の先にある城のテラスにグロスフォード辺境伯アレクシス・バールデンの姿が見える。

 何かを叫んでいるようだ。


 キュィィィィーン!

 思考加速アクセラレーターを元に戻した。


「な、なな、なんだ貴様は! に、人間じゃないのか! おのれ、まさか魔族の戦士だったとは。我が魔族奴隷を売りさばいておるのを恨んでおったな!」


 魔族認定されてしまった。俺は嫁属性を受けた専業主夫なのに。


「あそこか、アレクシス! コォォォォ」


 城の中庭から屋敷のテラスまでは距離がある。


「アタシに任せなさい!」


 俺の背中に乗っているシーラが声を上げた。やる気満々だ。


「狙えるのか?」

「勿論よ! アタシ、魔法には自信があるんだから」


 若干じゃっかん不安な気もするがシーラに任せてみよう。


「よし、狙ってくれ」

「分かったわ」


 シーラが魔法の詠唱に入る。


「闇より深き漆黒の、光より輝く日輪の、其は精霊王の奇跡! 天地を貫く一閃の雷よ、鉄槌となり敵を滅ぼせ!」


(ん? 何かヤバくないか? これ、ヤバい大魔法だろ?)


 俺が止めようとした時は、もう遅かった。


「くらいなさい! 雷神の一閃ユピテルハンマー!」


 ピカッ!

 ズドドドドドドドドドドドドォォォォーン!


「「「ぐあぁああああああ!」」」


 その場にいる全ての者が驚愕した。天から巨大な爆雷が降ってきたのだから。

 その一閃は屋敷の隣にあった建物に命中した。一瞬の閃光の後に、轟音を立てて建物は吹き飛んだ。


「えっ、外れた? いや、外れて助かったぞ。アレクシスに命中してたら、影も残さず消滅してたかもな……」


 俺のつぶやきにも、シーラは平然と答えている。


「わざと外したんだし。アタシだって辺境伯を殺したらマズいのくらい分かってるわよ。ちょっと大魔法で良いとこ見せたかったの」


 やはり戦闘ではシーラが一番危険人物かもしれない。良いとこ見せたくて色々破壊されたら大迷惑だ。


 皆が茫然とする中、突然アレクシスが絶叫した。


「うぎゃぁああああああああああああああ! わ、我の宝物庫がぁあああああああ! あ、あああ、あの中には金貨と宝石が……厳重な耐震耐火金庫が……跡形もなく消し去っただとぉおおおおおお!」


 マズい、どうやら辺境伯の資産を吹き飛ばしたらしい。


「破産だ、完全に破産だ! ああああ」


 打ちひしがれるアレクシスの隣に、アマンダまで現れた。


「何事ですか、今の爆発は!」

「あああ……我の宝物庫が……」

「えっ…………」


 宝物庫の有った場所を見たアマンダが絶叫する。


「いっやぁああああああああああああああ! わたくしの宝石が! 高級ドレスが! 世界各地から集めさせた金銀財宝がぁああああああ!」


 ガラガラガラガラ!


 最後のトドメを刺すように、宝物庫だった壁の一部が崩れ去る。もうそこには瓦礫しか残っていない。


「あ、あれ、どうしよう……アキ」


 魔法を撃った張本人のシーラが戸惑っている。予想以上に威力が大きかったかもしれない。

 まあ、破壊神の面目躍如だ。


「えっと、これは事故だな。知らなかったフリをしよう」

「そ、そうね。事故ね」

「うん、そうしよう」


 後が怖そうだが知らないことにした。辺境伯の悪事を暴いた功績でチャラにしてもらおう。


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